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23話 黒うさぎのちびの回想 ③

 翌朝。

 黒うさぎのちびはもぞもぞしながら、布団代わりにていた膝かけから顔を出した。

 ひんやりした空気が顔に当たって気持ちいいと感じた。

 一人になってからは不安と緊張で常に気を張っていたので、昨日の夜は久しぶりによく眠れた。

 背中をそらして脚をうーんと伸ばしていると視線を感じた。


『!』


 気持ちよく体を伸ばしているところをランスディールという人間に見られた。

 黒うさぎの王に雰囲気が少し似ている人間で誰かと会話をしているときは穏やかな表情をしている。

 剣を持っているが『悪い冒険者』のような外見的な怖さはない。


「――――」


(な、なんか言ってる。え、わからない。ど、どうしよう⁉)


 ランスディールは昨日と変わらぬ穏やかな表情だった。

 こっちに向かって何か言っているが、人間の言葉がわからない黒うさぎのちびは困惑した。


『ランスがおはようって言ってる。よく眠れたかって聞いてる』


 ひざ掛けから顔を出したラミィが通訳して教えてくれた。


『う、うん』


 救世主のように間に入ってくれたラミィに黒うさぎのちびは感謝した。

 素直に頷くと、ラミィは金色の角を光らせてランスディールに念話を送った。


 黒うさぎのちびは昨夜と同じように、温かい水と温かいお粥と果物を受け取った。

 食べ終えた後は、ランスディールとカーリージェリーが火の始末や身支度を整えているのを見ていた。


(僕、これからどうしよう……。影のポケットに入れた木の実や果物ほとんどない)


 助けてもらったのはいいが、これからどう生きていけばいいのか途方に暮れる。

 ここの森は人間がたくさんいる場所だとラミィが教えてくれた。

 ここの森なら人間、里やそびえ立つ崖の近くなら魔獣がいる。

 どちらにしても黒うさぎのちびにとっては天敵で、一人で生きていく自信はもてない。


(この人たちどこに行くんだろう)


 黒うさぎのちびにとって幸運だったのは同胞のラミィがいたことだ。

 人間だけしかいなかったらもっと頭も心も混乱していただろう。

 逃げるか鳴いて暴れるかで、こんなに落ち着いて人間を観察などできない。


(ラミィ。こっちにこないかな)


 ラミィはランスディールの近くにいて声をかけにくい。

 カーリージェリーという大剣を軽々ともっていた人間にはとてもじゃないが怖くて近寄れない。

 勇気が持てない。

 悩んでいると、ランスディールが近づいてきてしゃがみ、手を差し伸のべてきた。


「――――」

『ランスとラミィ、これから里に帰る。一緒に行こうって言ってる。里のみんな仲良くしてくれる』


 ラミィから目的地を伝えられた黒うさぎのちびは戸惑った。


(本当に? 行っても大丈夫?)


 自分たちは何もしていないのに、突然巨大な狼型の魔獣に住処を荒らされた。

 自分がきたことで、あの時のように巨大な狼型の魔獣に狙われて現れたら?

 そうしたら、白うさぎの同胞に迷惑をかけてしまう。

 期待と不安が波のように押し寄せては引いて、一歩が踏み出せない。

 黒うさぎのちびはランスディールの顔と手を交互に見て――見つめ合う形になり、数分間の沈黙が流れる。


『ランス強い! 大丈夫、守ってくれる!』


 二人の様子をそばで見ていたラミィが金色の角を力強く光らせた。

 どうやらラミィは黒うさぎのちびがまた魔獣に襲われたときのことを考えていて、不安になっていると思い込んでいるようだ。

 ランスディールとカーリージェリーが強いのは昨日見てわかった。

 守ってくれるのは嬉しいが、それと同じくらい黒うさぎのちびが抱えている問題がある。


『うん。それは大丈夫だって思ってる。あのね、僕、一人でずっと逃げてた。もう一人は嫌なんだ』


 黒うさぎのちびの目が潤んで、漆黒の角が淡く光かった。

 一人で過ごしてきた日々は怖くて寂しかった。

 もうあんな日々は経験したくない。


『む? 里に行くのは嫌? ……困ったときは全部ランスにやらせればいい! ランス賢い! ランスと一緒にいればいい!』


 ラミィはランスディールの言葉をちゃんと伝えられたと思っている。

 だから、黒うさぎのちびが念話で伝えてきた意味がよくわからなかった。

 ランスディールの母親《契約主》から、困ったときはランスに頼るのよ、任せればいいからと言われているのでそうすることにした。

 ラミィは金色の角力強く光らせて、不安と迷いを抱えている黒うさぎのちびの背中を押す。


 黒うさぎのちびは昨夜の会話を思い出す。

 ランスディールはラミィと一緒に暮らしているから、同胞のことがよくわかる優しい人間だと。

 同胞がいない今、頼れる存在がいない。

 小さくて弱い自分は誰かに頼らないと生きていけない。

 ラミィの言葉を念話で受けた黒うさぎのちびは、とてとてと歩いて、小さい手でランスディールの指先をきゅっと掴んだ。


『守ってくれるの? 一緒にいてもいいの?』


 黒うさぎのちびは角を淡く光らせてランスディールに念話を飛ばした。

 これから先のことを考えると不安しかない。

 朝日に照られた夜空を連想させる青い瞳ですがるようにランスディールを見上げる。


『ランス、守ってくれる? 一緒にいていいかって聞いてる』


 契約していなければ人間との直接の会話は成立しないので、通訳担当のラミィが黒うさぎのちびの代わりにランスディールへ念話を送る。


「――――」


 ラミィからランスディールの返事を聞いた。

 青年の優しい微笑みを見て、不安が晴れた霧のように薄くなっていく。

 黒うさぎのちびはしっかりと頷いた。


「――――」


 ランスディールに抱きしめられて、優しく頭をなでられた。


『⁉』


 黒うさぎのちびは驚いてびくっとしたが、されるがまま大人しくしていた。

 優しくて温かい手が心地よくて目を細めた。


(この人は優しい人間だ)


 会ったばかりでほとんど何も知らない人間だけど、この人は絶対に自分を傷つけることはしないとわかった。

 心がぽかぽかと温かくなって、寂しさが消えていくのを感じた。



 ◇◇◇◇◇◇



『ちび。ラミィとあの人たちが帰ってきたよ』

『!』


 白うさぎの獣人から嬉しい知らせを受けて、黒うさぎのちびは白うさぎの里の入り口へ駆けていく。

 数時間離れていただけなのに凄く寂しかった。

 黒うさぎのちびは預かった懐中時計を落とさないようにぎゅっと握りしめる。

 教えてくれた通り、里の入口付近でラミィたちが立っている。


(約束通り帰ってきた!)


 そこには、白金髪をもつ優しい人がいた。

 その人の姿が視界にはいった瞬間、黒うさぎのちびは嬉しくて自然と口角が上がった。

 小さい手と足を一生懸命に動かし、駆けて、駆けて、真っ直ぐに向かう。

 白金髪をもつ優しい人は黒うさぎのちびに気がついて笑った。

 膝を折って、黒うさぎのちびを迎える姿勢をとった。


 黒うさぎのちびは漆黒の角を光らせてその胸に飛び込んだ。




回想はここで一度終わります。

次回話作成中です。しばらくお待ちください。


お読みいただきありがとうございました。

沢山の作品がある中で、自分の作品を読んでくださった方がいると思うと、とても嬉しいです。

とても励みになります!

今後もよろしくお願いします!


高評価、いいね、ブックマークよろしくお願いします!


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