付き合ってくれるなら
「綺麗な足が切られちゃうのは足フェチさん的にはちょっとショック?」
「茶化すなよ」
「あはは、だったらまともに慰めてみなよ」
言う通りだ。だけど言葉が見つからない。山之内に悲しい笑顔をさせてしまうだけだ。
「ラコには……」
「言ってないよ。このまま、たぶん学校もやめる。どれくらい日常生活に戻れるか分かんないし」
「おい、お前また……」
「決めた事に口出ししないで! あんたにだって言うつもりなかった!」
「あ……」
何も言えず、そのまましばらく無言で歩いたが、何もないならと山之内が急に立ち止まり、くるりと方向を変え来た道を戻ろうとした。
俺は咄嗟に山之内の腕を掴んで捕まえる。
「離してよ。あたし非力なんだから、掴まれたら逃げられないし……痛い」
「ごめん、でも、もうちょっと話そう」
「何を?」
出て来ないけど……。ああ、情けないな。だけど今ここで山之内に行かれるのは……。いや、これもただの俺のエゴだ。
山之内を掴んでいた手に、力が入らなくなる。
「じゃあ……」
山之内の手首がするりと俺の手から抜けて一瞬空っぽになった俺の手を、山之内が握った。そしてそのまま自分の胸元辺りに俺の手を引く。
「あたしと付き合ってくれるならもっと色々話しても良いよ」
「え?」
何の冗談だ? いや? これは……。そう言ったら俺がこの手を振り払うと思っているのか? そのまま真っすぐ見つめられて、鼓動が早くなる。
出来ない……。
「……」
先に動いた方が殺されるのかってくらい、二人とも動けなかった。どのくらいそうしていたか分からないが山之内がパッとお手上げの様なポーズになって言った。
「あーあ! なぁんにも出来ないくせに追い掛けて来るんだからイヤになるわ」
振りほどかれた……と、言う事だろうか?
「言うつもりなかったのに」
何も決定的な事は言われていないと思うが、この一言で決定的になってしまったと思う。俺は、鈍感じゃない。
「もういよいよラコに会えなくなった。分かるよね」
「……」
これは、俺の……せい……?
「どうしてラコがあんたを好きになったか知ってる?」
そんなの分かるもんか。自分がどうしてラコが好きなのかだって正直明確なキッカケや理由はない。でも、そんなもんだろうって思ってる。
「カッコ良いからだろ?」
言ったら鼻で笑われた。俺はずっと自分がイケメンだと勘違いしていたのだろうか。
「……あんたってたぶんさ、自分が思ってるよりうんと顔に出るんだよ、基本的に人に興味ないけど、好意は伝わって来ちゃう。やたら熱っぽい目で見られて意識させられちゃうみたいな、好きじゃなかったけどキスしたら好きになっちゃったとか、聞いた事ない?」
「ないよ。分かる気はするけど」
「先にラコを好きになったのは間違いなくあんた、ラコはその目で見られて意識しちゃった。ほんと……止めて欲しい」
「え……」
「……本当に……あたしだけだった……?」
俺は……いつからか……山之内を、そんな目で見ていた……って、そう言ってるのか? 正直本当に分からないが、ないないと否定する事が出来ない……。
「手術ね、東京の病院でやるから。これでも色々忙しいのよ。今日は最後にオッソブーコまんが食べたくて探してたんだけど、もう良い」
俺は何も言えなくなってるのを察して、山之内は話題を変えた。
「ご、ごめ……」
ありもしないオッソブーコまんで釣った事を申し訳なく思ったが山之内はこう続けた。
「あたしがくんぺぺさんのSNSチェックしてないとでも思った?」
声を出さずに、口の形だけで「ばーか」と俺に伝えると、山之内は駆け出した。その顔は笑顔だったが、それが俺を締め付ける。
短いスカートが翻って、白く、しなやかな足が跳ねて行く。
追ってはダメだ。




