第4話 ~サッカーと仲間~
「(早く着いてもしょうがないのになぁ)」
華枝は駄菓子屋のベンチで花を待っていた。例の如く楽しみで早く来てしまった。
華枝は今日は動きやすい服で来ていた。もちろんズボンだ。なんせサッカーをするのだから。
「華枝~」
「あ、花ちゃん」
花の声がしてそちらを向くと……。
「……花ちゃん、今日サッカーするんだよね?」
「せやで」
花の服装は肩を出した白いフリルの付いたワンショルダー。しかも……。
「スカート……」
「ああ、これな」
と言うと花はスカートをめくりあげる。
「は、花ちゃん何してるの!?」
花の突然の奇行に華枝は驚く。が、スカートの中は……。
「あれ……? ズボン……?」
「スカートに見えるズボンや。スカパンってやつやな」
「へぇ~」
そういえばそんな物があるのを聞いた事がある。
「じゃあ行こか」
花はいつもの様に華枝と手を繋ぐ。
「う、うん」
華枝も、いつもの様にドキドキした。
学校までの道中、華枝は花に聞く。
「流石に靴はスニーカーなんだね」
花は白いスニーカーを履いていた。
「スニーカーも合わせ様によっては可愛ぇから花様的には合格」
「花ちゃんは可愛い服が好きなの?」
華枝は単純な疑問を口にした。
「可愛ぇ服も好きやし、可愛ぇもんやったらなんでも好きや。可愛ぇ自分も」
「そうなんだ」
「でも、あいつらとアホやるのもはしゃぐのも遊び回るんも好き。どっちも好きなんや。やから可愛ぇ格好で遊び回る」
それを聞いて華枝は微笑む。
「花ちゃんは自分を持ってるんだね」
華枝は羨ましかった。花がキラキラ輝いて見えて。
「華枝もそうやろ?」
「え?」
華枝は花の言葉に心当たりがなかった。
「前にも言うたやん。真面目で、素直で、頑張り屋さんのええ子。そんで……」
花は満面の笑みで言う。
「とびきり可愛ぇ子!」
花の言葉に華枝は心臓が跳ねた。
花は可愛いものが好きなら……そう言ってくれる自分の事も……なんて、期待してしまった。
この胸の高鳴りは……気のせいになんてしておけなかった。
そんなこんなで校庭に着き、昨日のメンバーが集まっていた。
「ボール取ってきといたからな~」
「サンキュー」
サッカーボールを持っている男子に花は礼を言う。
「サッカーって十一人×二でやるんやけどそんなに集まらんから一チーム三人でやるで。ゴールキーパーと、後の二人」
「う、うん」
華枝は緊張してきた。責任重大だ。
そんな華枝の背中を花はぽんぽんと叩く。
「そんな気ぃ張らんでもええて。楽しく遊べればええんやから」
「そう……?」
「遊びが楽しくなくてどうするんや」
花がそう言うのだから、そうで良いのだろう。華枝は心が軽くなった。
「ええ顔なったで」
花はにこにこした。
「花ちゃんのおかげ」
「俺は何もやってへんて」
おどける花に華枝は笑った。
そうしてサッカーが始まる。
華枝はボールに触れず走り回って終わるだろうと思っていたが、同じチームの花が適度にボールを渡してくれた。
ボールを蹴るのは難しかったが、楽しかった。
「(みんなと遊ぶのって楽しいんだ)」
華枝はここに来てから、花と出会ってから少しずつ変わった。嬉しい事、楽しい事、ドキドキする事……全部花に教えてもらった。
「華枝! ゴール決めぇ!」
花からパスが回ってくる。ゴールを決めるのは、緊張したが、花の言葉を思い出す。
「(楽しく、遊ぶ!)」
華枝は渾身のシュートを出した。ボールは変な方向に行ったが、そのおかげでゴールキーパーの隙をつけて……ゴールポストに入った。
「やっ……」
