第3話 ~かくれんぼと勇気~
次の日、華枝は花に貸してもらった服を広げてみせる。隣には服に合う靴下や靴まで。
襟元が大きく垂れ下がった白いブラウス。黒のラインがポイントとして入っており、胸元には同じ色の細いリボン。
黒いスカートには小さめの白いフリルが裾に付いている。
白い膝下の靴下に、黒いメリージェーンの靴。金色に光る金具が黒に際立つ。
「(可愛い……。昨日花ちゃんと決めた服……)」
そういえば花に貸してもらったという事は当然花も身につけていた訳で。
「(な、なんか変にドキドキしちゃうな……)」
そう思いながら華枝は服を着替えた。
「やぁ! 華枝、お洒落さんやなぁ!」
祖母は華枝の姿を見て、嬉しそうに言った。
「に、似合う……?」
華枝は腕を開いてくるくると回った。
「似合うに決まっとるやん! 写真撮ろ! 記念写真! 今はスマホで簡単に撮れるからなぁ」
しばらく祖母の撮影会になった。
華枝は待ち合わせ場所の駄菓子屋に行く。今日は華枝の方が先に着いたみたいで花の姿は無い。
というか、華枝が楽しみにし過ぎて早く着いてしまったのだ。
華枝はベンチに座り足をぶらぶらさせる。
「(花ちゃん……どう言ってくれるかなぁ……)」
頭の中はそればかり。
しばらくすると、花がやって来た。
「華枝!」
「花ちゃん」
花の格好は昨日相談した様に、華枝が着ている服のピンクバージョンだ。髪の毛も華枝と同じお下げだった。
「華枝……」
花は華枝の前で止まると、じーっと華枝を見る。華枝はドキドキする。
「似合(お)とるなあ! 華枝が可愛(い)らしからや!」
華枝は花のそんなストレートな言葉が嬉しかった。可愛い。可愛い。そう言われるのが嬉しかった。
「立ってみぃ!」
「う、うん」
華枝は花に言われるままに立ち上がる。
「おお~! やっぱり可愛らし!」
何度も言われると照れる。
「花ちゃんも……お下げ可愛いよ」
華枝は照れ隠しにそう言った。いや、照れ隠しでなくとも素直に可愛い。
花は自信満々に腰に手を当てふんぞり返る。
「そうやろ、そうやろ! でもな」
「でも?」
「華枝がおったからこの髪型しよ思たんやで。華枝のおかげや。新しい俺の可愛さ見つけられた」
華枝は嬉しかった。自分のおかげなんて言われるとは思わなかったから。
しかし、それ以上に花に褒められるのが幸せだった。
「なぁ華枝。学校行く前に撮影会やろ!」
祖母に散々撮られた後だというのに……。けど……それでも胸がいっぱいだった。
「うん!」
お互いのスマホでポーズや構図を変えてたくさん撮った。
スマホに花との思い出がたくさん貯まっていく。それは華枝にとって間違いなく大切な宝物になった。
撮影会が終わると花は昨日の様に華枝と手を繋いで学校までの道を行く。
「ここや」
校庭前にある門で花は立ち止まった。
「(学校……)」
華枝の心臓は早鐘を打つ。変な汗も出る。
「嫌やったらちゃうとこで遊ぼか?」
でも……。
「ううん」
華枝は首を振る。
せっかく花がここまでお膳立てをしてくれたのだ。ここで行かないでどうする。
華枝は花の手を強く握り締めた。
「わ、私、行くよ」
花も華枝の手を握り返した。
「ああ」
二人は開きっぱなしの門に一歩、また一歩と向かって行く。
そして……。
「華枝、頑張ったなぁ」
二人は校庭の中に入った。実に呆気ない。けれど、華枝にとっては大きな前進だった。
「花ちゃん……ありがとう」
「俺はなんもしてへんて。華枝が一生懸命やったからや」
「花ちゃん……」
二人が感動していると……。
「あー! 手ぇ繋いどるー! 恋人や! 恋人や!」
校庭に集まっていた男子達が花達を指差してからかう。
「はぁ~? 手ぇくらい誰でも繋ぐやろ」
友達なのだろう。花は親しげに反論する。
「好きなんや!」
『好き』。その言葉に華枝は顔を赤くする。
花はため息をつき、こう言った。
「好きやったらなんや」
華枝はさらに顔を赤くする。
「華枝は俺のもんやからな~」
花は華枝を抱き締める。
「う!? えっえっ!?」
混乱する華枝を余所目に周りはヒューヒューと囃し立てる。
