シャインマスカット
「リンネ!」
「ヤバいヤバい超寝坊しちゃったけどダッシュで来た~! だって今日ラコがシャインマスカット持って来てくれるって言ってた……か……ら?!」
こちらに走り寄りながら俺に気付いた山之内は笑顔をだんだんと強張らせていった。すぐ一緒だって気付けよ。どんだけラコしか眼中にないんだよ。
「なななっ……! いいいい一緒に……! ひひひ昼休み撫山と一緒に食べてたのぉ?!」
隣りに座って居たラコの体温が急上昇したのが分かった。だって実際に熱を感じたから。
「うっ……うわぁぁーっ!!! 私、どうかしちゃってたぁぁーっ!!!」
ラコは弾かれたように立ち上がり、そのままの勢いで屋上から出て行ってしまった。昼休み俺と一緒って、改めて言葉にされて猛烈に自覚しちゃったんだろう。
「あっ……! ちょっ、ラコ!!」
ああ、ある意味、いつも通りのラコだ。安心する。山之内の元気な顔を見て、ラコも元気になった様だ。
山之内はすぐラコを追い掛けるモーションに入ったが、その前に俺をキッと睨み付け、二チャリと口の端を吊り上げた。分かりにくいが……たぶんラコと距離を縮めた事で満足している顔……の様な気がする。
「変な事は言ってないわね?!」
「言ってないよ」
俺は言いながら摘まんだままにしていたフルーツを口に頬張った。これがシャインマスカットだったのかぁ、皮のままイケて美味い。
俺の返事にホッとした表情を見せた山之内だが、俺のこの行動に過剰に反応する。
「あっ! あたしのシャインマスカット!!」
「今のがラスだ。残念だったな、早く来ないのが悪い」
病人扱いはしないからな、山之内。
「ぐぬぬぬぬ……! 覚えてらっしゃーい!!」
どこの悪役だ。去り際にそれ言う悪役絶対雑魚だろ。
「早く追っかけろよ雑魚」
「言われなくても行くわよバーカ!」
バーカ、か。雑魚な悪役どころかボキャブラリーが貧困な小学生みたいな捨てセリフを吐いて山之内はラコを追い掛けて行った。
ほら、元気じゃないか。
あんなに元気に人の事をバカとか言う奴が難病と戦ってるとか冗談みたいだ。
だけどラコがこんなしょうもない嘘を吐くワケもなく、昨日俺は弱々しい山之内を見てしまった。そして本人の口から先に、難病で入院すると聞いている。
「でも……だからって……」
何も俺は変わらない。変わらないと決めたから。
せいぜいラコと仲良くなるスピードだけ、意識してみようかなと思う。




