ショック
翌日、俺の身体は良い感じで疲れていた。らしくもなく海ではしゃいじゃったからな。アイスでも買いに行くか。
のそのそ支度をしていたらふと思い付いた。あそこのマルマート、まだ中華まんやってるかな、と。普通なら七月に蒸し器なんて置いてるコンビニはないと思うが、変ったラインナップでお馴染みのマルマートだ。一部の客のニーズに答えてまだ置いてるなんて可能性もなくはないんじゃないだろうか。どうせ暇だし、自転車でふらっと行ってみるか。あの時は爆速で漕いだがゆっくり行けば良い。
あの時のラコ、自転車を放り投げてオッソブーコまん買いに入って面白かったなぁと、のんびり店内に入ろうとしたら丁度中から誰かが出て来るところだった。ここは自動ドアじゃないし、出て来る奴が優先だと扉を抑えててやる。やたらと足を出したファッションの若い女で、眼鏡をかけていた。かなりの美脚……。
「ん?」
「あ……」
「山之内かよ」
山之内は素早く眼鏡をはずして足早に去ろうとする。
「ないよ、オッソブーコまん」
俺の目的にはすぐピンと来た様だ。
「待てよ」
「何!!」
何で怒ってんだよコイツ。やっぱり絶対変だ。
「そっちこそ何だよ?」
「別に普通でしょ?」
「普通じゃないだろ」
「何でラコと付き合ってるのに違う女に話し掛けるのよ」
ああ、やっぱりそう言う事か。それにしたってだろ。
「極端なんだよ、俺とお前がギスギスしてるとラコもイヤな筈だ。学校始まってもずっとそうやってるつもりかよ?」
「……その心配はないわよ」
「いいや、お前にそんな器用な真似が出来るとは思えな……」
「そう言う意味じゃない!」
「じゃあどう言う意味だよ」
「もう、学校行かないと思うし」
「は?」
どうも様子がおかしい。おかし過ぎる。これ、俺とラコが付き合ったからじゃないだろう。絶対他に原因がある。ないならその態度を改めさせてやる。
「来い、歩くぞ」
「勝手に歩きなよ」
「ああ、この前はSNSを駆使してお前に潰れたオッソブーコまんを持って行った。今回もくんぺぺ@オッソブーコまん大ハマり中さんが新しい情報をくれたのでそこまで歩く。当然お前も食いたいだろう」
嘘だが喰い付くはずだ。
「……」
ほら、悩んでる。
「連れてってやっても良いが道中話し相手くらいにはなるよな?」
「はぁ……、なんで今日、会っちゃうのかな……」
独り言のように呟いてから山之内は観念したように言った。俺的には今日会えて良かったがな。モヤモヤは引っ張りたくない。
「分かったわよ」
オッソブーコまんの当てはないので、俺は目的もなく俺は歩き始めた。まぁ店が多そうな方に歩けば良いだろう。
「学校もう来ないってどう言う事だよ」
「言葉通りの意味」
「理由を聞いてんだよ」
小さくため息を吐き、山之内が俺の方を見た。やっと俺をまともに視界に入れる事にした様だ。
「……ねぇ足フェチさん、あたしの足、綺麗だった?」
綺麗だったよ。
「何を言ってんだ」
俺が聞きたいのは学校に来ない理由、必要以上に俺を避ける理由なんだが。まさかうやむやに会話して流す気じゃ……。
「足を、切らなきゃいけない」
「え?」
俺は勝手に山之内を疑ったが、次の言葉で、何も隠さず、本来言いたくない事を言ってくれた……んだと思う。
「あ……え?」
自分で聞き出しておいて、俺は何も言葉が出ない。情けない俺の代わりに山之内が続けてくれる。
「あたしの病気、血管の病気なんだけどさ、右足ばっか違和感あって、何でかなって思ってたんだけどさ、どうやら放っておくと足から懐死してくって……」
どうして……? 山之内が難病と戦ってるのは知ってた筈なのに、ここのところ凄く元気で忘れていた。治ってなんかいなかった。当たり前だ、難病だぞ。何で忘れてたんだ。
「夏休みに検査入院の筈だったんだけど急に酷くなって緊急入院して、来月には切ろうって話しになった」
「来月……?」
「そ。まぁ、来月にしてって頼んだのはあたしなんだけどね。だって、足がなくなるんだよ。もう海で水着になる事も出来ないんだよ。こんな短いスカートも穿けない。制服も短く出来ない。出来るけどしたくない……」
海だけは、と言っていた。七月中に行こうと、言っていた。
「最後に思い出作りたかった。だから、どうせ切るならって、薬やめてたんだ。元気に学校も行きたかったからさ」
山之内が調子悪いのは薬の副作用だったワケか。それで退院後はやたらと元気だっただけなんだ。気まぐれだと思っていた言葉の一つ一つ、退院後の好調にさえ、悲しい理由があったのだ。
ショックだ。




