19話白うさぎの里 ④
お休みしていました。すみません。
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「ラミィ、ご飯の前に着替えて」
川から戻ってきてもラミィの服は濡れていたので、ランスディールはラミィの鞄から予備の服を出して着替えさせる。
ばしゃばしゃと思いっきり川の水を顔にかけていたので、胸元辺りがほとんど濡れていて絞れば水が出てきた。
まったもうと心の中で言いながら、ランスディールは自分の鞄から紐を取り出した。
それから、落ちていた細い小枝を一本拾って、左から右の袖口へ通す。
一本の紐を小枝の両端に結んで、大樹の枝に引っ掛ければ即席の物干し場となった。
「ラミィ。着替え終わった?」
『終わった!』
「ラミィ。次は気をつけてね」
『わかった。ごめんなさい』
ランスディールがたしなめるように言うと、迷惑をかけたことを理解していようで、ラミィは反省の色を見せた。
「じゃあ、ご飯食べようか」
反省しているならまあいいか、黒うさぎのちびのことでは頼っているし、とランスディールは思いながら言った。
すると、さっきまで反省の色を見せていた顔はぱっと消えうせて、ラミィは元気に絨毯まで駆けて行った。
「……」
うわべだけの反省だったのか。
そう聞きたくなるほどの変わりようだった。
だとしたらそんな技一体いつ覚えたのだろうか。
小さい頃、ラミィが姉のように見えていた日々は、実は幻の日々だったのではないか。
ランスディールは、はあと小さいため息を吐いて歩き出した。
ランスディールたちは黒うさぎのちびの里に行くため、すぐに朝食――保存食とわけてもらった果物を絨毯の上で食べていた。
果物は木製の大きい盆に盛られている。
「朝からよく食べるね」
九個目の生の林檎を手に取って食べるラミィを見て、カーリージェリーは驚きを感嘆に混ぜて言った。
大口を開けてかじりつき、むしゃむしゃむしゃむしゃと顎を上下に動かして咀嚼するラミィ。
今日も元気で食欲旺盛である。
「ラミィ。食べ終わったら女王ヴィヴィを呼んできてね」
『わかった!』
そこへ、女王ヴィヴィが金色の角を光らせて『みなおはよう』と挨拶を念話で送ってきた。
金色の角とつけ根にある金属の輪が、朝日に照られて輝いている。
「おはようございます」
「おはようさん」
『おはようございます!』
『お、おはようございます』
それぞれの挨拶を受けて女王ヴィヴィはにこにこしながら頷く。
『ちびよ。昨日はよく眠れたか?』
『は、はい』
まさか自分に声がかかるとは思っていなかったようで、黒うさぎのちびはびくっと、肩が上がった。
ランスディールの隣で林檎を咀嚼している最中だったが、時が止まったかのように固まる。
『そんなに緊張しなくてもよい。自分の里だと思ってゆっくりとするのじゃ』
『ありがとうございます』
優しい心遣いに、黒うさぎのちびの漆黒の角が灯のように淡く光る。口元が緩み食事を再開した。
「あの、女王ヴィヴィ。場所を教えていただけませんか?」
食事を終えたランスディールは支度を整えている手を止めて女王ヴィヴィに懇願した。
ラミィに呼びに行かせようとしていたので探す手間が省いて良かったと思った。
昨日はとぼけられたが今日はなんとか教えてもらうつもりだ。
『本当に行くのか?』
女王ヴィヴィの心配にランスディールは、はいと頷いた。
「人の物ですから。もし、『悪い冒険者』が良からぬことで動いていた場合は報告する必要があります。もしかして、あの魔獣が住み着いている場所ですか?」
『いや、少し離れておる。じゃが、気をつけたほうがよい。協力できなくて悪いの』
女王ヴィヴィは申し訳なさそうに金色の角を光らせた。
魔獣が里に来てからは、同胞が外へ出ることを怖がるようになってしまった。
女王ヴィヴィは里の長として同胞を守る責任がある。
「お気になさらないでください。初めから自分たちだけで行くと決めていましたので」
恐ろしい大型の魔獣がいるとわかっている場所に近づくなど、浅慮と言われてもおかしくない。
できる限り迷惑はかけないようにしますと付け加える。
「昨日は手厚いおもてなし、ありがとうございました」
「ありがとさん」
『よい。気にするな。場所はラミィに教えるぞ。ラミィよ!』
女王ヴィヴィから場所の説明を念話で受け取り、ラミィがうんうんと頷いている近くで、黒うさぎのちびはじっとランスディールを見ていた。
まだ林檎を食べているのだが、手が止っている。
女王ヴィヴィの言葉と、ランスディールの支度で何かを察したようだ。
「ラミィ。ちびに説明して。必ず戻ってくるってちゃんと伝えてね」
ランスディールはそれに気がついて、戻ってきたラミィに念を押す。
『わかった!』
ラミィはこれから情報収集のため里を出ること。調査が終わったら必ず戻ってくることを念話で黒うさぎのちびに伝えた。
『!』
黒うさぎのちびは漆黒の耳をぴんと立てて、ランスディールへ抱きついた。
(ラミィ、ちゃんと説明してくれたんだよね?)
