最高位関脇
そんなわけで早速その日の放課後、俺は昇降口で二人を待つ事になった。
まずラコに事情を説明してある程度覚悟をさせてからの方が良いだろうとの判断だ。それが上手くいかなければ昇降口に現れるのは山之内だけの可能性もある。そうなったら一緒に帰る意味は皆無なのでさっさと置いて帰ろうと思う。
「おおしおまたきち~」
来た。山之内だ。隣りには……ちゃんとラコも居る。カバンを胸元にギュッと抱き締める様に持っていて顔が半分隠れているがとりあえずホッとした。
「うん」
刺激しない様にと思ったら「うん」しか言えなかった。
「んじゃ帰ろっかー」
山之内がとくに気負った様子もなくそう言って歩き出した。俺はラコの隣に位置取り一緒に歩く。ちょっと肩がピクリと動いたが……よしよし、逃げ出さないぞ。俺と山之内でラコを挟むカタチだ。
「ところでおおしおまたきちって何だよ」
「お待たせのギャル語じゃん。おおし おまた きち。大潮又吉」
「誰だよ」
「明治時代の力士じゃん」
「有名なの?」
知らなかったので俺はラコにそう聞いてみた。
「うっ……ううん、知らないよ?」
「最高位関脇」
「いやマニアック過ぎん? ギャル語としては有名? てかギャルお待たせの事おまた~って言う?」
俺はまたラコに聞いた。山之内との会話をキッカケにどうにかラコとの会話を弾ませねば。
「ううん……それも聞いた事ないよ」
「じゃあ何なんだよ。オリジナルでギャル語とか、流行ってなけりゃギャル語じゃないだろ」
ラコは聞いた事には答えてくれるがやはりスムーズに会話は転がらない。それよりも山之内に言いたい事があり過ぎてツッコミと言う名の言葉を投げ付けてしまう。
「ギャルが使えば全部ギャル語なの~」
「ふふっ」
笑った……。
いいぞ、やはり友達が近くに居る事で少しは安心出来てるんだろう。とにかく自然にラコとの会話になる様に……と、俺が人生で一番気を使い始めた時だった。
「……え?」
ラコの右隣に居た俺は、校門を出てそのまま右に曲がろうとした。するとどうだろう? 突然俺は独りぼっちになったのだ。
「撫山くん?」
ラコと山之内は左へ曲がる軌道に乗っていて、右に曲がろうとした俺をラコが不思議そうに見た。え? と山之内を見ると……、何だか良く分からない表情でスッと左手を顔の前に立てて軽く前へ突き出した。
何その「わりっ」みたいな超絶軽い謝罪。は? あ? まさかとは思うけど……帰り道一緒だったのに気付いたていってのは、帰り道一緒って部分もていなの?
「あ……ああ、はは! ま、間違えた!」
マジかよ!!
いや確認しなかった俺も悪いけど、山之内があんまり自信満々に言うからその辺はもうクリア出来てる話しかと思ってたなぁ!
ラコは基本いつも山之内と帰ってるワケだし、俺の方がそれに合わせるしかないじゃないか! 一体どこまで?!
「しっかりしてよ~、帰り道忘れるとか徘徊老人じゃないんだからさぁ~」
フォローだとしても殴りたい。良くそんな人を責めた様なフォローにしようと思ったな。ギャルだから許されると思ってるなら大間違いでありそもそも俺は山之内をギャルだと認めていない。
「間違えちゃったんだ、ふふっ、しま屋にでも寄るのかと思った!」
それに引き換えラコのフォローはあったかい。しま屋ってのは個人経営の小さな文房具屋さんだ。ばあさんが一人でやってる。
「ラコしま屋好きだもんね~。寄るなら寄っても良いよ~?」
「い……いや、大丈夫……」
「あそっ、じゃー行こっ」
やっぱり山之内が絡むと面倒な事になる。さっきラコの笑顔が見れたのはお手柄かも知れないが家と反対方向に歩くの正直怠いぞ。
「撫山くんもこっちだったって初めて聞いたよ」
おお、ラコの方から頑張って話し掛けて来てくれてる! これは相当頑張ってくれてるに違いないぞ!
目的もなく家から遠ざかるのはただただ怠いが、こうしてラコと親睦が深められるとすればそれは許すしかあるまい。
「今まで全然一緒になった事なかった……よね!」
「ははっ! そうね~!」
こっちじゃないからね!
まぁとりあえずせっかくの機会だからラコとの距離を縮めていかなければ……と、ラコは山之内と何やらひそひそ内緒話をしているではないか。疎外感、と思いきや、すぐにこちらを振り返り、ラコは意を決したように言った。
「なっなっなっ……撫山くん、すっすっす……たべ……とか、な、なに……」
噛んだ? ラコが口元を抑えてギュッと両目を閉じてる。言葉を噛んだだけじゃなくてこれ舌噛んでるな。
何だろう? さすがに分からない……。山之内がこっちをもの凄い目付きで見ているが無理だ。分かんねぇよ。
「えっーっと……」
考えろ考えろ。勇気を出して会話を試みてくれたんだよな。さっき山之内とコソコソしてたのもそれの相談だったんだ。す……で始まってたよな? んでその後が……たべ、までは聞き取れたんだが……。
鬱陶しいから見ない様にしていたのだが、視界に口をパクパクさせている山之内が入った。当てにならないが一応見てみると……。
あ……え……お……お。た……べ……お……。たべもの! 食べ物か?!
「食べ物……」
一旦独り言のようにそう呟いてみると山之内は激しく首を上下させて頷いた。そうか分かった!
「好きな食べ物!」
「うんっ!!」
舌を噛んで苦しんでいたラコは復活して嬉しそうに俺を見た。
「そうだな、特にはないけど……なんか期間限定の味とか、あんまり売ってない様な物が美味しく感じられちゃうんだよなー」
「分かる……」
好きな物の答えとして全然良くないと思うけど俺はそう答えたが、山之内がぼそりと反応した。
「なっ……なるほど……じゃじゃっ、じゃあすす好きな色……とかはっ……」
何だか分かりやすく俺の情報を聞き出したいみたいだな。好きな色も特にないが、この前の傘のピンクの件があるので……。
「ピンク」
「マジか……」
またも先に反応したのは山之内だ。マジではないしお前に情報を与えているワケではないぞ。




