おるちゃみ
「そりゃ良かったな」
「勉強も運動も頑張って、ご飯いっぱい食べて、オッソブーコまんも毎日食べて、そんで夏休みは海行く!」
「あそこのマルマートもう蒸し器置いてないぞ。それに海の前に期末試験……」
「夏祭りやら花火大会やらは二人きりにしてあげるからさー、海くらい一緒に行ってくれるよね? 見たくない? 見たいでしょ? あたしの美脚!」
そう言って山之内はベッドの上でパジャマの裾を捲ると、スラリと足を伸ばした。いつも校則違反の短いスカートをはいているので別に今更だが、まぁ正直悪くはない。足フェチ認定されているのは気に入らないが完全否定も出来ないのが辛いところだ。
ちなみにだが制服チェックの時にはちゃんと規定通りの長さにして、それ以外の時はウエスト部分をくるくる折り曲げてわざわざ足を出しているのだ。何故そこまでと思うがありがとうございますと思う男子も居るだろう。
「何言ってるの、夏祭りも花火も一緒に行こうよ」
ラコはやたらテンションの高い山之内にそう話し掛けた。
「え……だって……」
山之内が俺達の顔を交互に見比べる。
「な……何……」
「何だよ」
「……嘘でしょ?」
別にまだ付き合っているワケじゃないと悟った山之内が眉間に皺を寄せる。
俺はやれるところまでやったので何も言われる事は……。
「ホント相変わらずね、もしかしてあたしが居ないと進まない?」
やれやれと肩を竦ませた山之内の表情はどこか嬉しそうで、絶妙に腹が立った。俺は思わず病人である事を忘れて手が出そうになる。
「そうだよ、だから早く学校来て。リンネ」
「うっ……?!」
ラコから真っ直ぐな好意を向けられ、山之内は逆にしどろもどろになった。はっはーん、この前もそうだったが、案外こう言うパターンが苦手なのか。
「そうだよ、来てくれよな、山之内」
「なっ……! 言われなくても……もちろん行くわよ!」
いつも調子を狂わされてるのはこっちだからな。ざまぁ見ろ。
それから、ラコの協力のお陰で無事に補習もクリアした山之内は予告通り翌週には学校に現れた。
ラコ以外にも山之内の復帰を喜ぶ奴は多く、クラスがあっと言う間に賑やかになる。なのに中学の頃は嫌われていたと言うのだから、集団と言うのは恐ろしい。
昼休みは当然の様に山之内に誘われ、ノリコの世話を一緒にしてくれた大輔も誘われた。
「期末を一発クリアする為に授業はサボれない。だから昼は猫のところで食べたいんだけど良いよね? さぁ行こう」
と、いった感じだ。
良いよね? と聞いておいて返事は聞かずに歩き出すのが山之内。もともとそう決めていた様で追加のレジャーシートまで持って来ている。
「はいラコ、虫除けスプレー」
用意周到だ。
「うぅ~、よちよちよち良い子でちねぇ~。こんな可愛い子と遊んでたなんて、もう隠してる事ないでしょうね?」
猫にでろでろのラコ。そんなラコが可愛いんじゃい! と、怒りさえ覚える。
「……だ、だってここ日当たり悪いし、虫もいるからラコ嫌かなと思って……」
「んもー! チョココスが可愛いから何でも良いわ!」
「……え? チョココス?」
ラコに聞いた直後に山之内は俺を見た。自分が休んでる間に何か話しがあったのかと言う顔だろう。でも知らない、今日初めてここへ来たのは間違いないぞ。
「名前がなきゃ可哀想でしょ? チョコレートコスモスって言う黒い花があるのよ、縮めてチョココス。この子にピッタリじゃない?」
ラコはノリコを抱き上げモフモフを楽しみながら言った。勝手に名前がないと決め付け、更に命名してしまったのだ。
「ち……違うよラコ! この子の名前はノリコ!」
当然山之内はすぐに誤解を解こうとラコに訴えた。
「あ、もう名前付けてたんだ……でも……チョココスの方が可愛くない?」
「可愛いけど良いの、もうそう呼んでるんだもん」
「人間の名前付けるのはあんまり良くないよ、ややこしいだろ」
俺的にはノリコでも何でも良いが、意外にも大輔がここに口を出した。実は俺の母親の名前が紀子なので確かに……ややこしいと言うか、良い気分ではない。
「良いんだってばー」
「まぁ、もうこの子が自分をノリコだと思ってるんなら仕方ないけど……」
「別に呼ばなくても寄って来るぞ。ポケットに餌を忍ばせてる奴んとこにな」
「そろそろ大人になって分かって来る頃だよー」
「つまりまだ分かってはいなんだね」
「変えるなら今だよな」
「変えないってばー」
非常にどうでも良いやりとりが続いている。心の底からどっちでも良いがここは一つ、俺が思っている事を言ってやろう。
「てかノリコってネーミングセンス、全然ギャルっぽくないよな」
確かに、とラコと大輔が頷く。
「うっ……?!」
どうやらかなり効いた様だ。
俺の一撃でノリコは沈んだ。結局みんなで考えて改名する事に。なんやかんや話しあって最終全員が納得した名前が『おるちゃみ』だ。全員と言っても俺と大輔は正直何でも良いのでラコと山之内が納得しつつ、俺達も変とは思わず、ギャルっぽさを残した結果である。
「おるちゃみ~♪ 可愛いね~♪ そっか思い付かなかったわ、めっちゃ可愛い名前だわ~」
本人もだいぶ気に入っている様で良かった。
こうして、昼休みをおるちゃみ含め四人と一匹で過ごすのが定番になった。




