オッソブーコまん
「これなんかどうよ? けっこうキツめのピンクだけどラコが着ると負けてないでしょ」
「確かに、そんなにギャルっぽく見えないな」
「あたしは別にラコをギャルにしたいわけじゃないもん。ラコはシンプルで質の良い服が似合う」
そう言って指ですいすいスライドさせ、私服姿のラコを見せてくれる山之内。初めて見る姿ばかりで非常に有難い。その中にはグッと来る可愛さの物もあれば、ホゥと溜息が出る様な美しさの物もある。
「なんかどんなコスプレも似合いそうだな」
「ふざけんな、そんな俗な事させないし! あんた俗世に染まってないのが桐生桜子の良いところって言ったじゃん!」
「確かに」
「キャハハッ! あんたけっこーさっきからそれ言ってるけど口癖?」
別に口癖ではない……と思う。だが実際山之内の言葉に「確かに」と思ってしまうのだから仕方がない。こいつとは相容れないが、ことラコの事となるとだいぶ気が合う様だ。これでもっと賢かったら良いサポート役になっただろうに。
「あったあった、あっこのマルマート」
しばらく歩き、山之内は前方を指差した。この辺の地域にしかないコンビニだ。あるのは知っていたが寂れた雰囲気がするし、わざわざ逆方向に歩いてまで入った事はなかった。
「こんなとこにオッソブーコまんが……? 確かにこりゃ穴場だな」
「キャハッ、まーた確かにって言ったし!」
入店するや、山之内はまっすぐにレジまで進むと早速オッソブーコまんを注文した。その数四つ。それでもレジ横に置いてある蒸し器の中にはまだ一つ残っていた。まさか、これが俺の分か?
「二つイケるっしょ?」
店員がオッソブーコまんを袋に入れてくれている間に山之内が振り返って俺に聞いた。俺の分もまとめて注文してくれたらしい。
「余裕でイケる。何なら三つ食べたいくらいだけど」
「他の人の分も考えろよ」
買い占めは遠慮して一つ残したと言う事らしい。俺達は二つずつそれを受け取った。
「くいしん坊食い~!」
コンビニを出ると、山之内は両手で一つずつオッソブーコまんを持ち、交互に齧り付いた。うん、確かにこれは食いしん坊。また確かにと言ってしまいそうになって我慢した。何となく癪だったからだ。
「うんまぁぁ~い♪」
幸せそうに目じりを下げて山之内が口に頬張ったまま言った。さっきから行儀の良い事ではないが不快には感じない。
どれ、俺も一口。
「……うんめぇ」
一口入れる度に言いたくなる。
「うめぇ。うめぇ」
おそらくもう間もなく食べられなくなる好物に夢中だったが、ふと山之内の視線に気付いた。
「やらないぞ? ちゃんと二つ分の金は払ったろ?」
「違うわよバーカ!」
何だか慌てた様に山之内はまた自分のオッソブーコまんに喰らい付く。まだ持ってるのに欲しがるとは意地汚い奴だな。
俺達はしばし食べる事に一途になる。
「はぁ……やっぱり最高だな」
「超はぴはぴ笑点丸……」
同じ物を食べて同じ気持ちを共有し、少しだけ山之内に歩み寄った心が一気に離れていく。思い出したようにギャル語を使いやがって。いやギャル語とは認めないが。
「そいやー山之内って中学の頃援交してるとか半グレと付き合ってるとか言われてたんだって?」
「言われてたね」
もうちょっとコイツの事を知っておこうと最近入れた情報をぶつけてみた。山之内はあっさりそれを認める。
「実際やってんのか?」
「何を?」
「援交」
「やってたら何よ」
「止める」
「あんたに関係ないじゃん」
「関係ないのか? お前の親友の好きな男だぞ? 俺達がくっ付いたら俺はお前の親友の彼氏だ」
「親友の彼氏だからこそでしょ。あんたらがくっ付いたらあたしは二度とあんたに話し掛けないからね」
「何でだよ」
「ラコが変な誤解したらどうすんのよ!」
「そんなもんなのか? やっぱりあんまり仲良くないんだな、もっとラコを信じろ」
「うっざ! あんたなんかラコに逃げられるくせにっ!」
「確かに……あ」
「あーははは! まーた言ってやんのぉ~!」
「チッ……。言っとくけど、補習期間が終わっても、俺はもう一緒に帰らないからな」
「何でっ?!」
「当たり前だろ、反対方向なんだよ。時間を掛けてきっちりラコを彼女にしてからめちゃくちゃ一緒に居る事にするから別に今一緒に帰らなくても良い」
「もー! そんな悠長な事言ってられないんだってば!!」




