第2話 ~水切りと楽しさ~
「華枝!」
「花ちゃん」
花の学校終わり、十五時頃に二人は昨日の駄菓子屋で待ち合わせをした。花は先に着いており、華枝に気が付くとぶんぶんと手を振った。
華枝は駆け足で花の下へと行く。
「待たせちゃった……?」
「五分前。俺が早よ着きすぎただけや」
花はこんな時でも優しい。華枝はそれが嬉しくて。
「今日の服も可愛いね」
昨日の服とはまた違い、白い薄手のアウターで袖にハートマークの透かしが入っている。
「ふふん! 可愛ぇやろ!」
花は自信満々で腰に手を当て言った。
「うん」
華枝は本気でそう言った。
「華枝も三つ編み可愛ぇで」
『可愛い』なんて言われて照れる。けど。
「いつもこれだから」
華枝は眉を下げ、セミロングのお下げを両手で摘まんだ。惰性でやっているのだからあまり誇れやしない。
「それでも可愛ぇ。もっと自信持ってもえぇのに」
「そ、そうかな……」
「そう!」
華枝は花の言葉に恥じらったが喜びがこみ上げた。花といるとなんだか前向きになれる。
「じゃあ、今日の遊ぶ場所に行こか!」
花は華枝の手を取って歩き出す。華枝は少しドキドキした。
「(花ちゃんは女の子なのに……変だな……)」
そう思いながら花の後について行く。
「ここは……」
「川!」
着いた所は少し幅の広い川だった。
「あの……私、水着とか持ってきてない……。それに、子供だけで水遊びしちゃいけないよ?」
華枝の言葉に花は笑う。
「華枝は真面目やなぁ! 水の中には入らん。河原見てみぃ。何がある?」
華枝は河原を見渡す。
「うーん……石くらいしか……」
「そう! 石。今日は石で遊ぶ」
花は嬉しそうに告げた。
「石?」
「水切りする」
「水切り?」
それは初めて聞く言葉だった。
「よぉ見ててな」
花はそう言うと河原を歩き回り、何かを探す。
「これがええかな」
お目当ての物を見つけたようだ。
「華枝、水切りはこういう石を使うんや」
「平べったい?」
「そうや。いくで」
花は川に向かって平行に石を投げた。すると石が水の上を跳ねて何回も飛んだ。
「わ! すごい!」
華枝は目の前に光景に釘付けになった。
「どうやったの?」
「それはな……」
華枝は水切りの説明を受ける。
「平べったいやつだね」
華枝も河原を探す。
「これとか平べったい……?」
華枝は花に石を見せる。
「ええと思う」
花は親指を立てた。
華枝は見よう見まねで石を川に投げた。
「えいっ!」
ぽちゃ。
石は一度も跳ねず、川の中に吸い込まれていった。
「……あれ?」
「華枝、こういうのは練習や。なんべんでもつきおうたる」
花は華枝の肩に手を置いた。
「う、うん……」
華枝はしょんぼりした。
しかし、花は笑顔で言う。
「いきなりは誰かてできん。落ち込む事無いで」
「う、うん!」
花の一言に華枝は気を持ち直した。花の言葉は……なんだか元気が出る。不思議だ。
華枝の水切りの特訓が始まった。
「なるべく平べったい石探しから!」
「うん!」
「川の面と水平に投げる!」
「わかった!」
華枝は何度も何度も石を探しては投げた。花も根気よく教えて、見本も見せてくれた。
そして……。
ちゃっ、ぽちゃ。
「でき……た……」
たった一回。それだけ跳ねた。けれど、華枝にはとても嬉しい事だった。
「花ちゃん! やったよ!」
華枝は花の方を見る。
「華枝が頑張ったからや」
花はにっと笑う。
誰かと遊ぶのがこんなに楽しいだなんて。華枝は感動していた。
「ちょっと休憩しよか。ずっとやりっぱなしやったから疲れたやろ」
花の言う通り疲れた。でもそれは心地よい疲れで。
「うん、ありがとう」
華枝達は満足げに大きな石に腰掛けた。
「楽しかったか?」
花は聞く。
「とっても!」
「それは良かった」
花は微笑んだ。その微笑みに華枝は少しドキリとした。
「華枝?」
ぼーっとしている華枝の顔を花は覗き込む。
「あ、ううん! なんでもない!」
「そうか?」
花は納得しているのかしていないのか、でもとりあえずその事は置いとかれた。代わりに違う事を聞いてきた。
「嫌やったら答えんでええけど……華枝って学校どうしてるん?」
「……」
学校……学校なんて……。華枝はうつむく。
「……聞いていらん事やった?」
