千文字
「一応、二週間って事にはなってるけど……最低でもって意味だから、正直分からないの」
ああ……。
「え?」
この大ピンチに特に何の抵抗が出来るワケもなく、万事休すだ。これ以上俺にはどうにも出来ないし、それにラコには早く知る権利があると思う。
「もう聞いてると思うけど、検査次第では大きな手術をする事になるし、良かったら今のうちにお見舞いに来てあげてね。あの子も退屈してると思うの」
大きな手術……? 何だよそれ。
「……良いんですか?」
ラコも相当驚いただろうが、冷静にそう言って病院の情報を聞き出した。
「もちろんよ。今はまだ検査の段階だから元気だし、元気過ぎてわがまま放題! オッソブーコまんを買って来てですって! 今のうちかと思って叶えてあげてるけどね」
そう言って山之内の母親はラコに入院先の病院情報を与え、オッソブーコまんをすべて買い占めて行ってしまった。
「食べられなかったな、オッソブーコまん」
山之内は買い占めは良くないからと一つ残して行ったけどな。
「やっぱり嘘だった」
ラコはオッソブーコまんが食べられなかった事なんてどうでも良いらしい。
「……そうだな」
「知ってたの?」
「知らなかったよ」
大きな手術なんて事はな。
しかし疑われている気がする。早めに山之内にこの状況を伝えてやらなきゃ……いや、母親から聞かされるか。オッソブーコまん持ってくんだもんな。
「私、明日行く。フルーツ持って」
「そうか」
うん。二人でしっかり腹割って話すべきだよな。大事な事だ。
「じゃ……私こっちだから」
俺はそう言って去っていくラコの背中を見送ったが、何か黒いものが出ている気がする。俺のせいじゃ……ないぞ……。
ポヨン♪
山之内の母親の話しをぼんやり何度も頭の中で繰り返し再生させていたらふざけた着信音が鳴った。俺のスマホだ。
『今日の昼休みと補習と下校時のラコの様子を千文字でまとめて送って候』
山之内である。
うん、これまだ母親から状況聞かされてないな。あの感じだと山之内がラコに事情を説明してないないなんて思ってなさそうだったし、そう大した出来事と捉えなかったのかも知れない。
千文字かぁ……。
『今日もラコは綺麗で可愛かった。真っすぐな黒髪がキラキラ輝いていて俺は斜め後ろからずーっとその髪を眺めていた。時々髪を耳にかける仕草にもグッと来る。俺以外にも見ている奴が居るのに気付いたので大き目の舌打ちで牽制してやった。前髪はやや右分けにしてあった気がする。たまたまそんなクセが付いてしまっただけかも知れないが、普段は真っすぐ下りて額を隠しているので、ちらちら見える眉の上の肌色がとても眩しく、たまにはもっと分け目を作っても良いんじゃないかなと思った。そんな事を考えていたら午前中の授業は終わった。ちなみに三時限目は怠かったのでサボり、ノリコが居るところに行った。ノリコはちゃんと俺にも近寄って来た。腹を空かしてるみたいだったが持ち合わせがなかった。四限目が終わり、ラコを誘おうかと思ったが他のグループの女子が誘いに来て今日ラコはそのグループの人達と一緒に食べてた。楽しそうに見えた。俺はいつも一緒に食べている大輔とノリコのところへ行ってパンとミルクを与えた。大輔は良い奴だから大丈夫だ。ノリコは大輔にも懐き、終始喉をゴロゴロ鳴らしていて可愛かった。ラコの次に。そうそう、その時大輔に中学時代の卒業アルバムのラコを見せてもらったのだが当時から完成された美しさで本当に凄いと思った。もっと見たいので今度ラコ本人に昔の写真を見せてくれってお願いしてみようと思う。午後の授業一発目は選択授業だったのでラコの姿を見る事は出来なかった。六限目でようやく一緒になる。午後になるとやたら顔がテカり出す女子が多いと思うがラコはいつも涼し気だ。順番で指されたがちゃんと答えていた。俺には質問の意味も分からなかった。ラコは凄いし綺麗で可愛い。でも答え終わった後、ちょっとだけ溜息を吐いていたと思う。やっぱりラコも指されると緊張するんだと思う。その後はもう指される事もないと思ったのか、珍しく窓の外を見る様な仕草が多々あった。窓の外を見るくらいなら俺の方を見てくれれば良いのに今日は一度も授業中に目が合わなかったと思う。つまらない六限目が終わったが俺は補習があるのでまだ帰れない。それなのに、なんとラコの方から「撫山くん一緒に帰ろう」と誘って来た。その瞬間俺はすべてがどうでも良くなった。世の中には補習よりも大切な事なんて山ほどあるが、ラコからのお誘いよりも大切な事はない。俺は速攻で支度をしてラ』
マズい、ここまでで九百八十七文字だ。あと十三文字しか使えない。仕方ない、あとは端折って、これだけは伝えなければいけない。
『マルマート母遭遇入院バレた』
伝わるだろう。