た、とガッツポーズをしようとする前に花が飛んできて華枝に抱きつく。
「華枝~! やるやん~!」
華枝は興奮と花に対してのドキドキが混ざり合って、なんだか変な気分だった。
その後、華枝が疲れはてるまでサッカーは続いた。
皆が華枝の下に集まる。
「なんやお前、やるやん」
「あんたと遊ぶんも楽しかったで」
男子達が口々に華枝を褒める。照れくさかったが、嬉しかった。
「お前、俺らの仲間にしたる!」
男子の一人がそう宣言する。
「仲間……?」
華枝はきょとんとした。
「一緒に遊んだり、冒険したりする仲間や!」
「ええなあ!」
男子達はわいわいと盛り上がる。
仲間……仲間……。いじめられて、ひとりぼっちだった自分に……。
「か、華枝!? どないしたん!?」
花が驚いたのは、華枝の目から涙が零れていたからだろう。
「いらんかった!?」
華枝は首を振って泣きながら笑った。
「とっても嬉しい」
華枝の大切なものが、また増えたのだった。
華枝が落ち着くまでみんなは待っててくれた。そして、明日の遊ぶ予定を早速立て始めた。
「明日どこで遊ぼか?」
「明日雨やで」
「マジか」
「じゃあ家でゲーム?」
「モン狩りやる?」
「華枝はモン狩り持っとんの?」
皆の視線が華枝に集まる。華枝はどぎまぎしながら答えた。
「も、持ってるよ……」
「おお~」という歓声の中に「女がモン狩り……」という声が聞こえたが、駄菓子屋で出会った男の子が「男でも女でも何やってようがええやろ」と言った。華枝がその子の事を見ると、気恥ずかしそうに顔を反らされた。華枝は嬉しくて、くすりと笑った。
「それやったらモン狩りで決定やな。誰の家でやる?」
「あっ、あのっ!」
華枝は勇気を出して声をあげる。
「どしたん?」
「うっ、うちでやらない……?」
花からもらった勇気。いろんなもの。華枝はそれに応えたかった。祖父母に、自分にこんなに友達ができたと紹介したかった。
男子達は目を見合わせてから言う。
「ええで!」
「華枝ん家どんなんやろ」
「変な事したらあかんで」
花が男子達を睨む。
「はいはい、花の華枝には手ぇ出さんて」
華枝はそう述べられて顔を赤くする。
「華枝ん家ってどこや?」
「俺が知っとるから案内したるわ」
男子達に花は告げる。
「えー! もう家まで行った仲なん!?」
「玄関までや!」
からかう男子達に花の顔が赤かったのは気のせいだろうか。
家に帰って華枝は真っ先に祖母の所へ行った。
「ねえ! 明日友達お家に連れてきて良い?」
「花ちゃん?」
祖母は夕飯作りの手を止め、華枝を見る。
「花ちゃんと、あと四人!」
祖母は目を丸くした。そして笑う。
「みんなお友達?」
「うん! みんな友達だよ!」
祖母は優しい笑みで言う。
「ええよ。お菓子とジュース用意しとくわな」
「ありがとう!」
「それでね! 私、シュート決めたの! 凄いでしょ!」
夕飯時、華枝は祖父母に楽しそうに今日の出来事を話す。
「凄いなぁ。今度じーちゃんともやるか?」
「おじいちゃんもできるの?」
「もちろんや」
「やる!」
華枝は元気に応えた。
「華枝、最近明るなったなぁ」
祖母はご飯をよそいながら言う。
「花ちゃんと……みんなのおかげ」
華枝は頬を染めながら喋る。
「ここに引っ越すか? お友達おるんやったら学校もここ通ってええよ」
祖母の提案に華枝は箸を止める。
「どうや?」
「……考えとく」
「ゆっくりでええからね」
「うん……」
風呂の後、華枝は自分の部屋で仰向けになる。
「学校……花ちゃんと……みんなと……」
そう言って目をつむった。