花は心配そうに言う。
そんな花に……花になら話しても良いかもしれないと思って、華枝は口を開く。
「私ね、いじめられてるの。こんな性格だから……うざいんだって……」
言っているうちに泣きそうになってきた。すると、花は言う。
「アホやなぁ。華枝はこんなにええ子ぉやのに」
「優等生ぶって、って……」
「ああ、ちゃうちゃう」
「?」
花は首を振る。
「真面目で、素直で、頑張り屋さん。こんなええ子ぉ、おらんで」
「花ちゃん……」
自分の事をそんな風に言ってくれる人がいるなんて思わなかった。また……泣きそうになる。
「俺らの学校に来たらええのに。そしたらいじめる奴からも守ったれる」
「え?」
花は笑いながら言う。
「友達いじめる奴は許さんからな」
「友達……」
ややモヤモヤするのはなんでだろう。けど、嬉しい。
「……ありがとう。ちょっと……考えてみる」
「ああ!」
花は満面の笑みだ。
「でも、学校行くの怖いなぁ……」
「じゃあ練習してみるか?」
「練習?」
とはどういう事か。
「明日、放課後校庭でみんなと遊ぼや」
「……校庭で……みんなと……」
正直、怖い。
「俺がフォローする」
花は真剣な顔で華枝を見る。その表情を見て……。
「行ってみようかな……」
少し勇気が出た。
「決まりやな!」
花は嬉しそうな顔で言う。
「あ……でも他校生が入って良いのかな……?」
「その辺緩いし。大丈夫やろ。田舎やし」
そんなものなのかと華枝は思う。
「なぁなぁ! せっかくみんなの前に行くならお洒落して行かん?」
「お洒落……?」
「俺の服貸したるから、双子コーデで行こ! 俺も三つ編みする!」
「え、え」
華枝は花の突然の申し出に戸惑った。
「いらん……?」
花の瞳に見つめられると……。
「い、良いよ……」
花の顔は輝く。
「OKやな!」
「う、うん……」
「帰り、俺の家寄ってき。服貸したるから明日着てくるんやで!」
「う、うん……」
華枝は花の勢いに押される。
「帰りは危ないから送ってくわ」
「え、それじゃ花ちゃんが……」
「おかんも挨拶したい言うとったからついてくわ」
「それなら……」
大丈夫かと思った。
「じゃ、行こか!」
花は華枝の手を引っ張る。ドキドキするのは……気のせいだろうか。
「おかん! 華枝連れてきた!」
「お、お邪魔します……」
華枝は花の家を見回す。こう言っては失礼だが、格好に似合わず、古風な家だ。
「あら! あんたが華枝ちゃん?」
花の母親らしき人物が出てきた。
「あ、はじめまして……」
華枝は丁寧にお辞儀をする。
「えぇ子やねぇ」
流石親子というところだろうか。花と同じ事を言う。
「あ、えと、ありがとう……ございます……」
花のおかげで『良い子』と言われるのに抵抗が無くなった。
花の母親はしゃがんで華枝と目線を合わせる。
「花なぁ、昨日から華枝ちゃんの事ばっかり言いよるんよ」
「え……」
「よっぽど華枝ちゃんとおるの楽しいんやろうなぁ」
華枝はそう聞いて……嬉しくて顔が熱くなった。
「華枝! 上がり! 服決めよ!」
花は花で嬉しそうだ。
「う、うん」
「これもえぇなぁ……これも……」
花はタンスから服を引っ張り出し、目の前の華枝に合わせる。
「いっぱい可愛い服があるね」
華枝がそう言うと花はにぱっと笑う。
「可愛ぇもん好きやから。華枝も可愛ぇんやから着てもらえんの楽しみにしとるで」
可愛い……。そう言ってもらって……やっぱりドキドキする華枝だった。
着る服を決めた後、花と花の母親に送ってもらって家に着く。
祖母が出てくると、玄関で祖母と花の母親が話し込む。
手持ち無沙汰の子供二人は隣で喋る。
「明日みんなに見せた時の反応楽しみやなぁ」
「緊張する……」
そんな華枝に花は背中を軽く叩く。
「絶対似合う! 俺が保証する!」
「花ちゃん……」
花の言葉は勇気が出る。
「うん!」
大人組が話し終わると、花達は帰っていった。
「また明日」
花はそう言って手を振った。だから華枝も小さく手を振る。
花達が見えなくなると、祖母は華枝に言う。
「えぇお友達できたなぁ。今日も楽しかったか?」
華枝は自信満々に言う。
「楽しかった!」
それを聞いて祖母はにこにこと笑うのだった。




