一人残らず成敗!
退院してからの山之内は凄く調子が良さそうで、明らかに入院前よりテンションが高い。入院前も騒々しい奴だったが、まさか伸びしろがあったとは驚く。入院中にかなり病が好転したのだろう。大輔ももう山之内に対する変な警戒心はない。
高校生活を謳歌する山之内に付き合って、俺達も日々を謳歌していると思う。
一緒にいる事が楽しくて、ラコからまだ返事を貰っていない事も霞みそうだ。選択授業で別々になるとその事をふっと思い出し、ちょっとだけ不安にはなる。
「みんな全然真面目にやってないね、当たり前だけど」
コツンと椅子を蹴られて振り返ると山之内にそう言われた。選択授業が自習でガヤガヤしていたのだ。選択授業の席順は自由だが毎回山之内は通常授業と同じ様に俺の後ろに座る。
「久々にサボっておるちゃみんとこ行っちゃおうか」
怠そうに片肘を付いて肩眉を吊り上げる。
「良いな」
その挑発的な表情に俺は乗ってしまった。授業が始まってからのエスケープとは大胆な事をしている。
誰も歩いていない廊下を歩く。教室から聞こえて来る教師の声や、筆記用具がノートを擦る音。これだけで非日常。授業をサボってる不良生徒なのに優越感を感じるんだからしょうもない。
「だいぶ調子良いみたいじゃないか」
「だから大丈夫なんだってずっと言ってるじゃん! ねー、おるちゃみ~」
言いながら猫の頭をぐりぐりと少し乱暴に撫でまわす。おるちゃみは嫌がる素振りも見せずされるがままだ。
「良かったな、色々と」
「色々?」
「隠し事もやめて、ラコと仲直りも出来て、病気も回復に向かって」
山之内は「ん」と一度小さく頷いてから続けた。
「後は期末さえ乗り切れれば何も心配事はないわ」
「俺は何となく勉強のコツを掴んだ気がする。中学の時からラコと仲良かったならもっと教えてもらう機会とかなかったのか?」
「勉強なんかしてたって時間がもったいないじゃない。ラコとはもっと楽しい時間を過ごしたかったのよ。今ほど勉強も難しくなかったしさ」
確かにそれはある。近いと言う理由で高校を選ぶことは良くある話だと思うが、俺もその選び方でちょっとだけ無理して入ったのだ。お陰で今まで通りの一夜漬けでは歯が立たなくなった。コイツもそんなところだろう。選んだ理由はラコ、かも知れないが。
「そう言えば近所に住んでたのに仲良くなったのは中二からだったんだって?」
「なぁに? ラコから聞いた?」
隠す事でもないと思ったので俺は頷いた。
「じゃ……あのしょうもない話しも聞いたんだ?」
「……? 何の話だ?」
「ラコと仲良くなったきっかけだもん、聞いてないわけないでしょ?」
「本当に何も聞いてない。ある日突然お前がグイグイ来て仲良くなったって」
「……え? 本当に?」
本当にそうだが、山之内は俺が嘘を言っていると思っていそうだな。
「ま、どっちでもいっか」
「どっちでも良いならキッカケ教えろよ」
「ラコが気を使って下手な嘘を吐いた可能性があるのに?」
「どっちでも良いならって言っただろ」
本当にどっちでも良いんだが、山之内は少しだけ考えて話す事にした様だ。暇だしと付け加えて。
「あたし学校休みがちだったからさ、変な噂が流れたわけ」
ああ、これは大輔に聞いた話だ。
「これはあんたも聞いた事あるんでしょ?」
「うん、直接確認しただろ、やってるのか? って」
「そう、今でもそう思ってる?」
「思ってないよ」
あの時も、何となく嘘なんじゃないかとは思ってた。
「中学ん時はみんなそれを信じたの。それで……ちょっと孤立しちゃう様な時期もあってさ、まぁどうって事なかったけど。でもその時からラコはちょいちょいあたしを気に掛けてくれてた。ハッキリ言って余計なお世話だって思ってたんだけどね。あんな優等生に周りをうろつかれちゃあたしが惨めになるじゃん」
ラコから聞いてた話しと違うな。先に山之内に接触したのはラコだったのか。もしかしてそれも自覚なし?
「で、人気者のラコがあたしなんかに構うもんだから、あたしへの風当たりがだんだんエスカレートし来て……ここら辺はあんま詳しく言いたくないけど」
まだ笑って話せる出来事じゃないって事か。
「ある朝教室入ったら、結構酷い事書かれてたんだよね、黒板に」
黒板に誹謗中傷とは、古典的と言うかいかにも中学生がやりそうと言うか。くだらないと思うが集団になると良く分からないノリが生まれるからな。
「あたしのすぐ後ろにラコが来てて、当然それ見て、あたしはこんなの優等生のラコに見られたくなくて、ちょっと泣きそうんなっちゃってさ、そしたらラコね、すんごくカッコ良かったんだよ」
うん、想像するに容易いな。きっと颯爽と黒板の文字を消して皆にガツンと言ってやったんだろう。
「颯爽とある一人の男子生徒に平手打ちをかましてさ」
え?
「そいつは普段からあたしに対して一番ちょっかい掛けて来てた奴なんだけど、黒板の前に立ってたワケね? そいつにパシンとやってから恥を知れだとか、浅ましい男だとか、とにかく言いまくったのよ」
まず手が出るとは……。そこまで激しい一面があるとは思わなかったな。ラコの新たな魅力収集。
「でもあたし何かおかしいなって思ったんだ。その男子生徒、黒板消しを持ってたんよ」
「黒板消し? まさか……」
「そう! そいつは確かにウザい奴だったけど、そう言うやり方する奴じゃなかったんだよね。今にして思えばあたしの事好きだったんじゃないのって感じ」
「好きな子虐めちゃうアレか?」
「分かんないけどね。でもそいつは言い訳しないでラコに謝って、そのまま黒板消しで黒板綺麗にしたの」
「男らしいな!」
「でしょ? でもラコは勘違いでそいつに思いっきり平手打ちして怒鳴りつけて、そして教室全体に向けて言った」
まるで何かの口上の様に山之内はノリノリで続けた。
「こんな事をする卑怯者は一人残らず成敗されますよ!!! って」
「……ぶっ……!」
「あははっ……!」
思わず吹き出した俺に釣られてか、山之内もすぐに大笑いした。




