「言わないよ」
「まぁまぁ大変な事になるかも知れないから……ちょっと憂鬱かな」
「何だよ? 知恵熱じゃなくて根本的にどっか悪いのか?」
「はは、マジに知恵熱だと思ってた? ヤバ」
いやまぁ、知恵熱にしちゃ重そうだとは思ったけど……。まさか入院とか言われるとは思っていなかった。これじゃ本格的に俺は気遣いの出来ないダメ男だ。
「言わなきゃ分かんない事はけっこーたくさんある」
「上手に隠せてたって事か。じゃあ良いや」
そう言って山之内はまた一口水を飲む。
「何の病気で入院するんだよ」
「んー? まぁまぁの難病」
「嘘くせぇ」
「あははっ!」
「難病の奴はオッソブーコまんをくいしん坊食いしないと思う」
「あはははっ! そっかそっか。てかカバン、持ってくれるんだよね?」
まだ顔は赤いが、山之内らしい台詞だ。
「仕方ねぇな」
俺は渋々山之内のカバンを持って立ち上がると、山之内は俺の腕にしがみ付き、よじ登る様にしてようやく立った。
「……っこらせっと」
「年寄りか」
「あー、今日覚えた事全部忘れちゃいそう」
「それは頑張れ」
「……分かってると思うけどさ……」
「言わないよ」
こんなになるまで隠し通そうとした山之内の気持ちを思えば、わざわざラコに体調不良を報告する気にはなれない。
でも……。
「でもお前、良いのか?」
「何が?」
「何か……再追試の事黙ってたり、倒れるまで無理したり、それって……」
「ラコのストレスになる様な事は避けたいだけ。だってラコにストレス溜まるとあたしのストレスになるからね。つまりは自分の為よ」
だからそれって……友達って言えるのか?
友達とはこうだなんて定義はないと思うし、山之内とラコの間で成立しているのなら良いと思う。でも、この時点でラコは一方的に隠されている。本当の事を知った時、ラコは何て思うだろうか。
「そうか」
ま、コイツと言い合ってもあんまり会話にならないから別にもう反論はしない。
「どうする? オッソブーコまん食べてく?」
「お前もう元気じゃないかよ、カバン持てよ」
「持ってくれるって言ったじゃん。嘘吐き」
ほら、話し通じない。
「今日は奢ってあげる」
「良いよ」
「さすがに」
そう言えばさっきの水代もらってないし、まぁ奢られてやるか。とりあえずそこまでは山之内を送っていけるって事でもあるし。
俺はそう思い直し、また二人でマルマートへ寄った。オッソブーコまんは今日もたくさんあったが山之内は二つ注文して俺に一つ寄越した。
「カバンありがと」
「食って行かないのか?」
「今日は帰ってから食べる。うち、あそこだし」
そう言って山之内はマルマートの奥に見える赤い屋根を指差した。すぐ裏じゃないか。
「じゃー、エスカレーションハレーション」
「お疲れがどっか行ってんじゃねぇかよ、またな」
思いがけずラコの知らない山之内の一面を知ってしまった。家まで。
距離を詰めたいのは山之内じゃなくてラコだって言うのに……。
俺は複雑な気持ちでオッソブーコまんに齧り付き、それをムシャムシャしながら逆方向の家路についた。




