22話 黒うさぎのちびの回想 ②
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(人間だ! 『優しい人間』? 『悪い冒険者』?)
白うさぎの獣人が治療魔法で怪我を治してくれたので痛みはなくなった。
最大の危機が去って黒うさぎのちびはほっとしたが、新たな恐怖心が芽生えて体が震える。
「――――――――――」
一人の人間が声をかけてきた。雰囲気が黒うさぎの王に似ている。
ゆっくりと言っているが、何を言っているのかさっぱりわからなかった。
『ランスが怖かったね。大丈夫だよ。君に危害を加えない。約束するよって言ってる』
白うさぎの獣人が金色の角を光らせて教えてくれた。
(僕、助かったんだ……)
祈りが母なる神に届いたのだ。
安堵しているなか、奥にいる人間は大剣を使って、息絶えている狼型の魔獣から前足の爪と牙をとって袋に入れはじめた。
(奥の人もそうなんだよね? でもなんか怖い)
銀色で幅のある刃を軽々と持って、血のりを落とすためにぶんと振った。
背が高く、鍛えられた体格なので、小さいちびにとっては恐怖を与える容姿だった。
けれど、顔つきは怖くなかった。怯えていることが見てわかったのか、奥にいる人間はそこから動かなかった。
黒うさぎのちびは震える体を縮め、朝日に照られた夜空を連想させる青い瞳を潤ませて、雰囲気が黒うさぎの王に似ているほうの人間を見つめる。
この二人は黒うさぎの王と一緒に見た冒険者やそびえ立つ崖に向かっている時に茂みから見た冒険者とも違う。
だから、その言葉をそのまま受け止めて良いのか迷った。
毛色はちがえど、白うさぎは同胞。噓をついているようには見えないが、まだ頭が混乱していて冷静に考えられる余裕がまだない。
『ラミィで、こっちランス! あっちはカーリージェリー。名前教えてってランスが言ってる!』
黒うさぎのちびの心境に気がついていないのか、疑われると思っていないのか、ラミィは順番に指して自己紹介をしてくれた。
『僕はちび。みんなからそう呼ばれてる』
黒うさぎのちびは漆黒の角を光らせて、みんなから都合のいいようにつけられた名前をラミィに念話で教えた。
『ランスがちびって呼んでいいかって聞いてる』
ラミィは金色の角を光らせて通訳してくれた。
黒うさぎのちびは頷いた。
『ランスがどうして『ただの森』にいるのかって聞いてる。ここ、みんながいる森じゃないよ。人間がたくさんうろついている場所』
こんなところで同胞に会うと思っていなかったのだろう。
通訳してくれたラミィは不思議そうに黒うさぎのちびを見ている。
(そうなんだ……。僕、入っちゃいけないところに来ちゃったんだ……)
黒うさぎのちびは、人間は獣と同じくらい大きくて強いと聞かされた。
黒うさぎのちびは黒うさぎの王と『人間がいる森』に行き、色々教えてもらった。
『悪い冒険者』は動物の皮や鎧というものを身に着けてうろうろしているんだよ。
『悪い冒険者』は銀色の長くて光る刃をもって襲ってくるよ。
『悪い冒険者』に捕まると、蹴られたり殴られたりして痛い思いをするよ。
『悪い冒険者』に捕まると二度と里に帰れない。だから人間についていくのは危ないからね。
『人間が住む森』に入ったら、優しそうな人間に助けを求めるんだよ。
(会いたいよ……)
黒うさぎのちびはぽろぽろと涙を流す。
住処を荒らされた里にはもう帰れない。
生きていればまた会えると約束したルルテにも同胞にも会えるのかわからない。
知らず知らずのうちに遠く離れた場所にきてしまい、誰にも頼れない孤独感。
小さい体にはいくつもの悲しい現実と厳しい現実を受け入れる器はなかった。
突然泣き出した黒うさぎのちびにびっくりしたラミィは耳をぴんと立てた。
数秒ほどどうしたらいいのか戸惑いを見せたが、自分の服の袖を黒うさぎのちびの目元までもってきて優しく涙を拭った。
◇◇◇◇◇◇
「――――!」
「――――」
『ジャムううううう!』
(なんか聞こえる)
漆黒の耳で誰かの声を拾い、目を覚ました。
まだ疲れがとれていない瞼を瞬かせると焚き火が見えた。
どうやら横たわって寝ていたらしい。
ぼろぼろの服は夜のひんやりとした空気の防波堤にもならず、黒うさぎのちびの小さい体を冷やした。肌寒さで鳥肌が立った。
今は夜のようでフクロウの鳴き声が聞こえる。
視線を感じて顔を少し上にあげると、ランスディールとカーリージェリーがこっちを見ていた。
(人間!)
