スタンプ
早速、月曜にラコは数学教師に事情を説明した。もちろん教師側も山之内の状況は把握しているので、ラコがお見舞いついでに一緒に課題を見てくれる事をむしろ喜んだ。ラコなら信頼出来ると言う事なのだろう。山之内的にはお望みではなかった事であろうが、後々の事を考えたら絶対にこの方が良い。
……で、どさくさに紛れて俺も課題を持ちかえるつもりで居たのだが、それには難色を示された。そりゃそうか、本来は学校でやるべき事である。俺はすでに二回もサボってるんだ。
ラコは、三人でやった方が高めあえるとか、山之内のやる気にも繋がる、など、どうにか教師を説き伏せようとしたがダメだった。
「説得出来なくてごめんね」
「何言ってるんだ、当たり前の結果だしラコが謝る事じゃないって」
ラコに教えてもらったところの応用だろうし、残りの補習は頑張って片付けよう。終わったらまた病院に顔出そう。ラコが居るもんな。
昼休みはまた大輔とノリコのところへ行き、最近ラコと仲が良い事をからかわれた。ふふ、もっとからかってくれ。まぁもしかしたら近々そんな話しじゃなくてちゃんと彼女になっちゃうかも知れないと思うがな!
「最近山之内来なくなって良い感じなんじゃね?」
大輔が唐揚げパンに喰い付きながら言った。
まぁ確かにアイツのアシストは下手くそだったがアイツのお陰なところも多々ある。告白まで行ったのもアイツの存在が大きい。
「アイツとは関わらない方が良いって言ってたのさ、援交だとか半グレだとか、中学ん時にそう言われてたからだよな?」
「ああ。だけどそれも、桐生さんと仲良くなってからはなくなったんだけどな」
そう言えば、急に仲良くなったんだってラコも言ってたな。
「桐生さんは真面目だし成績優秀だし、おまけに美人だし、誰も彼女をバカに出来る奴なんて居なかったからな。その桐生さんの友達なら恩恵も受けられるって」
ふぅん、それであんなにラコにべったりなのか?
あれ……? 俺は一つ不自然な事に気付いた。
「ラコと仲良くなった頃にギャルになってったって言ってなかった?」
「うん」
「じゃ、その噂が流れてた頃って、あの地味な眼鏡山之内だったワケか?」
「そう」
偏見が酷いのは百も承知だが、どちらかと言うと見た目が派手な方がそんな噂が立ちそうな気がするが……。
「良く学校休んでたから、半グレと付き合いがあって、その繋がりで援交。ただの援交じゃなくてカモったおっさんを脅してさらに金出させるみたいな事言われてた。見た目地味な方がおっさんを釣りやすいんだとか……」
まさか。
よく休んでたってのは病気だからだし、あり得ない。
「で、カモられたおっさんの中に教師が混じってたから休んでても学校側は何も言えなかったとか何とか」
「はぁ……」
学校側はさすがに病気の事を承知してたってだけだろう。山之内の意向でおおっぴらにはしなかったんだろうが、中学生の妄想があまりにも酷い。
「まぁハッキリ言って一時期は酷い嫌われようだったよ。イジメに近いもんもあったかな」
「マジで?」
「実際ちょっと不良っぽい子達も居たんだけど、その子らとつるむワケでもなく、でも噂のせいで目立っちゃってたからな」
そりゃ実際は不良じゃないんだからつるまんだろう。
「高校入ってからはほとんど聞かなくなったけど、派手になればなるほど噂が消えていくってのも不思議なもんだな。たぶん桐生さんが一緒だからだけど」
「そうだよ、だから余計な事言って広めんなよ」
「俺は広めてねぇよ! お前が面倒な事にならない様に言ってやってるだけ!」
本当に他意はなさそうだ。
「ありがとよ、でも大丈夫だよ。山之内はそんな危ない奴じゃない」
「……そうか、お前が言うなら、俺もその噂聞いたら否定しておくよ」
やっぱり大輔は気持ちの良い奴だ。
そして放課後、もともと再追試まで不合格だったのは俺と山之内の二名しか居なかったわけで、俺は一人きりで課題に取り掛かるハメになった。間違えていてもとりあえずは埋めてしまえば済むが、ラコの教えを無駄にしたくなくて真面目にやった。山之内がラコに申し訳なくて再追試を受ける事を内緒にしていたが気持ちが良く分かった。だったらもっと頑張れよとも思うが、試験中に体調が悪かったりしたらそれも仕方ない事だろう。もっとも、ただのアホかもしれないが。
ポヨン♪
課題も埋まり、そろそろ帰ろうと支度をしているとスマホが鳴った。
『一人で大丈夫だった? リンネも今日の分は頑張って終わらせたよ』
ラコだ。まるでお母さんみたいな導入なのが気になるが嬉しい。
『ラコの為にも頑張った。明日は終わったら病院行こうかな、ラコに会いに』
何だか告白したら好意を伝える事がめちゃくちゃ楽になってしまった。ちなみに真顔じゃない事は自分で気付いた。ニタニタしながら送信していたので、真顔で打つ事もスキルとして身に付けた方が良いかも知れないな。こんな事は今後なんぼでもあるでしょうし!
あれ……、既読付いたけど返信来ない。
ちょっとグイグイ行き過ぎたか。まだ返事も貰ってないもんな。仕方ない、帰ろう……と、カバンに仕舞い掛けたスマホが鳴る。
ラコからだ。良く分からないキャラクターの、良く分からない表情の、スタンプが一つ。
「ぷふっ……!」
思わず口元を抑える。何だよこれ。どう言う意味? 本来何用のスタンプなんだ?
何と言うか、無視はされなかったものの、上手い事流された気がするな。こっちの解釈でどうとでもなる様なスタンプ。これは便利かも知れないと、俺は同じスタンプを購入した。使うかは分からない。
それから、一人きりで真面目に課題を熟し、無事に補習をクリアした俺はその足で山之内の入院している病院へ向かった。なんとも清々しい気分だ。刑期を終えた囚人の如くである。
「て、事で、来週にはもう学校行くから」
山之内は元気そのもので、ラコはそんな山之内を目を細めて見ていた。




