「♪※☆ラコ☆※♪」
「な……撫山くん……追試なんだね」
「ううん、再、追試」
「そっ……そか! じゃぁ、仕方ないし! 頑張って!! じゃあねリンネ! またねーーっ!!」
ぴゅーっと音が出そうな去り方でラコが教室を飛び出して行った。
「ほらな、やっぱりまだ二人きりで帰るのなんて無理なんだよ」
「ラコの問題じゃなくてあんたの問題で無理だったんでしょうが! ったく! 涼しい顔してバカなのかよ、ラコ今日一人じゃんか」
ブツブツ言いながら山之内は自分の席に戻って座った。筆記用具の準備を始めている。
「お前もバカじゃないかよ!」
「ギャルだもん」
「そう言う偏見良くないぞ。そもそも何だよ? 何が用事だ、ラコには正直に再追試ですって言えば良いだろ」
「……ラコが勉強見てくれてんのに……再追試なんて知ったら悲しむでしょ……」
そう言う相手を思いやる気持ちはあるらしい。でもそれはラコにだけ向けられているのではないだろうか。俺には絶対ないぞ。
「ちゃんと勉強して再追試なのか。ホンモノなんだな」
「本気出してないだけとか言う奴マジでダサいかんね?!」
くそ。どうにか俺だけ再追試合格出来ないかな。全然準備してないからダメだろうけど。
「時間まで答案用紙は伏せておく様にー」
そうして、無駄な時間が始まったので、腹減ったなー、ラコ今日も綺麗かったなー、山之内のささくれ肘まで剥けて苦しまないかなー、などと、無駄な事を考えた。無駄オン無駄。無駄イン無駄かな。英語も好きじゃないから分からない。
「このテストで三十点未満だった者は一週間の補習をしてもらうからなー。来週月曜のホームルームに間に合う様に採点して担任に渡しておく。では気を付けて帰るようにー」
やる気のない喋り方で最低限伝えると、数学教師は教室を去って行った。ま、補習なんて言っても教師が見てくれるわけじゃなく、適当な課題を適当な時間までやらせるだけなんだ。どうって事ない。
「あああああ……一週間もラコと一緒に帰れないいいい……」
どうって事なくない奴が後ろで頭を抱えているのが分かった。もしかしたらコイツやっぱり俺よりラコの事が好きなんじゃないだろうか。
「仕方ないよ、バカなんだから」
「せめてあんたが一緒に帰ってくれるなら良いと思ったのに!」
自分の都合を押し付けて山之内が喚く。やっぱりささくれ肘まで剥けろ。
「あんたがこんなバカだったなんて知らなかった。授業中ずっとラコの事ばっか見てるから成績が落ちたんだ。帰宅部のくせに再追試も無理そうなんて終わってる。顔が良いだけで許されるのは中学生までにしてもらいたい」
うるさいな。こいつ今言った事全部自分に返って来るって気付いてないのかな。
何だか逆に山之内が哀れになって俺は好き放題言わせてやりながら帰路へ付いた。
「一緒に新しいノート見に行きたかったのに一週間も一緒に帰れないならもうコンビニの大学ノートで良いよ。コンビニと言えば中華まんだけど気分が落ちてるからオッソブーコまんも食べなくて良い」
「バカ、オッソブーコまんは食えよ。もうちょっと暑くなったら中華まんやらなくなるだろうし次の秋に出るか分かんないぞ」
聞いてやる義理もない山之内の恨みつらみだったが、あろう事かオッソブーコまんをスルーすると言い出したので俺は強く注意した。
「そうだよね……ごめん」
俺に謝られても困るが思いのほか山之内は反省した表情を見せた。それにしても、こいつもあのオッソブーコまんが好きだとはな。
オッソブーコまんとはイタリアの郷土料理、オッソブーコを中華まんにアレンジした超絶美味い食い物である。でも全然話題になってないし置いてるコンビニも少ないのでので絶対に定番になる事はないだろう。
「そんな事言うから食いたくなって来た」
「なかなか物の良さが分かるじゃない撫山。もう置いてるところ少ないよ。でも穴場のコンビニ知ってる」
「穴場ってどういう事だよ」
「めっちゃ余らしてるの。きっと店員にファンが居て廃棄にして食べてるんじゃないかな」
「なるほど教えろ」
「もう一つ朗報」
「なんだ?」
「方向がこっち。あんたんちとは反対だけど、これからオッソブーコまんを目指してこっちへ行くんだと思えば良いじゃない」
その件についても言いたい事は山ほどあるがとりあえずオッソブーコまんに免じて一旦許してやろう。
何で俺山之内と帰ってるんだろう、と途中で疑問に思っりもしたがオッソブーコまんがすべてを帳消しにしてくれた。
「……にしても、あれの良さが分かるなんてなかなかセンス良いじゃない。まぁラコを選んでる時点で美的センスは評価してるけど」
「ああ、俺もお前の口からその単語が聞けるとは思ってなかったから正直ちょっとだけ見直した。あとラコの美しさに関しては美的センスとかじゃなくて本能に訴えて来るレベルなのでセンスがあろうとなかろうとだろ」
「まぁね、でも恐れ多いじゃない普通」
「確かに……。俺も脈がなさそうだったら頑張れるか分からない」
「はぁ、ラコの方に色々センスがないのが心配」
どう言う意味だこの野郎。
「最近はだいたいの私服をあたしが選んでるけど、それでもとんでもない組み合わせで来る事があるからね。なんでそれとそれ合わせた? みたいなさ」
「俗世に染まってないのが桐生桜子の良いところだろうが! その辺のギャルみたいな格好させてないだろうな?!」
「ふん、ラコの良さを一番出せるコーディネートにしてるに決まってんでしょ」
やれやれと肩を竦ませ、仕方ないなと勿体ぶりながら山之内はスマホを取り出した。別に覗くつもりはなかったが、山之内の背が低いので上からスマホの画面が見えてしまった。
「♪※☆ラコ☆※♪」と、何やら賑やかな絵文字に挟まれたフォルダが現れ、山之内の指がそれを愛おしそうに撫でると、中から私服姿のラコがたくさん出て来たのだった。




