ノーメイク
すぐ既読は付いたが返信は来なかった。
正直わざとふざけた伝え方をした自覚はあるのでちょっと気になる。もしかしたらすぐに通話を要求されるのではないかと身構えていたからだ。それを期待していた……のかも知れない。山之内ならそうするだろうとも思っていた。それが出来る様な容態ではない……と言う事だろうか?
そう考えたら何だか胸が騒がしくなって来て、何かしらのリアクションが来るまで風呂も飯も行けない感じだ。
こちらから連絡しようか、もうちょっと詳しい事をメッセで送ってやろうか。ふざけた事を後悔するくらいならあんな手間の掛かった悪ふざけをするんじゃなかった。千文字も作文するなんていつ以来だよ。まぁテーマがラコだったから足りなかったけどな。
ポヨン♪
スマホが鳴って俺は飛び付いた。
『一緒に来て』
それだけ。
想像するに……、詳しい話は直接母親から聞いたのだろう。それでラコがお見舞いに来るかも知れないと悟り、そこに俺も同席して欲しいと言う事ではないだろうか。
イヤだ……。
何故こんな事に巻き込まれなければならないんだよ。でも……ああ……クソ!
今山之内がどんな容態なのかも正直気になる。
どうせもう挟まれてるんだ。また聞きでややこしい事になるより、一体何が起こるのかこの目で見ておいた方が後々良いかも知れない。
『了解』
特に指定はなかったので、返信は二文字で済ませた。
そして翌日、俺はラコに一緒に行くと伝えた。
「どうして?」
おっと、理由を聞かれるとは思わなかったな。
「リンネに来てって頼まれた?」
何だろう、ラコは俺と山之内が繋がっている事に対してちょっと敏感な感じがする。
「いや、補習仲間として気になるからさ」
とっさに出た言い訳にしてはまぁまぁだろう。
「もちろん二人っきりが良いなら遠慮する」
こんな事で百パーセントない俺と山之内の事を疑われようものならたまらない。ラコが嫌がったら俺は音速で撤退するぞ。許せ山之内。
「ううん、ごめんなさい、全然イヤとかじゃない。一緒に来てくれるならその方がリンネも喜ぶよね」
「どうかな、怒るかも知れないけど」
俺の答えに納得してくれた様子のラコに肩を竦めて見せる。ラコは眉を下げて何とも言えない笑顔を返した。
山之内の入院している病院は学校からそう遠くはなかったが、それでも十五分程は電車に乗る必要があった。昨日会った山之内の母親は車で移動していた様子だが、それでもまぁまぁの距離を中華まん買いに行かせてたって、元気にわがままを言っている感じだな。そしてマルマートへの信頼度の高さよ。
「何かお見舞い持って来た?」
「いや、手ぶら。マズいかな? マルマート寄ってく?」
「遅くなっちゃうから、これ二人からって事にしておくね」
そう言って山之内は何かしらの紙袋を軽く揺らした。
「悪い」
何だかものすごく自然に会話しているがちょっと前なら信じられない。今の状態も山之内のお陰なら、前の異常な状態も山之内のせいな気がする。
さて、存在は知っていた、そこそこ大きな病院である。
五階の個人部屋だと聞かされてエレベーターを使う。病院なんてそう来る機会もないから何となくキョロキョロしてしまうよな。
「ここだね」
病室の前のプレートを確認し、横開きのドアをスライドさせる。
「あ、本当に来てくれたのね~!」
入るとすぐに山之内の母親がそう言って歓迎してくれた。山之内の姿は……まだ見えない。ベッドが白いカーテンで覆われていたからだ。
「お母さんちょっと、あっち行っててよ!」
先に声だけが聞こえた。力強くふてぶてしい事を言っているな。間違いなく山之内だろう。
「はいはい、じゃあ桜子ちゃん……と……」
「撫山暎です」
「暎くん、よろしくね」
まるで逃げる様に病室を出て行く山之内母。娘がヘソを曲げると面倒なのか、病気で不憫だと甘やかしているのか、まぁ俺はやりやすいから良いけど。
カーテンの向こうを覗くと、山之内がベッドで上半身を起こして居た。パジャマの袖をまくって、白い腕に針が刺さっている。針の周りが少し紫色になっている様だ。
「相変わらずそうだね」
ラコはそう声を掛けたが、俺は正直衝撃を受けている。山之内のこの姿に。
当然ノーメイクだし、パジャマは地味だし、髪の毛もボサボサだ。眼鏡まで掛けている。中学時代の山之内みたいだ。




