くんぺぺ@オッソブーコまん大ハマり中
そして翌日、ラコとの集合場所を例のマルマートにしたけど……オッソブーコまんはなかった。
「誰かが買い占めて行きました?」
もしかしたら山之内の容態が回復して、またオッソブーコまんを食べたいと母親にわがままを言ったからではないのかと期待してレジの人に尋ねる。
「いや、だいぶ暑くなって来たからね、もう中華まんは置かないよ」
俺の期待は無情にも打ち砕かれた。良く見ればもうレジ横の蒸し器がないではないか。
『くいしん坊食い~!』
また浮かぶ。どうしても、買って行ってやりたい。そう思ってしまった。
「俺、ちょっとこの辺のコンビニ探して来る」
「あんまり置いてないやつなんでしょう?」
「そうだけど、ちょっと駅前と……」
「あ、案外スーパーに置いてあるかも知れない? 蒸してないやつ」
「いや、あれはコンビニ限定だと思う」
「そっか、ちょっと私SNSとか検索してみる」
ラコがパタパタとスマホを操作する。俺はそう言うのに疎いのでここは任せた方が良いだろう。
「あんまり情報出て来ない……」
「そりゃそうだよ、マイナーだもん」
「でも熱烈なファンも居るみたいね。やっぱりマルマート系列は固いって」
「ここらで別のマルマートって言うと……」
「えっとね……二駅隣り、駅からも少しある」
「自転車なら行けるな」
「じゃ一旦うちへ寄って。自転車ある。お兄ちゃんの借りれば良いし」
思いがけずラコの家へ行く事になったのだが……、それは何度も見かけた事があるデカい家だった。やっぱり辻褄が合わないじゃないか。
「お兄ちゃんの借りて怒られない?」
「もう実家出てるから全然大丈夫だよ。空気入れて行った方が良いと思う」
十分に空気を居れた自転車で連なり、オッソブーコまんを求め漕ぎ出す。
「あ、くんぺぺ@オッソブーコまん大ハマり中さんがたった今SNS更新した! オッソブーコまん買ったって!」
「どこで?!」
「今向かってる二駅隣りのコンビニ! 残しておいてくれるかな」
「大丈夫だ! 真のオッソブーコまんファンなら買い占めなんてしない筈だ!」
「そうよね!」
先を行っていたラコの自転車のスピードがあがる。置いて行かれない様にしなければ!
信じてるぞ! くんぺぺ@オッソブーコまん大ハマり中さん!!
「見えた! あそこのマルマートだと思う!」
ラコはコンビニの敷地内に入ると乱暴に自転車を乗り捨て店内へ走った。いやいやワイルド過ぎるだろう。こんな一面も見せて来るとか魅力的過ぎる。真似して飛び込みたいところだがお借りした自転車なのでキチンとスタンドで立て、ラコの自転車も起こしてから店内へ入ると……。
「あった……!」
ラコがすでにオッソブーコまんを注文し、店員さんが袋に入れてくれてるところだった。
「ああ!」
やっぱり真のオッソブーコまんファンは貴重なオッソブーコまんを独り占めする様な事はしないんだ。
「良かった。一つだけだったけど」
「十分だろ」
「あ、冷めない様に私、こうして行く! あちっ……!」
言うが早いか、ラコはそれを胸元に放り込み、直後に熱がった。
「そりゃそうだろ! ほら! 一旦これに包んでから……!」
「あ、ありがとう、撫山くん、ちゃんとハンカチ持ってて偉いね」
「良いから!」
このオッソブーコまんが山之内の口に入れるかは分からない。だけどまた俺達は急ぎめで自転車を漕ぐ。
「まだ温かいかも」
病院のエレベーターに乗ったところでラコは自分の胸元を触ってそう言った。言葉には出さなかったけど、俺は「良かったな」と口角を上げる。
またあのプレートが差し込まれていても仕方がない。その覚悟で山之内の病室を目指したのだが……。
「入れる……!」
プレートはなかった。だがまだ半分疑ってスライド式のドアに力を入れてみたのだが、それはスルリと横へ滑ったのだ。ラコと顔を見合わせてから、勢いよく最後までそれを開ける。
「リンネ……! 良かった!」
中に入ると、ベッドの周りのカーテンも開け放たれていて、すぐに山之内の顔を見る事が出来たのだった。
そのまま駆け出し、山之内のベッドに突っ伏してラコは泣き出した。また目が腫れちまうよ。それもそれで可愛いかもだけど。




