隠し事
「それにしちゃ元気じゃないか」
知らないふりをしなくちゃ。
「本当に昨日、元気だったの?」
ラコの目は俺を責めている様だった。
正直、俺は困った。ラコだって俺を見込んで内緒の話しをして来てくれてるんだ。腹を割って話したい。だけど、山之内との約束も破りたくない。
「元気だったよ」
卑怯かも知れないけど、ラコが察してくれるのを俺は期待している。
「そう……、なら良かったんだけど」
俺の言い方がどう伝わったのか分からないが、ラコはそう言っておさめてくれた。
「でも病気って、一体どんな病気なんだ?」
「血管に炎症を起こす……難病指定を受けてる病気なんだって」
難病……。それも昨日聞いた。嘘くせぇと一蹴してしまったがガチの難病だったのか。でもやっぱり信じられない。本当にそれは山之内の話しなんだろうか。
「……難病指定受ける様な病気って、当然、すぐ完治しないからだよな」
「長期の療養が必要な事も条件の一つ。リンネはもうずっと、子供の頃から戦ってるの」
死ぬワケじゃないんだろ? そう出そうになって俺は飲み込んだ。まさかそんな筈はないと思う。
「でも……リンネは私に、何も教えてくれない」
「じゃあ、その話しはどこから?」
「リンネとは小学校も中学校も一緒だったけど、私達自体は特に仲良しではなかったの。でも家が近所だったから、リンネのお母さんとうちのお母さんが仲良くて、それで、親同士が話してるのをたまたま……」
聞いちゃったワケか。
子供が隠しておきたい事、親伝いでバレるってたまんないな。
「その時、リンネのお母さんは泣いてて……、リンネが深刻な状況なんだって思った。それでもね、リンネと仲良かったワケじゃないから冷たいと思うかも知れないけどフゥンそうなんだって、そう思っただけだった。それが中学一年生の時」
とても正直な感想だと思う。仲良くもない奴が病気だから深刻なるなんて、俺はそんな奴の方こそ信用出来ないかな。
「でもある時から、私達急に仲良くなったの。具体的に言うと中学二年生の二学期が始まってから」
「何かキッカケが?」
「分からない」
「分からない??」
「……分からないけど、でも急にリンネがグイグイ来るようになったの」
「いやさすがに何かキッカケあるでしょ?」
「あったのかな……? でも自覚はないし、なんか、どうして急に話し掛けて来るようになったの? って聞くのも、家も近所で小学校も同じだったのに、なんか聞いたら悪い様な気がして」
確かにそんなストレートな言い方は出来ないけど、何か別の言い方で聞き出せなかったのかな……。
「それに、そんな事言ってリンネが気を悪くして去って行くのも、イヤだったの」
「仲良いワケじゃなかったのに?」
「うん、だってすぐに、リンネと一緒に居たら楽しいって分かったから」
中学時代を思い出したのか、何だか懐かしさを滲ませてラコは薄く微笑んだ。まぁラコみたいなタイプからすると、マイペースで人を巻き込む様な山之内は刺激的で面白い奴だったんだろう。
「一生懸命だし、可愛いし面白いし、あれでいて凄く人の事考えてるし」
それは違う。アイツが考えているのは人の事ではなくてラコの事だ。
「今日から一緒にお昼ご飯食べようよ、帰りも一緒に帰ろ、あの時そう言って話し掛けてくれたリンネに今は凄く感謝してる。リンネは私の一番の友達になったって、そう思ってる。……なのに……」
そうだ、変だよな。
「リンネは私に隠し事を続けている」
ラコに心配させたくないって思ってるからなんだろうけど、結局バレてりゃ世話ないよ。しかもかなり前から。
「知ってるならラコから突っ込んでみたらどうだ?」
「……それは……無理よ。私はリンネから、リンネの口からちゃんと言って欲しいの」
面倒臭いな。
気持ちは分からないでもないが……。
それで昨日は山之内が追い込まれない様にわざわざ裏門から帰ったワケだよな? ちょっとこじらせている気がしてならない。
「……フルーツ、どうぞ」
「いただきます」
それにしてもこれはどうした事か。
俺は二人に挟まれたカタチになってしまった。
山之内はラコに病気を隠したい。ラコは山之内の病気に気付いている事を隠したい。俺は真実を知っていて両方から口止めをされているワケだ。極力どっちも裏切る事なくうまく立ち回りたいもんだが、俺って顔以外ポンコツだからなぁ。
「まぁ、ラコの言いたい事は分かったから大丈夫。なんか様子おかしいなと思ったら俺もフォローするし」
昨日もしたし。
「うん、ありがとう」
「ところでラコさ……」
こんな話しを聞いたくらいでブレてまたるか。あの山之内の事だ、うまい事病気と付き合っていくに決まってる。それが出来ると思ったからラコにも隠してるんだ。俺は俺の恋心に従って突き進む事で、それを応援している山之内の為にもなるってもんだろう。
そうだ、やたらと俺を急かしていたのは、夏休みに二週間も入院すると決まっていたからじゃないのか? 自分が休んだ時のラコの昼休みを気にしていた様な奴だ。俺とラコがそれまでにくっ付けば、ラコがその二週間を退屈に思う事はない。
「休みの日とかってさ……」
ガシャッ……!
「あーっ! 南総里見発見伝!! 見ーっけた!」
屋上の扉が重い音を立てて開いたと思ったら、そこには息を切らせた山之内が現れた。




