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娼婦と魔術師 〜「娼婦に堕ちた娘は帰ってくるな」家族から絶縁された元娼婦は魔術師に弟子入りして一人立ちを目指します〜  作者: つーかたかさん


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4話 心の氷が溶けだして

よろしくお願いします。

シャレルドは、貴族の婚外子として生まれた男だった。

母親はメイド。

生まれつき魔力量が多いからという理由で本家に引き取られた。

母親はシャレルドを貴族に渡すと、外の男と結婚したそうだ。


そこからはずっと、貴族の屋敷の中で「宙ぶらりんな異物」として生きてきた。



父親が正妻や異母弟達と睦まじく過ごす様子を遠目に見つつ、自分は使用人に育てられる日々。


やがて、自分が引き取られた理由を知った。

貴族家に課せられた国への徴兵義務――その兵役を、シャレルドは嫡子の代わりとして、5年もの間、辺境で魔術師として勤め上げた。


兵役が終わると、父親は手切れ金を渡し、シャレルドを家から放逐した。


辺境での魔術師としての褒賞金と、その手切れ金をあわせ、シャレルドはこの古い屋敷を買った。


それから3年、シャレルドは一人でこの静かな屋敷に閉じこもるように住んでいたのだ。

シャレルドは屋敷を放置し、荒れるがままにしていた。


そんな屋敷を、ルシアは少しずつ、居心地良く整えていった。

ルシアはシャレルドと適度な距離を保ちつつも、毎日の食事を丁寧に作った。


温かく、素朴なルシアの料理。

じっくり煮込まれていたり、色々な味付けで飽きない工夫がされていたり。

添え付けの野菜も驚くほど旨かった。


野菜をたくさん食べるようになると、シャレルド自身、いつの間にか体調が良いことに気づく。


ルシアが来る前、シャレルドの食事といえば、ただ肉を焼いて味つけを変えるだけだった。


掃除もシャレルドは必要だと感じず、放置していた。



そんな放置された屋敷の掃除も、ルシアは手を抜かなかった。


薄汚れていた窓を磨き上げると、明るい陽の光が部屋に差し込むようになった。

薄汚れたカーテンを洗い、破れていた箇所を綺麗に繕った。


天気の良い日は、窓を大きく開けて心地よい風を家に通した。ソファーには柔らかなクッションを置いた。部屋の隅に転がって放置されていた花瓶を磨き、そこへ庭で見つけた綺麗な花をいけた。


まるでお化け屋敷のようだった屋敷が、ルシアの手によって、どんどん温かい居心地の良い空間に変わっていく。


シャレルドの荒れて、ひねくれていた心は、ルシアのささやかな心使いによって少しずつ緩んでいった。


いつの間にか、穏やかな気持ちで日々を過ごすようになっている自分にシャレルドは気づいた。


夜、抱きしめるルシアの柔らかな肌も、甘い声も、シャレルドの凍った心をじんわりと溶かし始めていた。


――たとえ、それが全て「魔術を教える代償」の行為だったとしても。


ある日、シャレルドは書斎にルシアを呼び、ぶっきらぼうに財布を突き出した。


「これ、やる。

街で服とか靴とか、色々と要るものを好きに買え。

女は色んな物が要るんだろ?」


ルシアが渡されたのは、かなりの金額だった。

ルシアは丁寧に頭を下げて、それを受け取った。


「ありがとうございます。

御満足頂いた様で、ようございました。

ありがたく頂戴いたします」


ルシアの、まるで使用人のような、仕事に対しての礼の言い方。


それを聞いた瞬間、シャレルドは頭を殴られたような衝撃を受けた。


(……そんな、事務的な言葉が欲しかったのではない)


ーールシアは自分に、一切の好意を抱いていないーー


それはシャレルドの心を突き刺した。

何度も夜を、肌を重ねたとしても、ルシアにとってそれは、ただの義務であり、支払いでしかないのだ。


『必要な事以外話すな』と、最初にそれを決めたのは、他ならぬ自分だというのに。


シャレルドは、ルシアへ膨らんでいく自分の気持ちを、持て余すようになっていた。





ある日の夕方。

街へ買い出しに出掛けていたルシアが、一人の若い男を連れて帰ってきた。


「ルシアさん、これ、どこに置けばいい?」


「あ、そこに。ありがとう。助かっちゃった」


男はルシアに明らかに好意を寄せる目を向け、荷物が重そうだったからと、嬉々として屋敷の敷地内まで運んできたようだった。


ルシアもその男に向けて、親しげに、笑顔で話していた。


道すがら会話をして、親しくなったのだろう。


その男に向けたルシアの笑顔。

それは決して、シャレルドには見せたことのない、緊張のない可愛らしい笑顔だった。


それを見た瞬間、シャレルドの脳裏にカッと激しい怒りが燃え上がった。


しかし、自分がなぜこれほど怒っているのか、その凄まじい感情の正体に戸惑った。


シャレルドはルシア達に気付かれないよう、自分の部屋へ逃げるように駆け込み、扉を閉めた。


自分からルシアに『余計な会話をするな、静かに暮らしたい』と言いつけていた。


その過去の自分に対し、激しく怒りを覚えつつ。同時に、自分には決して見せない笑顔を男に向けるルシアに対しても、シャレルドは激しい怒りを覚えていた。




お読み頂き、ありがとうございました。


シリアスすぎるのか、おもしろくないようで。


それでも、読んで頂き、ここまでお付き合い頂いてることに、感謝してます。


山を越えたら、溺愛になっていきます。

面白い章もありますので、最終話まで、よろしくお願いします。

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