ランスディールはちゃんと言ったんだよねと目でラミィに問うと、『ちゃんと言った!』と返ってきた。
「ちょっと待っててね。すぐ帰ってくるから」
ランスディールは黒うさぎのちびの前で膝立ちし、母親が子供に優しく言い聞かせるように言う。
『!』
黒うさぎのちびは朝日に照られた夜空を連想させる青い瞳を潤ませて、ランスディールに抱き、漆黒の角を光らせた。
『ランス。ちびが行かなで言ってる。危ないって言ってる』
「あの魔獣がいるところには行かないよ。大丈夫。必ず帰ってくるから」
ラミィはランスディールの言葉を念話で黒うさぎのちびへ送ったが、黒うさぎのちびは離れない。
ランスディールはごめんと優しく言って、黒うさぎのちびの肩を掴んで離した。
その瞬間、黒うさぎのちびはランスディールと離れたくなくて、漆黒の角を星のように光らせて鳴いた。
『――――――――――――――――――――――――――――――!』
『!』
「っ!」
「ラミィ、止めて!」
鼓膜が破けそうな高音の悲鳴にも似た鳴き声に、ランスディールとカーリージェリーは耳をふさぐ。
ラミィと女王ヴィヴィは鳴き止むよう念話で必死に伝える。
鳴き止んだ黒うさぎのちびの目から涙がこぼれ落ちた。
ランスディールの服をぎゅっと掴んだまま、凄く不安そうな顔をしてランスディールを見上げる。
女王ヴィヴィが黒うさぎのちびの隣へ行き、金色の角を光らせて説得を試みるが、上手くいかないようだ。ランスディールの服を離さない黒うさぎのちびに困っている。
(見捨てられると思ったのかな?)
ランスディールはふと思いついて、服の中から宝石がはめ込まれた金色の懐中時計を出した。
「ちび」
ランスディールは黒うさぎのちびの手のひらに懐中時計を乗せる。
満月のような丸型で蓋には細工が施されている。蓋の真ん中にはランスディールの瞳に似た色の宝石。
黒うさぎのちびは小さな両手を広げて、ランスディールの瞳に似た色の宝石のお守りをじっと見る。
「ちび。これを預かってくれる? これはね、父から成人したお祝いに貰った贈り物なんだ」
女王ヴィヴィはランスディールの言葉をそのまま、黒うさぎのちびに念話で送った。
『ちち?』
自分たちの里で使わない『ちち』という単語の意味がわかななくて黒うさぎのちびは首をかしげた。
聞き返された女王ヴィヴィが『なんて説明すればよいかのう』とランスディールを見て首をひねる。
「そうですね……。王、でいいと思います。家長ですから。これをくれた人は強くて、立派で私が憧れている人なんだ。その人からお祝いに貰ったものだから無くしたくないんだ。だから、私が帰って来るまで預かって。必ず帰ってくるから」
ランスディールは優しく語りかける。
『うん。わかった』
女王ヴィヴィから送られた念話を受け取った黒うさぎのちびはランスディールを見つめ、漆黒の角を光らせて、こくと頷いた。
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