大ピンチ
「大輔~、お前猫大丈夫?」
「え、大好きだけど?」
山之内の秘密基地をあっさり大輔に教えて俺はノリコと戯れた。これに関しては口止めされていないし、ノリコも人間が好きそうだから良いだろう。
「卒アル持って来てくれた?」
「持って来るわけないだろ、あんな重いもん」
「ナポリタンパン奢るって言ったじゃないか」
大輔がラコと同じ中学卒業と聞いて卒業アルバムを持って来いと言っているのになかなか持って来てくれない。
「ほらよ」
「ん?」
その代わり大輔はスマホの写真を見せてくれた。なるほど賢い。これなら重くない。時代はデータ化だな!
「うおっ! 中学時代から完成してるじゃないか!!」
「ああ、桐生さんはもう中一からそうだ。見てみろ、一年の時の集合写真も撮ってある」
完成され過ぎて意外な喜びはないが、さすが桐生桜子だ! と言う畏怖にも近い物を感じる。これ、男子はちょっと近寄り難さもあっただろうなぁ。
個人撮影、クラス撮影、部活、委員会、一年生の時の集合写真、二年生の時の集合写真、大輔は俺の為にラコが映っている部分を色々撮って来てくれた様だ。だが残念ながら鼻に絆創膏を付けた写真は一枚もなかった。
「これは?」
一年の時の集合写真に気になる女生徒を見つけた。眼鏡を掛けた一見地味な女生徒だが、前列に座っていて……やたらと足が綺麗だったから。コイツは将来化ける可能性が……。
「あん? ああ、山之内リンネじゃないか」
「はぁ?!」
大輔がなんて事ない様に言うが、ノリコがビックリして逃げるくらいにデカい声を出してしまった。
「いやいや別人じゃねぇか」
「中二くらいまでそんな感じだったよ」
「そうか……。まぁ最初からギャルのワケないもんな。だんだん出来上がってったワケか」
「いや、ある日突然ギャルになって来た。桐生さんと仲良くなった頃くらいかな」
何でだろう……。アイツなりになんか理由がありそうだけど、凄く極端な暴走してそう。
中学時代の、眼鏡の山之内……。
「ナポリタンパン、奢ってやんなきゃな」
「おうよ!」
「撫山くん、一緒に帰ろう」
「!」
惰性で一日を過ごし、さぁ補習だと腹を括った俺にラコがそう言って来た。ラコから誘って来るとは予想外だったが、山之内が居ないとラコは少し積極的だ。もしかして山之内が甘やかしてるから一緒の時は後ろに隠れる様になっちゃったんじゃない?
「もちろん」
せっかくのお誘いである。補習サボりくらいどうって事ない。山之内の件で何か話したい事があるから声を掛けたんだろうけどさ。
「この先行ったコンビニにさ、オッソブーコまんってあるの知ってる?」
しかし、ラコから山之内の話しは出て来なかった。と言うか、何の話題の提供もなかった。だから一生懸命会話を続けようと試みたがどれも撃沈である。当然、実は家が逆方向ですとも言えないので、ちょっとマルマートの話題を振ってみる。
「おっそ……ぶ……? え?」
知らないか。知らないよな普通。あんなマイナーな食い物。マルマートがおかしいだけで。これも撃沈かと思いつつ少し繋げてみる。
「俺好きなんだよ。でも置いてあるとこ少なくて、山之内に教えてもらった」
「そうなんだ……」
山之内は病気の事も、好きな食べ物の話しもラコにしない。でもラコだって、俺の事が好きって山之内に言ってないんだよな。でも二人が想い合ってるのは分かる。ちょっとだけ普通の女子高生とは違うような気がする。
「じゃあ、買って行ってあげたら喜ぶかしら」
ラコの表情が少し明るくなる。だがそれはマズい。だって山之内は入院してるから。
「いやぁどうかな、もう散々食ったとか言ってたし」
「要らなかったら私食べるから……だから、買って行こう」
あ、決めた顔してる。どうしよう。自分で振っといて困る俺。
「家の事情で休むって言ってたんだろ? もしそれが本当なら今家に押し掛けるのは迷惑になるんじゃないかな」
「撫山くんはリンネの言った事信じてるの?」
「まぁ、一応ね? 俺が見る限りはすごく元気だしさ」
シャラン♪
俺が頭をフル回転させていると綺麗な着信音が聞こえた。ラコのスマホだ。
ラコは「あ……」とそれを確認すると、またこちらに画面を向けて読ませてくれる。
『学校どうだった? ごちゃついててめんごだよ! 早くラコに会いたいで候~! 昼休みまた撫山ぴっぴと食べた? 補習は? メンディかもだけど長文キボンヌ』
候は武士だしキボンヌとかいにしえのネットスラングだよな?
「ほら、元気そうじゃないか」
「こんなの……真顔で打つよ」
うっ……そうなのか……。聞きたくなかった。今後ラコとラブラブなやりとりをする度に真顔かなぁ? って心配になっちまう!
「もう、良い。今日は良い。普通にオッソブーコまんを食べる」
「そうだな! 試してみて欲しい! 美味いんだ!」
良かった。でも二週間もメッセだけでごまかし続けられると思わない。今日は大丈夫だったけどきっと隠し通せないぞ。
「桜子ちゃん」
と、そこへ、ラコを呼ぶ聞き慣れない声。
「おばさん!」
ラコは警戒する様子もなくその声に応えた。
「久しぶりね、すっかり綺麗になっちゃって! ご近所なのになかなか顔を見ないものよねぇ」
まさかリンネの母親か? どことなく似ている。
「おばさん、リンネ……いつ学校来れますか?」
やはりそうか。
ん? あれ? と言う事は今大ピンチなのでは……?




