今日決行
予鈴が鳴ると、どうやって払われていたのか分からないがクラスメイト達が戻って来た。洗脳でもされてたのだろうか。
何だか白々しい顔をして山之内も戻って来る。頭の後ろに両手を組んでぷひゅぷひゅと鳴らない口笛を吹きながら。ごまかし方もギャルじゃないし口笛が下手過ぎてイライラする。いやそうじゃないわ、イライラするところ他にも山ほどあったわ。
俺と目が合うと、口の端をニヤリと持ち上げる山之内。意地悪だと思っていたこの表情はどうやら「やったな」的な表情だと思われる。結果は意地悪だったけどな。
「リンネ! これ……!」
教室前方の入口から入った山之内は自分の席に辿り着くまでにラコの横も俺の横も通る事になるわけだが、その際にあのピンクの折り畳み傘をラコに差し出されて目を丸くする。バカ。
「なっ、なぁにこれ?」
やめろ下手くそ。もうバレてんだ。素直に受け取れ。
どう言う状況か分からない山之内が困って俺を見る。山之内よりはたぶんましなアイコンタクトが出来る俺は「受け取っておけ」と想いを込めて頷いた。
「撫山くんが拾ってくれたんだって」
「は……??」
そうだ、お前の計画はお前のシールのせいで破綻してる。柄の部分を見ろと後方からジェスチャーするとそれは無事伝わり、山之内は自分で貼ったシールを見てすべてを理解した様だった。
「ちゃんとお礼言うんだよ?」
ラコがこっそり言ったが聞こえてしまう。
山之内は何とも言えない顔をして俺に近付き、ラコに言われたままきちんとお礼を言った。
「傘を拾ってくれてどうもありがとう」
「どういたしまして」
そのまま憮然とした顔で俺の後ろの席へつく。何だよこの茶番!
「下手くそ」
今日の選択授業は生物と化学。ラコは化学室で授業、俺と山之内は生物なのであの場所でノリコに餌をやりつつ反省会をしていた。まぁ反省会と言うよりは罵り合いと言った方が近いかも知れないな。
「考えなし」
「考えはあったっしょ!」
「浅はか。一歩間違えたら俺の印象傘泥棒になるところだったんだぞ」
「ラコは事情も聞かずに人を泥棒扱いする様な子じゃ……」
「今そんな話ししてない」
「ぐぅ……」
「そもそも今のラコの状態を見てから動けよ。俺と自販機の前でちょっと話しただけでいっぱいいっぱいになってるんだぞ? 相合傘なんて無理に決まってる」
「そこら辺はあんたが悪いんじゃないの?」
「カッコ良過ぎて?」
「近付き方が下手って事!」
こんな感じであまり生産的な話し合いは出来ていない。
「とにかくもう余計な事はしなくて良い」
「任せてたらいつまで経っても動かないじゃん!」
「なんとなくキッカケは出来た様な気がするから……ここからは二人のペースでいかせて下さい」
「こっちはそんな悠長な時間ないっての!」
やらかしたくせに、山之内は強気な姿勢を崩さない。それどころか、本当に切羽詰まった様な表情を見せる。
「何でそんなに急ぐ必要があるんだよ? まだ夏休みも始まってないのに。くっ付く奴らはもうくっ付いてるがそれでもまだクラスで二~三人ってとこじゃないのか?」
「そう言う事じゃない」
「じゃー何だよ」
山之内は腕組みをして地面を睨み付けたまま黙ってしまった。
「はぁ……分かったよ、じゃあもうちょっとマシな計画立てろ」
山之内の事情なんか知った事ではない。こいつが話したくなるのを待っててやる時間こそが無駄だ。そもそもラコの友達を味方に引き入れるってのは悪い展開じゃない筈だから、どうにか上手く使う方法を考えるか。
「……分かった。てか考えてはいた」
「ほう? 言ってみろ」
「傘を拾ってくれた事をキッカケにまずうちらが仲良くなったていを作んの」
「ていをな」
ヤンキーとは相容れないが、ていなら頑張ろう。
「んで、あんたも帰り道一緒だって事に気付いたていで、まずは三人で一緒に帰ったりするわけ」
「なるほど、二人きりだと俺のカッコ良さに緊張してしまうラコもお前が一緒なら少し安心するってわけだな」
「……チッ! まぁ……、そうよ」
不本意そうだが山之内は肯定した。
「悪くないかも知れない」
「じゃ、今日決行するわよ」
「良いよ」
正直三人になったところで急にスムーズに行くとは思わないが、それを日常にして気長に続ければさすがに逃げ出したりはしなくなるだろう。




