最終話 ~ゲームと決意~
「こんにちはー!」
玄関先から花達の大きな声が聞こえてくる。華枝は急いで玄関へと向かう。
「いらっしゃい!」
「お邪魔させてもらうな。あ、これ、おかんから」
花はお菓子を差し出した。
「わ! ありがとう!」
「お邪魔するんやから当然や」
「俺も!」
花を皮切りに男子達が続々とお菓子を出してくる。
華枝の腕にどっさりとお菓子が貯まった頃に祖母が顔を出す。
「みんな、いらっしゃい」
「あ! こんにちは!」
「こんにちは!」
みんなの元気な挨拶に祖母は笑顔で「こんにちは」と返す。
「ジュース机に置いてあるから好きに飲んでな。お菓子は後で持ってくわな」
「はーい!」
「……華枝と仲良ぉしてくれてありがとう」
祖母はしみじみと言った。そんな祖母にみんなはめいめいに口を開く。
「華枝は仲間やから!」
「華枝凄いんやで!」
どの子も華枝を褒める。華枝は気恥ずかしくて、嬉しかった。祖母も嬉しそうに笑った。
「さ、みんな入り」
祖母は皆を招く様に先に家の中に入る。
「お邪魔しまーす!」
皆もそれに続いた。
「オレンジジュースや!」
男子の一人が居間に入って言う。
「しかも果汁百%やで」
「リッチや」
「リッチや」
果汁百%は華枝も好きだ。
「おばちゃんありがとう」
華枝は祖母に向かって礼を告げる。
「ええんよ。また後でお菓子持ってくるからいっぱい遊んどき」
「うん」
祖母が去っていくと、皆は鞄からゲーム機を出す。
「華枝ってクエストどこまで進めたん?」
「えっと……村のクエスト全部と、集会所のクエスト半分くらい」
皆から歓声が上がる。
「もうそこまでいったん!?」
「華枝ってゲーム上手い?」
褒められて華枝は照れた。
「学校行かずにゲームばっかりしてたから……」
あまり褒められた事ではないので言いにくかったが、皆は誰も揶揄などはしなかった。
「じゃあ、俺が華枝と通信する!」
「あー! ずるいー!」
「こ、交代でやろ」
男子が華枝を取り合うのをおどおどとまとめていると、花がむすーっとしているのが見えた。
「花ちゃん? どうしたの?」
「……花は俺んのやのに」
「え」
つまりは嫉妬しているという事だろう。華枝は顔に熱が上るのを感じる。
そんな中、男子達はニヤニヤしながら言った。
「わかってますて~。花は華枝とずっと組んどってええから」
このゲームは最大四人まで通信できる。まあそれはそれとして……喜んで良いのだろうか。
「私がスタンとってる間に尻尾切って!」
「おお! 華枝やりおるやん!」
皆はゲーム機をカチカチと鳴らしている。
そしてクエストクリアの画面が出た。
「えー! 華枝めっちゃ上手いやん! スタンあんなとれるもんなん?」
「華枝おらんかったらこのクエストクリアできんかったで!」
「華枝は凄いやろ~」
皆が華枝を褒める中、花は誇らしそうだ。
「えへへ……」
「次、俺とやろ!」
「俺も!」
華枝が引っ張りだこになっている時、祖母が盆を持ってやって来た。
「みんな~、おやつやで~」
「おやつや!」
皆は祖母の下に集まる。
「チーズケーキ、買(こ)うて来たで~」
「チーズケーキ!?」
「リッチや!」
「リッチや!」
祖母は机の上にチーズケーキの皿とフォークを置いていく。
「ゆっくりしていってな」
去ろうとする祖母の背中に皆は礼を言う。
「ありがとうございます!」
祖母は振り向き微笑んだ。
「早よ食べよ!」
皆は机について今か今かと待っている。
「じゃあ……いただきます」
華枝は手を合わせて、皆もそれに続いた。
「いただきまーす!」
チーズケーキの周りのフィルムを取ってフォークで切り分ける。そして口に入れると。
「ん~! うまい!」
「最高や!」
「華枝と仲間になって良かった!」
皆は一様に嬉しそうだった。華枝も嬉しかった。
「お前ら、今後華枝ん家でジュースとケーキ目当てで来るんちゃうで」