喧騒が少し落ち着いたところで花は言う。
「ところでどうや、この双子コーデ。可愛ぇやろ」
花はスカートを広げてみせる。
「はいはい、可愛ぇ可愛ぇ」
「なんやその反応。この子見てもそんなん言えるんか?」
男子達の視線が華枝に集まる。華枝は緊張した。
「ま、まぁ可愛ぇんとちゃうか……」
何人かの男子達は少し頬を染めている。華枝は恥ずかしかったが、嬉しかった。
花が華枝にこそりと耳打ちする。
「な、メロメロや」
華枝はくすりと笑った。
華枝の事は事前に言ってあったのかすんなりと受け入れてくれた。
「で、今日は何すんの?」
男子の一人が言う。
「かくれんぼ」
花はそれに答えた。
「かくれんぼ?」
「ええやろ」
「まあたまには」
花は華枝に小声で言う。
「華枝に学校に慣れてほしから。でもしんどくなったらスマホに電話かけてき」
華枝はこくりとうなずく。連絡先は先日交換しておいた。
華枝は花の気持ちが嬉しかった。自分にここまでしてくれる優しさが。
「じゃあジャンケンや!」
皆は花の掛け声に手を出す。
「ジャーンケーン!」
「はい、花の一人負けー」
「おかしいやろ……」
花は自分のグーを見つめる。
「ああもう、しゃーない。百数えるから散り」
花が鬼になり、皆は散り散りに。華枝もドキドキしながら隠れ場所を探す。
「(この辺で良いかな……)」
華枝は建物と物置の陰になっている所にしゃがみこんだ。
「……」
一人、暗い所でいると思い出す。
いじめられていた時、かくれんぼに誘われた。仲直りしてくれるんだと思った。
けどそれは新しいいじめの方法だった。
華枝は隠れた。時間が経ってもなかなか見つからない。自分の隠れ場所が良いのだと誇らしかった。
しかし……日が暮れて気がついた。華枝は隠れ場所から出た。皆はどこにもいなかった。華枝一人を置いて帰ったか違う場所にでも行ったのだろう。
その日は……いや、その日も泣きながら帰った。
「……」
華枝は膝に顔を埋める。
「一人はやだよ……」
「華枝みーっけた!」
よく聞いた元気な声がして、華枝はそちらを見る。そこには花がいた。
「花……ちゃん……」
「残念やったな~。俺の探索スキルが上手過ぎて~。華枝一番に見っけたで」
花は得意そうに言う。
華枝は……嬉しかった。
「花ちゃん」
「ん? どしたん?」
「見つけてくれて、ありがとう」
花は目を丸くする。
「見つかってお礼言うておかしない?」
華枝は笑った。
「全員見っけたで! 花様なめるんとちゃうで!」
「花強……」
男子達は花をじっとりと見る。
「明日は何する?」
そんな花を尻目に男子達は言う。
「サッカーは?」
「ええやん」
花の提案に男子達は賛成する。
「華枝も来るよな?」
「え」
自分に話を振られるとは思わず、華枝はびっくりした。
「けぇへんの?」
花は悲しそうな顔をする。
「で、でも、サッカーって体育でちょっとしたくらいだし……足手まといに……」
「そんなんかまへんて! みんなで遊ぶんがええんやから!」
花の快活な態度に華枝は……。
「じゃ、じゃあ……行ってみようかな……」
チャレンジ、してみようと思った。花といると、いろんな事に挑戦しようと思える。きっと、花の人柄のせいだろう。
「やった! 決まりや!」
花は嬉しそうだ。そんな花を見て、華枝は言って良かったなと思った。
「そろそろ帰ろかー」
「せやなー」
明日の予定も決まったところで今日のところは解散となった。
二人は帰り道を歩いていた。花が送っていくと聞かないので、華枝の家へと向かっていた。
「なぁ、華枝」
「なあに?」
「その服やるわ」
「え」
貰って良いものなのだろうかと華枝は悩む。
「またな、双子コーデやりたいから。華枝に着てもろて遊びたい」
華枝は、そう言ってもらって嬉しかった。花と、この服でいろんな思い出を作ろうと思った。
「うん!」
華枝も花も笑う。
そんな事を話していたら華枝の家に着いた。
「じゃあ明日、また駄菓子屋でな」
「またね」
二人は手を振って別れた。
華枝は晩御飯の時、今日の出来事を楽しそうに祖父母に話した。
祖父母は、泣きそうな顔で笑っていた。




