今を大事に
なんだってコイツはそう人を急かすのだろうか。この前もそうだった。あの時はコイツの事情なんてどうでも良いと思ったがこう何度もペースを乱されるのはたまらない。どうせ話してくれないかも知れないがまた聞いてやる。
「だーかーらー、そんなに急がせる理由は何だよ」
「……」
オッソブーコまんが入っていた薄手の紙をクシャリと握り、山之内が瞳に影を落とす。
「逆に何でそんなに余裕なわけ?」
「別に余裕ってわけじゃ……」
「余裕じゃん! いつまでこの毎日が続くか分かんないのに、好きな人が居るのに、想いを伝えないなんて信じられない! あんたも! ラコもね!」
まさかラコの事まで否定的な言い方をするなんて驚いた。
「まぁラコは良いけど!」
あ、すぐに訂正した。やはりとことんラコに対しては肯定的な様だ。
「そうだ、別にラコだって余裕でこうなってるワケじゃないの分かるだろ? 俺だって同じだよ。だから時間掛けたいの」
「じゃさ! 言ったらさ! 付き合う前のラコとの時間は今しかないじゃん! 今を大事にしようよー!」
力強くそう言い放つ山之内だったが俺は違和感を覚えた。だって山之内は良く学校を休むのだ。遅刻や早退も多い。授業をサボって野良猫と戯れる事も良くやってそうだし。矛盾してるじゃないか。
あんまり女子に対して詰めるような言い方はしたくないが、相手がこんな調子だ。仕方あるまい。
「その割にはお前、良く学校休むよな」
山之内の表情が分かりやすく強張った。悪いが許してやらないぞ。
「遅刻も早退もサボりも多い。そんなに時間を大事にしたいんならまずはそこからじゃないのか?」
正論をぶっ放してしまった。あんまりキャラじゃないのでちょっと心苦しいが、こっちもちょっと意地になっていたのである。
山之内はムッと口を結んだまま何も言わなくなってしまった。いや、言えなくなってしまったんだろう。
これで良い。これでもう俺に無茶な注文を付けて来る事は……。
「あたしは良いの」
「……え」
ちょっ……、え? 待ってくれ予想外の返し……と言うか日本語が通じているのか不安なレベルになって来た。
「あたしは良いのよ、ギャルだから」
完全に開き直った様な表情で、山之内は真っすぐにこちらを見て言い放つのだ。
何と言う暴論だろう。ああ、これがギャルだと言うのなら俺は金輪際ギャルには関わらない。それにこれは絶対ギャルの定義に当てはまらない。ただの、山之内リンネなのだと思う。
「ふざけるな」
「ふざけてない」
確かにふざけた事は言っているがふざけているつもりはなさそうな顔をしている。
うわぁ……。
俺が心底呆れていると山之内は言葉を繋げた。
「あたしだってね、休みたくて休んでるわけじゃないのよ」
「ほう?」
ハッキリ言ってただのサボりだろうと俺は決め付けていた。遅刻はただの寝坊。早退は午後の授業が怠いからとか、そんなんだろと。
「じゃぁ何でだよ」
「そこまであんたに教える義理なくない?」
「あるよ?! 俺の事毎回反対方向へ歩かそうとしてるんだから!」
「あーもー仕方ないわね! 分かった分かった! 分かったわよ! あの日はたまたまあっちの方向に用事があっただけで、それをあたしが勘違いしたていにしておくわよ」
「あ、ああ、じゃぁそれでお願いします」
お願いしますじゃないんだけどな。
「ふんっ! じゃっ! あたしこっちだから! せいぜいなくなるまでオッソブーコまん食べに来やがれ! バーカ!」
そう言って山之内はマルマートの角を曲ってしまう。
「……」
本当になんて奴だ……。嵐の様に去って行く山之内を見ながら俺は心底そう思った。
でもまぁ……、正論をぶつけられてしょんぼりされるよりは良かった。……なんて思う俺は我ながらちょっと女に甘いのかもな。それにここにオッソブーコまんが置いてある限り、こっちの方向にしっかり用事が出来てしまった。




