お願い申し上げたい
「あー! 分かった分かった! 完っ全に理解した! あたし天才ジニアスシュタインかも!」
山之内は無駄に元気である。天才は補習なんかそもそも受けないんだよ。
まぁ、元気がないのも調子狂うし、元気な分には無駄でも良いだろう。ラコも嬉しそうだ。
――しかし……。
翌日、山之内は来なかった。
遅刻してしれっと午後から参加する事も珍しくないので初めは気にも留めなかったが午後になっても来ない。もしかしたらあそこに居るのではと思い行ってみたがノリコがすり寄って来ただけだ。ポケットに忍ばせていた「ちゅ~う」をくれてやる。可愛かったので用意しておいた。
一体いつ来るんだ、まさかラコとの補習もサボる気か? そうなると夏休み返上もありえるが。なんだかんだで補習だけは受けにくるだろう。
……と、思っていたのだが、とうとう放課後まで山之内は来なかった。
あの野郎サボりやがった。俺はそう思った。補習を一人きりでやらなきゃいけないじゃないか。俺だけでもラコが見に来てくれると良いんだけどなぁ。
渋々補習用の教室に移動するかと席を立つと、ラコがスマホを胸元に抱いて斜め前の席から振り返った。もしや補習に付き合ってくれるのか?
「リンネから、メッセ来た……」
そう言うとラコはその画面を俺に見せてくれる。
『今日学校行けなくてガチめんご。ちょちカテーノジジョー的なノリでしばらく行けなさそ』
「カテーノジジョー……。ああ、家の事情って……何だろうな?」
もしそれが本当なら、あまり突っ込んで聞くのもどうかと思うが……。
「そんなの、嘘に決まってる……」
決めつけるんだ……。意外。だけどなんか、ちょっと怒ってるラコに新しい一面を見れた喜びを感じている。
「決めつけるのも良くないんじゃないか?」
ラコの反応が見たくてあえて反対の意見を言ってみた。ラコはこちらを見ないままもう一度絞る様に言う。
「嘘よ」
そしてそのまま教室を出て行ってしまった。
怒ってても可愛い。いやそんな事より、やっぱり今日は一人で頑張らなきゃ……。
一人でどこまでやれるかなぁと適当に課題に取りかかると俺のスマホが震えた。登録しない奴からだ。
『ちょっとだけ体調悪くて先に二週間入院する事になった。もともと夏休みにはする話しだったから大した事ないんだけど、ラコの事よろしく。ラコには言ってないけど毎日メッセは送れると思うから大丈夫』
山之内だ。クラスでグルーブ作ってるからそこから俺に送りつけて来たんだろう。
と言うか……、何で俺に言うんだよ。そのまま返信してやろう。
『どうしてラコに言わないで俺に言うんだよ、ラコが心配してる』
心配してるし疑ってるがそこまでは良いか。
『心配させたくないから。撫山なら別に心配しないだろうし、ラコのフォローをお願い申し上げたい』
こいつ絶対ギャルじゃない。勝手にお願い申し上げやがって。
ラコのフォローは望むところだがこの板挟み状態はいつまで続くんだろう? 二週間も休むって事は、期末テストに間に合わないだろう。そうなると夏休みも補習だ。追試でどうにか出来れば話しは別だがアイツがクリア出来るとは思えない。
ま、そこまでは知った事じゃないが。
『分かったよ』
とは言ったものの、別に俺のフォローなんかなくたってラコは大丈夫だ。なんやかんや声掛けられてるし、例え一人で居ても悲惨に見える事もないだろう。
せいぜい俺はノリコにご飯あげよう。




