眠れない夜
「本当に私……自分の事ばっかりだった……」
そう言ってラコはまた自分を責めた。何か言って慰めようと思ったが、どれも陳腐になる気がして何も出て来ない。
もう一度スマホを見たがやはり既読は付いていなかった。昨日の夜から容態が悪かったと言う事だ。
「リンネが大変な時に、私……何浮かれてたんだろう……」
「浮かれてた?」
「私、リンネに……大変な思いをしてるリンネに……昨日、撫山くんに言われた事を話したの」
うぬぼれじゃなければ、いやさすがに、ラコを浮かれさせたのは俺だ。
「うん」
「そしたら、リンネ……すごく嬉しそうに、笑った」
「そうか」
想像出来るな。簡単に。
「変でしょ?」
変とは思わない。だってあの山之内だろう? 変と言うか当然だと思う。
「だって私、リンネに好きな人の話しとかした事ないのに」
あれで? 隠し事成功した事あるのかな。
「撫山くんにそう言われたら私が喜ぶって思ってたみたいなの」
俺もそう思ってるけど……もしかして今のこれも別に俺に好意を伝えているワケじゃないのかな。ただ事実を話してるだけで。でもさっき浮かれてたって言ってたし……。
「あの時だって、どこか痛かったかも知れない。高熱があったかも知れない。薬でボーッとなってたかも知れないのに……私、本当に最低だ」
最低なのは俺の方だろうな。でも山之内はそれを望んでいた。後悔はしていない。
「嬉しそうな顔して、笑って、それで何て言ってた?」
もしかしたら無神経な事を聞いてるのかも知れないけど、俺はラコにそう聞いてみた。するとラコはこちらを見ないまま教えてくれる。
「撫山くんとなら、楽しい思い出だけ作れるよって……だから夏休み……一緒に海とか花火とか行ったらって……」
「そうか」
「だから私言ってやったわ! そんな浮かれた事、絶っっ対出来ないって!」
なるほど、一刻も早く山之内には元気になってもらわないと。
「それにリンネが病気だって、これからも楽しい思い出いっぱい……作るって……! ううっ……!」
昨日二人で大泣きしたと言っていたので、少しだけラコの目は腫れていた。そんなに泣いたらもっと腫れてしまうだろう。
「大丈夫」
特に根拠はないけど、こう言う以外に俺は何も言えなかった。
「リンネが……このままリンネに会えなくなったらどうしよう……」
「……大丈夫」
それに俺は本当に大丈夫だと思っているんだ。
血管が炎症するだとか? 難病指定だとか? 何か難しい事言ってたけど、死ぬような病気だったらもっとこう、元気ないだろ。いつも元気そうだったじゃないか。そりゃあベッドの上の山之内は蒼白い顔をしていたが……。それでも、急に死ぬなんて事あってたまるか。
「絶対大丈夫だ」
前からリンネの病気に気付いていたラコと違って、俺にはまだ実感がないんだろう。同級生にそんな重い宿命を背負った奴が居るって事。
「帰ろう、送って行く」
気付けば俺達は、すっかり暗くなるまでただ病院の一角に居てしまった。ラコは頷き、何も出来なかった今日を終わりにする。帰り道ではほぼ会話はなかった。
――その夜、正直俺は眠れない自分が意外だった。
爺さんも婆さんもピンピンしてる俺にとって、「死」と言うものを真剣に考えた事が、感じた事がなかったんだ。だからもっとドライだと思い込んでた。それに山之内の事なんてラコと付き合う為の、最低な言い方をすれば道具くらいに思ってた……筈。
実際は邪魔ばかりされてたしフォローも下手くそで、アイツが居ない方が色々スムーズに運ぶ気がするけど。
きっと俺がこんなにザワザワしてるのはラコが泣いてたからだ。そう言う事にしてしまいたかったけど、両手にオッソブーコまんを持って笑った山之内が浮かんだ。
『くいしん坊食い~!』
「……はは」
今日、笑う事があるなんて思わなかった。しかも山之内に関する思い出し笑いでだと。
しっかし入院中も欲しがるなんて本当にただの食いしん坊だな。
メッセに既読が付いたか確認しようと思ったが止めた。その代わり……と言うのも変だが、ラコに明日も病院に行こうと送った。途中でオッソブーコまん買って。会えないかも知れないけど、そしたら自分で食べれば良いし。
返信はすぐに来た。
『じゃあ、例の中華まんを買って行こう』