黒うさぎのちびはランスディールの外套を敷物代わりにして座り、鍋で沸かした温かい水を受け取って飲んで、温かい粥を少し食べたら寝てしまったのだと思い出した。
『ランスが怪我したところ痛くない? 大丈夫かって聞いてる』
『⁉』
黒うさぎのちびはすぐ近くにいたラミィに気がつかず、肩をあげて驚いた。
ラミィは心配そうな顔で金色の角を光らせて念話を送ってきた。
『うん。痛くない。ありがとう』
黒うさぎのちびはラミィにお礼の念話を送った。
さっきからじっと見てくるランスディールとカーリージェリーが気になって、交互に見てうろたえる。
(ルルテは簡単に人間を信用するなって言っていたけど……。ここにいて大丈夫だよね?)
『ランスが魔獣倒したこと覚えてるかって聞いる。ランス、いじめたりしないよ。心配してる』
ラミィは黒うさぎのちびがまだ不安そうにしていることに気がついて、しゃがんで目線を合わせて念話を送る。
黒うさぎのちびはほっとして頷いた。
『ランスがお腹空いているかって聞いてる。おかゆまだあるよ』
(おかゆ? 温かい食べ物のことだっけ? ちょっと食べたいな)
木の実や果物はそのまま常温で食べるので、湯気が出るほどの温かい食べ物は初めてで驚いた。
頷くと、お粥をよそったお皿をラミィは持ってきた。
ラミィは匙でお粥をすくって息を吹きかけて熱を冷まし、黒うさぎのちびの口にもっていく。
(美味しい!)
黒うさぎのちびは小さい口を開いてもぐもぐ食べる。
ラミィからお皿をうけとったとき、匙の使い方がわからないと念話で伝えたらこうなった。
温かい食べ物に口元が綻ぶ。
安心して食事ができる。今まで当たり前だった時間が戻ってきて心も弾んだ。
◇◇◇◇◇◇
『一緒に寝る!』
ラミィが膝掛けをがばっとかけて、くっついてきた。
里の同胞と同じように親しげに誘われた。
毛色は違っても種族が同じなら同胞。
黒うさぎのちびは素直に頷いた。
黒うさぎのちびは里の穴蔵で、隣で寝ていた同胞の温もりを思い出してしまい瞳が潤んだ。
『みんなのこと心配?』
『うん』
『一人、大変だったね』
『うん』
ラミィが労わるように黒うさぎのちびの耳と耳の間を撫でる。
少しくすぐったくて、漆黒の耳がぴくりと動いた。
『ランス、優しい人間だよ。人間会ったのは初めて?』
ラミィから念話で質問されて、黒うさぎのちびは頷く。
『うん。僕、人間に会ったのは初めて』
里を出てからの出来事は黒うさぎのちびにとって初めての事ばかりだ。
生き延びることで精一杯な黒うさぎのちびにとっては、数日前のことも遠い日のことのように感じてしまう。
『ランス、怖い?』
『今は大丈夫……』
大丈夫と返しつつも自信なさげに漆黒の角を光らせた。
怖い印象はもってはいないが、人間との交流がないのできっぱりと断言できるほどの自信がもてない。
『ランスは同胞! 優しい人間だよ! ジャム沢山くれないけど』
ラミィが最後、不満そうに金色の角を光らせた。
『同胞? ジャム?』
人間とほとんど交流をもたない黒うさぎの里では、昔から言い伝えられている話や黒うさぎの王からの教えをそのまま信じている。
今まで人間が同胞という話は聞いたことがなかった。
黒うさぎのちびは困惑して本当にそうなの、とラミィに念話を送り返す。
うん、とラミィが力強く頷いた。
(あの人間は、白うさぎの里では同胞なんだ)
黒うさぎの里には人間はいない。不思議な世界の話を聞いているようだった。
『白うさぎの里で暮らしている人間なの?』
黒うさぎのちびは少しの興味が湧いて聞いた。
『ううん。ランスは人の国で暮らしてる。ラミィも人の国で暮らしてる。ラミィはランスが生まれた時から一緒。だからランスはラミィや里のみんなのことよくわかる人間』
だから『悪い冒険者』とは違う雰囲気だったのかと、黒うさぎのちびは納得した。
『ジャムは林檎とか桃とか果物をお水と白砂糖っていうものと一緒に煮込んだもの。果物がもっと甘くなって美味しい!』
ラミィの金色の角が星のように輝いた。
『!』
黒うさぎのちびは目を瞬いた。
甘い果物はみんな好きだが、林檎が一番好きだ。甘い林檎を食べると幸せな気持ちになる。
『人間の食べ物って温かくて美味しいね』
最初に温かい水を出された時はびっくりした。
器もほんのりと温かくて、手までじんわりと温かくなったのを思い出した。
温かい水は狼型の魔獣に追いかけられて溜まった疲れを癒すように、じわりと体に染み込んだ。
『うん。温かくてみんな美味しい』
ラミィは眠たくなってきたようであくびをした。もう寝ようと黒うさぎのちびに念話を送って瞼を閉じた。
久しぶりに安心して寝られる場所が得られて、黒うさぎのちびもすぐに深い眠りに落ちた。
次回も黒うさぎのちびの回想になります。
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