再追試
その後もしばらく他愛ない質問をされ、俺は簡潔にそれに答えていたがのだが、突然ラコがふらついて山之内にもたれた。
「うっ……何か吐きそう……」
「えっ?! 大丈夫?」
「撫山くんといっぱい喋って、もうキャパオーバーで気持ち悪い……」
そう言ってラコは口元を抑える。俺と喋って吐きそうって……。嫌いじゃないんだよね? 一回ちゃんと確認した方が良いかな。
「ほら、水飲んで」
山之内が甲斐甲斐しくラコを介抱しているが、これを解決するには俺がこの場から去るのが一番だろう。
「じゃっ、じゃー俺こっちだからさ! じゃーね! お大事にね! 俺行くから大丈夫だよね!」
「え……」
ラコは、え……と反応してこちらを見たが俺は逃げる様に次の角を曲がってしまった。山之内と三人でも、一緒に下校するってのはラコにとってまだまだハードルが高い事だったのだ。
俺がイケメン過ぎるからなぁ……と、真剣に考え、ラコのお陰で自己肯定感が爆上がりしてしまっている事に気付いた。危険だ。正気に戻ろう。
「ここどこだよ……」
そうして無意味な場所に移動した俺は、迷いながら帰路につくのであった。
翌日、ぎこちなく朝の挨拶を交わしてから、ラコや山之内とは特に会話もなく時は過ぎた。
もともとクラスメイトである事以上の接点はなく、これから増やして行こうと言う段階なので当然と言えば当然だろう。ラコもあれだし。
更に今日は選択授業もなく、山之内と会議をするタイミングもなかったわけだが、六限目が始まる直前、もう席に着いたタイミングで背中をツンツンされた。
「昨日はお疲れーしょんハレーション」
何かもういちいち面倒臭いな。
「……お疲れ」
「あたし今日はガチで用事あってラコと一緒に帰れないからよろしくね」
「無理だって、昨日三人で帰って具合悪くなっちゃったじゃないかよ」
「あの後結構慣れたってラコ言ってたし!」
「正直当てになんないよ。それに俺反対方向……」
「あっ、ほら加藤来た! よろしく!」
この野郎……。わざとこのタイミングでぶっ込んできやがったな。加藤はこの高校でも厳しめの教師だ。あまりゴチョゴチョやれる授業ではない。しかも六限が終わればもう放課後。言い訳する時間もない。
まぁ、良いか。やれるだけやってみよう。逃げられたら逃げられただ。
山之内にしてやられた感があるのは気に入らないが、俺だってラコと仲良くなる事は望んでるんだから。でもきっと逃げちゃうだろうなぁ……。
どう言えば一番驚かせないか、山之内のアシストはどれくらい入るのか、そんな事をもんもんと考えていたら授業はあっと言う間に終わった。
山之内はすぐにラコの席に駆け付ける。いつもの光景だ。
「ごめんラコ! あたし今日ちょっと用事あって一緒に帰れないんだ~」
「え? 何か手伝える?」
「んーん! 全然良いのあたしの問題だから!」
話しながら山之内がこちらをチラチラ見ている。物凄い眼光で。
あー、これ「行け!」だ。もしくは「グズ!」
何のアシストも無しかよ。女子二人で話してるとこに俺入ってってラコ誘うのかよ。
まぁ……出来るけど。成功するかは知らんからな。
「呼び出しか? 仕方ない奴だな。じゃー今日は俺と帰るかラコ」
この距離の詰め方本当に大丈夫かよ。ラコが俺の事意識してるのは間違いないし、俺はイケメンの自覚があるから行けるけど……ちょっと普通じゃない感覚はあるぞ。
「ぴゃうっ……?!」
ラコが初めて聞く声で鳴いた。
可愛い。端正な顔が崩れる瞬間が堪らない。
「あー良いじゃんそれ。一人じゃ退屈だし? ラコ可愛いから危険だし? そうしなそうしな!」
ここでようやく山之内から雑なアシストが入る。
「ででででもまた吐いちゃったら撫山くんに迷惑掛かっちゃうし……!」
あの後ホントに吐いたんだ。
「まぁそうなっても優しく背中をさすってあげるよ」
「オエッ……!」
嫌いなの? さすがにキモかった?
「お前ら今日は早く帰って教室空けろよー。ここ、数学の再追試に使うからなー」
そこへ、再追試用の答案用紙を持った数学教師がやってくる。再追試ってのは追試でもダメだったしょうもない連中が受けるテストである。だから数人しかいないだろうなぁ。
「撫山、お前今回はサボるなよ? 再々追試はしてやれないからこれダメだったら来週から一週間補習だぞ」
「……はぃ」
名指しでそう言った数学教師の言葉を聞いて、山之内から殺さんばかりの視線を感じる。
そう、どうせ追試受けてもなんかダメそうだったから前回はサボった。こちとら一週間補習の覚悟は出来ているので今回もサボる気だったのに、まさかこの教室が使われるとは。