花はそんな皆をたしなめる。皆はギクリとして「わ、わかっとる」「そんな訳ないやん」などと言い訳していた。
そんなやり取りも華枝は微笑ましかった。
たくさん遊んで、そろそろ皆が帰る時間になった。
皆はぞろぞろと玄関で靴を履き、華枝と祖母に礼を言う。
「ありがとうございましたー!」
「お邪魔しましたー!」
皆がそう言うと祖母は
「また来てな」
としみじみと述べた。
そんな言葉に皆は言う。
「当たり前や!」
「仲間と一緒に遊ぶんは当然やからな!」
華枝は何度、嬉しいと思っただろうか。涙が出そうになる。
「じゃあ、また明日な!」
「うん!」
花が手を振ると、華枝もそれに応える。
また明日。明日も明後日も、花と、みんなと遊ぶのだ。
華枝は毎日皆と遊んだ。楽しかった。嬉しかった。いろんな経験をした。知らない事を教えてもらって、華枝も教えた。
こんな毎日を過ごせるのは花のおかげなのだ。花が、あの時声をかけてくれたから。
華枝はもう自分の気持ちに気付いていた。可愛くて、強くて、優しい花の事が好きになっていた。恋愛感情、という意味で。
悩まなかったと言うと嘘になる。自分は女の子で花も女の子。女の子が女の子を好きになる事を素直に受け入れられるほど華枝はまだ知識も経験もなかった。
けれど、それでも、華枝は花が好きだった。拒絶されても良い。華枝は花に想いを伝える事にした。それが、華枝の決意だった。
「どしたん? 一人で来てって」
華枝は花を駄菓子屋の前に呼び出した。
「花ちゃん。今日は花ちゃんに伝えたい事があるの」
華枝の真剣な眼差しに気付き、花も真剣な表情になる。
「花ちゃん、あのね、私……」
華枝は息を吸い込んで言った。
「花ちゃんが好き」
「それって……」
「友達としてじゃない。恋愛って意味で」
「……」
言えた。結果がどうなっても、告白できたのは……やっぱり花のおかげだ。その勇気は花に貰った。
「女の子同士なのに変かもしれない。それでも、私花ちゃんが好きなの」
そんな華枝の言葉に花は
「ごめん……」
そう呟いた。
ショック……だけれども、それで良い。これからも友達として……。
華枝がそこまで思ったところで花の言葉には続きがあった。
「俺、男」
「……ん?」
今、なんと言っただろうか。
「えーと……花、ちゃん……」
花は気まずそうに頭を掻く。
「俺のフルネームな、竹内 花丸(たけうち はなまる)言うねん」
「……花……くん……?」
華枝は混乱していた。
「男やけど、可愛ぇもん好きでこんなカッコしとるねん。変て思うかもしれん。でも俺は自分を曲げへん。これが俺やねん」
「花、くん……」
花は苦笑する。
「今まで言ってへんかったな。なんか慣れ過ぎて言うて事抜けとった」
それから、花は悲しそうな顔をする。
「華枝は女の子の俺が好きなんよな……。男……やったら……」
華枝は首を振る。
「びっくりしたけど、女の子でも男の子でも私は花くんの事が好き」
「華枝……」
花は華枝の手を取った。
「俺も、華枝の事好きや」
「花……くん……」
華枝の目から涙が零れた。
「華枝は泣き虫さんやな」
花は華枝の背中をさすった。
夏休み明け、花の学校に一人の転校生が来た。転校生は自己紹介をする。
「原田 華枝です。よろしくお願いします」
教室からは歓声が上がる。
「華枝ー! 待っとったでー!」
「えー? 男子、原田さんの事知ってんのー?」
「華枝は俺らの仲間や!」
華枝は気恥ずかしさを感じながら、嬉しかった。
「原田さんの席は竹内くんの隣です」
教師は花の隣の席を指差す。華枝は一歩一歩、進んで行き、席に着く。
「花くん」
「華枝」
二人は笑う。
「これからもよろしく」
「一生大事にしたるからな。華枝は俺のもんや」
華枝は照れる。
ひょんな事から始まった出会いは華枝を変えた。華枝は、これからも歩んで行く。花と一緒に。




