思わぬ告白
「あーあ、今追試受けたら絶対合格なのにな~」
山之内の方は、まぁちょっと弱々しくは見えるがいつも通りに見える。
「再、追試な」
「えへへ、そうだった~」
いや、やっぱいつも通りじゃないか?
二人ともに違和感を覚えながら俺達は校舎を出た。するとおもむろに立ち止まり、ラコが言う。
「じゃあ、今日はここで」
「えっ?!」
山之内が驚いて振り返る。
「なんでっ?」
「今日はちょっと……親戚の集まりがあって親が迎えに来てくれる事になってるの」
「そんな、言ってくれれば補習になんか付き合わせなかったのに!」
「良いの良いの、別に時間は余裕あるから」
時間があるのにわざわざ迎えに来てくれるのか。いや、どこか別の場所に集まると言う事かも知れないな。
「じゃあラコのお母さん迎えに来るまで一緒に待ってるよ」
「ううん、裏門の方に来てくれる事になってるし、大丈夫だよ」
「だって今から行ったんじゃ結構時間掛かっちゃうじゃない!」
「平気だって、ちょっと前にメッセージ送っといたからもう来ると思うし」
いつのタイミングで送ったんだろう。ラコがスマホを触ってた瞬間なんてあったかな。
「ごめんね! 待たせたら悪いから走るね! また明日!」
走り去る瞬間、ラコは俺を見た。その美貌にドキッとしてしまうが、何か言いたげな目にも見えたな。
「あっ……!」
山之内は一瞬追い掛けて走り出しそうな空気を醸したが、結局は切なそうにラコの背中を見送った。裏門は文字通り、校舎を挟んで正門の真裏なので距離にしてまぁまぁある。
そしてラコの姿が校舎の陰に消えると、山之内はフッとその場に蹲ってしまったのだ。
「あ、こら!」
そんなにラコと一緒に居られないのが辛いのか、大袈裟な奴め。
そう思ってやれやれと顔を覗き込むと、どうやらそう言う事ではなさそうだった。
「はぁ……はぁ……」
山之内は顔を紅潮させたまま苦しそうな息を吐いている。
「おい?」
「大丈夫……ちょっとだけ休憩」
大丈夫と言うわりに、山之内はその場にお尻までつけてしまった。相当具合が悪かった様だがラコにこんな姿を見せたくなかったと言う事か。
「お前な、いつから具合悪いんだよ。そんな状態なのに家までラコに隠し通すつもりだったのか?」
今日ラコが裏門から帰る事になって山之内的には助かっただろう。本人はそう思っていないだろうが。
「うっ……さいな、ちょっと休憩してるだけだって、言ってるでしょ」
「……」
さすがに置いて帰れない。
「カバンくらいなら持ってやるから頑張れ」
そう言って山之内の手首を掴んで立たせようとしたのだが、その熱さに驚いた。さすがに俺も少し深刻になる。
「おい、一旦保健室行くか?」
「……良い……。良いけど、一個だけお願い、水、買って来て」
「分かった」
幸い校舎に戻れば昇降口にすぐ自販機があるので、俺はその場に山之内と自分のカバンを置いて走った。まったく、こんなになるまでやせ我慢するなんて……。やっぱりこいつはアホなんだろう。
「ほら」
ペットボトルの水を買って渡してやると、山之内はそれを無言で受け取った。そして予めカバンから出して持っておいたのか、何やら錠剤をいくつか口に放り込んでペットボトルの蓋を開けようとした。しかし力が入らないのか、それさえも上手く出来ない。
「貸せ」
俺は一旦渡したペットボトルをひったくり、素早くそれを開けてやった。山之内はそれを受け取りようやく口に流し込む。
「はぁ……はぁ……ふぅ」
薬を飲めた事で、精神的にちょっとだけ落ち着いたのかホッとした様な息が混じる。
「知恵熱用の薬か?」
「ま、そんなとこ」
「勉強する度にこうなるんじゃ、バカでも仕方ないな」
「……でしょ? あんまり虐めるもんじゃないわよ……」
多少調子は戻って来た気もするがまだ苦しそうだ。隣りに突っ立っているのもバカバカしいので俺もその場に腰を下ろす。昇降口から出て来た生徒達にちょっとだけ変な目で見られるが、ただちょっと邪魔なところに座っているだけだ。
山之内が回復するまで、面白くもない雲が流れるのをただ眺める。
「あたし……夏休み入院するんだよね」
「え?」
俺が暇そうにしてるのが申し訳ないのか、山之内は思わぬ事を俺に告白した。




