反射
とんでもない一撃を見えない角度から不意打ちされた。
そんな気分だった。
到底テンカウント内に立ち上がる事は出来ず、どうにか家に帰り付いたところでダメージは抜けない。座っても寝転がっても。それどころかじわじわ効いて来る。後遺症が残るだろう。
「はぁ……」
何度目かの深いため息。
俺のせいだろう。俺が二人の友情を壊したようなもんだ。俺が居なければきっと二人はずっと友達だった。
俺、うざ。
ポヨン♪
『リンネがまた何か隠してる様な気がする。何か聞いてる?』
ラコだ。察しが良いと言うか、山之内が甘いと言うか。
この状況……。また俺だけ知ってるなんて事になったらますます二人の関係を壊してしまうんじゃないか……?
『そうかな? 気のせいじゃない?』
そう打ち込んで送信前に我に返った。
あれ? 俺ラコに嘘吐いてる。あんなに大好きなラコに。付き合えたら大事に大事にしようって思ってたラコに。
大事に思うからこそだって、理屈はそうだ。だけど、この嘘に誰が得をするんだ? この方がラコの為だとか思っている山之内だけだ。俺はラコに嘘を吐いたと言う十字架を背負い、ラコは真実を隠され、得したつもりの山之内も孤独になるだけ。
こんなのおかしい。
『気になるなら明日、一緒に山之内の家に行ってみよう』
俺は送信直前の文面をまっさらにして、こう打ち直した。今頃、ラコのスマホがシャランと綺麗な音を奏でている筈だ。
翌日、殺気を纏った様子で玄関先に出て来た山之内は、俺の後ろにラコが居る事に気付いて狼狽した。
「よう、遊ぼうや山之内」
殺気なら俺も纏おう。
「い、忙しい」
「何か知らんが徹夜でやれよ」
有無は言わせない。
俺は冷静だ。だけど覚悟をして来た。あまり逆らわない方が良い状況だと言うのは山之内にも伝わるだろう。ラコだって多少強引に連れて来たんだ。連絡もなしに女の子の家に行くのは失礼だと直前までごねたが押し通した。理由が「忙しい」くらいで引き下がれるもんか。
「せめてコンタクトレンズ……」
「良いって」
俺は二人を連れてマルマート近くの児童公園のベンチに座らせた。
山之内は唇を尖らせ不満を露わにし、ラコは何やら異様な空気を感じて怯えている。そうだラコ、すまんがこれから傷付く事になる。
「言えよ山之内」
最短距離で行こうや。
「なに? やっぱり何か私に隠してる? 撫山くんだけ知ってるの?」
ラコは俺を見たが俺からはもう何も言わない。だってこれは二人で解決する事じゃないか。俺が巻き込まれる話しではない筈だ。
「早く言え。ラコに隠し事は無しだ。前もそれでラコを泣かせたんだぞ。なんで学習しない? だからいつも赤点ばっかなんだよ」
「……分かったわよ……」
観念した様だ。これだけでもう、俺がここに居る理由はないだろう。まずは場を作る事が重要なんだ。後は二人で気持ちをぶつけ合って……。
「昨日、撫山に告白した」
「?!」
そっちじゃないっ……!!!
いや確かに俺主語なかったけど絶っっ対そっちじゃないだろう! ラコに隠し事無しって言った! 言ったよ?! だけどさすかにそっちは隠してても良いんだよ正気かコイツ?!
「あ、いや、そ……」
それをラコの前で強制的に言わせる俺って何? もうこれ昨日付き合って今日破局とかあり得るじゃん!
「それもそうなんだけどそうじゃなく……」
ラコの表情が読めない。別れるって言われたらどうしよう!!!
「知ってたよ」
知ってた?? 俺は知らなかったのに?
「あたしだって、知ってた。ラコがあたしの気持ちに気付いてる事くらい」
え? 山之内は更にその先まで知ってた?? 俺は知らなかったのに?
あれれ? 俺だけがすべてを把握してると思ってたのに、俺だけが知らない事がずっとあったって事?
「だから、もうラコと一緒に居られない」
山之内は顔を歪めて両足の上に置いた両こぶしを握り締めた。
「どうして!」
「そんなのあたしが聞きたい! どうしてラコの好きな人好きんなっちゃったのって! 何度も何度もどうしてって思ったよ!」
「違っ……そう言う事じゃ……!」
「だからずっと隠してた! 隠せると思ってた! なのに……!」
二人の声がどんどん大きくなって、感情が昂って行く。
とりあえず二人が話せる場所を作ればそれで俺の役目は終わりだと思っていたが事情が変った。山之内は全部の責任が自分にあるかの様に己を責めている。そうじゃない。
「待て! それについては俺にも悪いところがある! カッコ良過ぎるって言う……」
ガンッ……!
山之内に思い切り殴られた。
「痛っ……何すんだよ!」
「反射」
だから仕方ない、と言いたいんだろうが単語で済ませやがった。




