知らんけど戦記それは僕らの闘いの記録
「なななっ……! 突然どうしたのよラコ~!」
当の本人はすっとぼけじゃないか。
「どうしたも何もないだろ、こっちは昨日面会謝絶って言われたんだから。多少心配もするだろ」
「え? あー、あははっ、昨日はちょっと強い薬飲んじゃったから強制的に寝なきゃいけなかっただけ! 薬って寝てた方が効くんだよ」
なんだ……。やっぱりそうじゃないか、コイツ殺しても死にそうにないもんな、性格的に。
「何だよ、ちゃんと説明してくれりゃ良いのによ」
と言うかこっちがちゃんとナースセンターなりに説明を求めに行けば良かったのか? 面会謝絶と言われたと言ったが、正確にはプレートに追い払われただけだ。
「家族以外にはあんまり詳しく話せないとかあるんじゃないのー? 知らんけど戦記それは僕らの闘いの記録」
「クスッ、何それ」
「ギャル語、今日考えた」
「ギャル語考える余裕あるならメッセの一つも寄越せよ。あとそれ絶対ギャル語じゃないよもうワケが分からない何かだよ」
「はぁー? 撫山に送る意味ないじゃん」
「ラコにだよ!」
「ごめんラコ! まだちょっと頭覚醒しきってなかった!」
山之内は素直に認め、大袈裟にパチンと目の前で両手を合わせてラコに頭を下げた。
「んーん、大丈夫、そうだこれ!」
そう言ってラコは自分の胸元から、少しでも冷めない様にと大事に運んで来たオッソブーコまんを取り出した。しかし……。
「わぁ……」
「台無し……だな……」
それはラコがベッドに突っ伏した時に激しく圧迫され……潰れてる。
「ご……め……」
「……」
「ぷっ……! あはははっ……! ねぇラコ! オッソブーコまんの匂いだけであたし幸せだから大丈夫!」
神妙になるラコを山之内が笑い飛ばした。白のブラウスがオッソブーコまんから出た汁で茶色く汚れている。
「あははは! ねぇ汚れてるー!」
「わぁ! ホントだ、ごめん撫山くんのハンカチも汚れちゃった!」
「えー! 撫山ハンカチ持ち歩いてんの?」
「うんうん」
「偉いじゃん!」
「ね!」
何だかどうでも良い事で盛り上がっているラコと山之内。若干俺の事をバカにしている様な気がするが、まぁ良かった。心配して損した。バカみたいだ。もう二度と心配しない事にしよう。ラコはちょっと大袈裟なんだ、分かってた筈なのに振り回されたぜ。
「お母さんは?」
「洗濯物とか持ってった」
「まだ退院は出来ないんだね」
「うん、でも夏休み前に退院して、ちゃんと期末受けて、一発で合格して夏休み遊ぶ!」
「そっか!!」
ラコが嬉しそうだ。夏休みに入院するって言ってたけど、つまりそれが早まっただけじゃないか。しかも入院期間も予定より短いから期末に間に合うと言う事か。だけど……。
「その前に中間の補習じゃないか。俺は一足先に終わらせるぞ」
「う……裏切者……!」
心外だ。
「二回くらいサボってるんだが」
「はぁ? なんで? しっかりやりなさいよ」
言ってる事がコロコロ変りやがる。どっちが本心か知らないが、お前が心配だったからなんて口が裂けても言うもんか。
「あたしが心配だったとか言わないでよね!」
気が変わった。こいつが嫌がる事を言ってやる。
「心配で補習どころじゃなかったよ」
どうせまた高速で思いもよらない事を言ってくるに違いない。そう思って待っていたのだがどうもテンポが悪い。不思議に思って山之内の顔を見ると顔を赤くして口をパクパクやっているじゃないか。何だそのリアクションは。
「は?」
思わず出た。その音には素早く反応する山之内。
「は? って何! は? って!!」
「いや、顔が赤いから……やっぱ熱あるのかなと思って」
「~~~~!!」
何だよ本当に。何とも言えない顔でシーツを握り込んでいく。パワーも余ってる様だが。
「大丈夫?! やっぱりまだ本調子じゃないよね、入院してるんだもん、当たり前だよね、すぐ帰るね」
「違っ……! ちょっ……顔が赤くなる副作用なだけで熱はないから平気!」
「平気なら課題を持って来てやろうか」
意地悪のつもりで出た言葉だったがラコはハッと目を輝かせて喰い付いた。
「それ良い! そうよ! 事情を話したら大丈夫なんじゃない? 私が先生に頼んでみるよ!」
「ええっ……」
うむ。山之内は嫌がったが許されるなら絶対にそっちの方が良い。中間の補習を済ませてしまえば期末に備えられる。品行方正なラコが頼んでくれると言うなら効果も高そうだ。
「上手く行ったら明日早速課題持って来るね!」
「う、うん。でもあんまり無理に頼まなくっても良いよぉ~?」
「任せといて!」
この時の山之内の何とも言えない表情。また後で思い出し笑いしそうだ。




