3話 偏屈?な魔術師
よろしくお願いします。
二人の始まりは、ただの契約だった。
シャレルドにとってルシアは、気まぐれに欲を吐き出すのに都合が良いだけの相手に過ぎなかった。
「必要な伝達以外、余計な会話は不要だ。俺の静寂を邪魔するな」
シャレルドは冷たく言い放った。
それでも、シャレルドはルシアがこの屋敷に滞在することは許した。
「魔術を学びたいと言ったな。
ふん、確かに魔力はあるようだが、お前、全然ダメだ。
先ずは魔法の基礎を学べ。
図書室に魔法や魔術の本がある。全部読んでからだ」
そう言って、シャレルドはそのままルシアを放置し、自室へと行ってしまった。
「素っ気ない人ね。でも、その方が良いか。
ここに住める!やったわ!絶対に魔術を身に付けてやる」
ルシアは嬉々として屋敷を勝手に探索し、空いていた使用人部屋を使い始めた。
こうして、二人の奇妙な同居生活が始まった。
その日、ルシアは貯蔵庫にある食材で簡単な夕食を作った。
食堂に降りてきたシャレルドは、無言のまま、それを完食した。
「食べられなくもない味だった。
さて、夜の仕事もしてもらおうか。
風呂に入ったら俺の部屋に来い。2階の階段横の部屋だ。
そうだな、毎晩風呂の後は俺の部屋をノックしろ。
俺が入れといったら、入ってこい」
魔術を教えてもらう代償として、その夜、初めてルシアはシャレルドを受け入れた。
昼間は、黙々と屋敷で家事をした。家事を終えると、図書室からシャレルドの魔術の本を借りて読んだ。驚くほどスラスラと読めて、内容がすんなりと頭に理解できた。
(皮肉なものね……。あの娼館で、無理やり学ばされた教養が、こんなところで役に立つなんて)
身体の中にある魔力を流し、放出して魔法として使う。
魔力の溜め方、流し方、魔法への変換方法、そして編み方。
ルシアは毎日、ひたむきに魔法の基礎訓練を繰り返した。
一ヶ月も経つと、ルシアとシャレルドは、少しずつお互いの存在を理解し始めていた。
ルシアが不器用ながらも必死に魔術を学ぶ姿や、彼女の作る素朴な料理を通じて、シャレルドは彼女をただの道具ではなく、一人の「人間」として意識し始めていた。
(……ふしだらな娼婦崩れだと思っていたが。
真面目で優しい娘じゃないか。
驚くほどの努力家だし、魔術師としての筋も悪くない)
ある日、シャレルドが怪訝そうにルシアに声をかけてきた。
「おい、お前の部屋はどこだ?
客室を使っていないじゃないか」
「使用人部屋を頂いております」
(……今頃気がつく? よっぽど私に興味がないのね、このお人は)
ルシアが心の中で小さく呆れていると、シャレルドはなぜか急に慌てたように声を荒らげた。
「客室を使え! 部屋はいくらでも余っている。
あと、俺にいちいち許可を聞かなくて良い。……面倒なんだよ。
本も、家にある他の物も、好きに扱っていい」
「はい。ありがとうございます。けれど、高価そうなものを使う時や、どうするか迷った時は、ちゃんとお伺いをたててからにしますね」
「ふん、勝手にしろ。……何でも、勝手にしてかまわないんだからな!
何でもお前の好きに使え!」
(変な人。言い方は偉そうだけど、私を信用してるから、好きに過ごせってことよね)
ルシアはシャレルドの言葉を変換した。
しばしばあるシャレルドの夜の相手は、ルシアにとってはかなり楽な『仕事』だった。
シャレルドは決して乱暴ではなく、ルシアの身体に痛みも与えなかった。
むしろ丁寧だった。
痛くて顔をしかめただけで、痛そうな声を上げただけて、シャレルドは動きをやわらげた。
ただ、その代わり、そこには愛も何もない、ただの行為に過ぎなかった。
客が欲を吐き出す。それと同じだった。
けれど何より、ルシアを人間として貶めるような侮蔑の言葉を、シャレルドは言わなかった。
表面上はどれだけひねくれていても、この人の根は優しいのだと、ルシアは思い始めていた。
(育ちが良いからかしら? 身体への扱いは優しいし。何にしても、昔に比べたらどうってこと無いわ)
娼館で1日に何人もの客を取らされ、乱暴に扱われ、耳を塞ぎたくなるような蔑みの言葉に心を傷つけられていた事を思えば、ここは天国のような暮らしだった。
ルシアは、シャレルドとの歪な暮らしの中に、確かに温かい安寧を感じ始めていた。
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