第45話:翔真と坂本姉妹のバイト中にて(上)
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翔真が坂本姉妹との自己紹介と初の一緒でバイトした日から数日後ーー。
午前・10時00分。 エスパダ第七県第七区の翔真が働くセブンイレブンにて。
今日も翔真はセブンイレブンの店内の会計場にて、立ち竦んで仕事に励んでいた。 と言っても、唯突っ立っているだけで、客も五人程しかいないであるが。
会計場には出入り口側に近いレジに翔真がおり、その隣の奥側にあるレジに坂本姉妹の姉である恵里奈が待機している。因みに妹の璃子は休憩室で休憩をとっている。
「…………」
「…………」
店内ではクーラーが全体に漂い、涼しい空間だ。
そんな中で翔真と恵里奈はその涼しさを感じながら唯々、静かに時間を過ぎで行くのを待つ。
暫くそうしていると、居心地が悪かったのか、隣のレジに待機している恵里奈に翔真は気楽に話しかける。
「なぁ、恵里奈と璃子ってエスパダにはいつ住み始めたんだ?」
と、尋ねてきたのが突然だったため、少しビクッとした後、恵里奈は返した。
「エスパダに住み始めたのは最近」
「へぇ〜。 じゃあエスパダに住み始めた理由とかあるの?」
「ある」
「そう。 もしかして恵里奈と璃子って異能者?」
「うん。 私と璃子は異能者」
「そうなのか。 じゃあ異能学園には通ってたりは?」
エスパダは本来、異能者を育成するため作られた都市の人工島だ。 外からくる人々の5割ぐらいは自分の異能を高めるためか、コントロールするためか、または異能関連に興味を持ってきたか、などの目的を持つ人しかなく、その中には異能者が住みに来る者も珍しくはない。
恵里奈や璃子ぐらいの年齢なら世界トップレベルの異能校である異能学園に通う者が殆どだろう。 だから翔真は二人も通い始めたのだろうと思いながら、何気なくそう尋ねたのだが……、
「通ってない。 異能についてならある程度の知識はある。だから通う必要はない」
「え! そ、そうなんだ。 まぁ異能学園に通うか通わないかなんてのは個人の自由だからな」
「……翔真は通ってないの?」
視線を翔真の顔にやり、相変わらず無表情で首を傾げながら恵里奈はそう尋ねると、
「僕は……まぁエスパダじゃなくて、日本の高校に通ってたよ。 まぁ入学して一学期の最後の日に中退したんだけど」
「? 普通の高校?」
「ああ、そうだよ。 あの時は自分が異能者だってこと隠してな」
異能者の学生は異能学園に絶対とは言い切らないが、何か特別な事情や理由などがなければ通わないと行けないという規則がある。 なので普通の学校には異能者の学生が入ってはいけない故、かつて翔真が通っていた高校は普通の学校だった為に異能者である事を隠していたのであった。
「そう」
なぜ普通の学校に通ったのか気になる所だと思うが、そこは恵里奈には気にする所でもなかったのか、興味なさそうに短く返した。
「ところで、二人はエスパダにくる前は何処に住んでたんだ?」
と、翔真は窓を通して店の外を眺めながら何気なくそうなげるが、
「…………」
なげられた質問に恵里奈は俯き、なぜか無言をついた。 返答がこないことに気付いた翔真は、恵里奈の方へ視線をやり彼女の様子を窺うと、どうしたのか暗い雰囲気、表情になっていた。
「? どうしたんだ恵里奈? そんな暗い表情して」
「ーーっ!」
翔真が恵里奈の所へ来て肩に揺さぶりをかけた。すると彼女はハッと我にかえり、翔真に視線を向けて、
「ううん。どうもしていない」
「ほんとか? すごい暗い表情してたけどな……」
「気のせいじゃない?」
「そうか……? まぁそう言うなら僕の気のせいってことか」
そう言いながら、翔真は元の出入り口側のレジ場へと戻った。 だか恵里奈へ最後に言った言葉とは裏腹に気のせいではなく、恵里奈が暗い表情をしていたことは翔真は分かっている。 優れた観察眼を持つ翔真には、彼女の暗い表情を見逃さなかった。
(なにか嫌な出来事でも思い出したんじゃないだろうか?)
その嫌な出来事に触れないようにああやって誤魔化したのだろう。それはともかく、今はバイト中なのでそれに集中しよう。
それに人それぞれには隠したい過去や秘密があるし、それに触れないでほしいのも翔真には分からなくもない。
事実、翔真にだって知られたくない過去や秘密があるのだから。
それにまだ出会ったばかりなので……仲良くはなってはいるが……それでも、深い関係でもないのだから、何処か信用していない部分があるだろう。
(まぁこれから親密な関係を導いて行けばいいか。バイト仲間から友達になれたらいいな)
と今後の坂本姉妹と友達になれるように頑張ろうと決意した翔真は、レジに戻ると同時に店内にいた客の一人が商品を持って支払いにきた。
そしてその客との会計の受け取りをする翔真に、隣の……奥側のレジにいる恵里奈は気付かれないように彼を見ていた。
「…………」
翔真を見る目には何処か、まるで信じられない様なものを見る目であった。なぜ彼女かそんな目で翔真を見ているのかは分からないが、直ぐに別の目へ移り変わった。
(どう見ても、普通の男にしか見えない。この人があの……ううん、そんなのはあたしにとってどうでもいい。 でも、本当にこの人が彼奴らが最重要警戒人物と認定する程? 少なくても、今はどこにでもいる普通の男にしか見えない)
恵里奈は疑いような目をしながら翔真を見る。
あのイかれた連中からの告げられた事が嘘か真か、それは分からない。
だが彼女からしたら翔真は普通の男……一異能者にしか見えないであった。
(やっぱり普通の男にしか見えない。 なら……あたし達姉妹にとってチャンス)
この任務は連中から解放できるかもしれない。
連中から逃げられるかもしれない。
もうあの島に戻ることもないかもしれない。
そんな喜ばしい思いが彼女の心に湧く中、一つだけ問題があった。
恵里奈はそっと自分の首に触れる。
すると首の肌触りな感触ではなく、なにか硬い金属製の感触が彼女の手から感じた。
だが傍から見れば、首には何も付けはいない。
(これをどうにかすれば……)
硬い感触に触れた瞬間、彼女は喜ばしい気持ちから苦痛な気持ちに変わる。
(出来れば、妹だけでも……)
「すいませーん」
と、恵里奈が考え事をしているうちに彼女のレジの前に商品を持った客が呼びかけた。
我に返った恵里奈は「はい」と返事をした後、客が持っている商品を受け取り、その商品にあるバーコードにハンディスキャナでピッとする。するとレジの画面には値段が表示される。
そのあと表示された値段の支払いをし、お釣りを受け取る。
商品を入れたビニール袋を手に持ち、客はセブンイレブンから去った。
その客と同時に入ってきた新たな客がいた。
「ーーっ!」
その新たに入ってきた客に、恵里奈は硬直した。新たに入ってきた客は褐色肌をした絶世の美女だった。その美女は既に四人の客との会計を済ませた翔真を目にし、
「ちゃんとバイトしてるそうね、翔真」
「はぁ〜。 入ってきて早々なんだよ、その言い草は。 まるでバイトをちゃんとしてないと思っていた風な口じゃないか、優奈」
その美女は、柳 優奈であった。そしてその直後に休憩室の扉が開かれた音がし、そこへ翔真と優奈……そして恵里奈の三人は視線を向けると、扉から坂本 璃子が出てきた所だった。
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