46話 ゴミ屋という名の
遅くなりました(汗
次の日、朝早く起きた私はレイラを連れて再び城下町へとやって来た。
メイドに朝食は外で食べると伝えてある。
一眠りして考えがまとまったおかげか行きたいところができた。
ずばり……鍛冶屋だ。
剣を扱うようになってから、レイラの愛剣に興味が湧いた。まるで流れるような……その滑らかな形状の刀身は芸術の一言で尽きる。そして繰り出される一撃は鉄をも簡単に割いた。
レイラの技量も確かだが、それを可能とする剣も凄まじい。
国民へ勇者として演説をする際、王様から直々に宝剣を授かるそうだ。それは貴重な鉱石を大量に含んだ国宝らしい。
いずれ自身の剣を手にするとはいえ、剣を扱う者として自ら選んだ剣が欲しい気持ちがある。それに演説の前に遠征がある。
その意をレイラに伝えると、嬉しそうに賛成してくれた。弟子が剣を欲しがるのに特別な何かがあるのだろうか?
「ねえレイラ、鍛冶屋でいい所ある?」
「もちろん、腕の良い鍛冶師を知っています」
昨晩レイラが強く進めるので、その鍛冶師の元へ行くことに決めた。なにもレイラの愛剣を調整し、刀身を磨ぐなどを任せている信頼できるとても優秀な鍛冶師だそうだ。
レイラの愛剣に羨ましい気持ちがあった私にとって、それはとっても魅力的な提案だった。
そして今に至る。王城から離れた路地にあるお店で朝食を摂った。
精算は先払いの為、食事を終えてそのまま店を出たばっかりだ。
「いや〜、こういう朝食の摂り方も悪くないね!」
「毎日王城の朝食となると、肩がこりますもんね」
ふたりとも普段はしない方法で食事を済ませたので、妙な高揚感を感じていた。
それなりの立場をもっているレイラは、リルの護衛兼監視といった任務でなければこんな所で食事を摂ることなど昔はともかくこの先は二度とできなかったであろう。
献立には私の知らない食材がいくつかあったので、それらをレイラに質問しながら道中を行くと、いつの間にかボロボロの建物の前に着いていた。
その建物からは定期的に響く金属音と、何かが弾けるような光が店内に灯り、燃えるような熱気が外まで伝わってくる。レイラが歩みを止めたのでここが例の鍛冶屋なのだろう。だが……
「ねえレイラ、ここ?嘘でしょ?」
「はい、見た目はアレですが腕は確かなのですよ」
「はは、いや冗談でしょ?」
おかしな所が沢山ある。
まず、店に入る前に進入禁止を語るかのように地面が割れており、排水溝のような屋根から伸びる管が途切れ、その合間からネジが降ってくる。
一目で開かないとわかる扉の古びた主張が激しく、その脇に客寄せ目当てか同じ人が書いたであろう汚い文字で「この店がいちばんすごい」だの「この店の武器しか使えない!」だの「最高すぎ!」だの書かれた破れかけの紙を手堅く釘で打ち込まれている。
そして、何を意味したいのか不明の謎看板。上下逆で『ゴミ屋』と書かれている。
こんな店があって良いのか……体も心もUターンを決めた。
──瞬間。レイラが鋭く言葉を発した。
「待ってください……」
この言葉にはどのような感情が込められているのだろう。
お互いに頬をひくつかせながら見つめ合う。
「レイラは何を言っているの?きっと気の所為なんだよ……私が間違っていたんだ」
「リ、リル様。これは違います…………誤解です」
「そうだよね、レイラの紹介だもん。私の勘違いだよね」
「ぃゃ……その、」
……レイラがなんかもう凄い表情をしているがきっと見間違えに違いない。あのレイラが紹介した鍛冶屋なのだ。あんなわけがない。目の錯覚だったんだ。あぁそうか、毎日の稽古で疲れてたんだ。
もう一度その鍛冶屋らしいゴミ屋を見た。
「……レイラ?本当にここなの?」
「…………はい。」
とっても入りたくないが、むしろ関わりたくないが、とりあえずレイラに話を聞くことにした。
レイラは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに、言いたくなさそうに説明してくれた。
……なんと驚いたことにレイラの親戚が経営する鍛冶屋らしい。
帝国は魔族と戦争や冒険者ギルドの勢力が強いため、鍛治職人が多くかなりの需要がある。その中でもレイラの親戚の鍛冶師は超一流の腕前で、帝国、いや人族屈指の鍛治職人だという。
ただ、難点として頑固と言って良い程の強いこだわりがあるのだという。昔、その腕前を認められ王城で剣を作らないかといった王様の誘いを即断ったそうだ。
認めた人ではないと剣を売らないというのが信条だというややこしい人と恥ずかしそうな呆れ顔でレイラに説明された。
とりあえず腕は確からしい。
「レイラ、この店は何?」
「……本人に聞いてください」
だが、だとしてもこの店の見た目は異常だ。目にしただけで入る気が失せる店は初めてだ。
いつまでも店の前でレイラを問い詰めるわけにもいかないので入る事にした。
地割れを飛び越え扉に手をかける。……しかし開かない。
「あぁ、扉は横にずらすのではなく蹴り倒してください……」
「……」
無言で軽く扉を押すと、意外と綺麗にスポンと抜けた。
ガシャンと扉が倒れると、奥から金属音が止み誰かが来た。
「なんだ、見ない顔だな……っ!お客さんか?いらっしゃい。良く来たな!」
現れたのは髭の生えた見た目50代のおじさんだった。ムスッとした表情から私を見た途端笑顔に変わった。
「久々のお客さんはべっぴんさんか!って、レイラじゃないか!」
レイラも地割れと飛び越え店内に入ってきた。
「……久しぶりだね、ガル。やっぱりお客さん来てないみたいだね」
いきなり痛いところを突かれたと、ガルと呼ばれたおじさんは薄い笑みを浮かべた。
「茶でも出すから、奥の客間にいてくれ」
そう言い残したガルは、工房の奥へと消えていった。
なんだ……店の見た目で先入観が激しくなりどんな爆弾人物が出てくるかドキドキしたけど、悪い人じゃ無さそうだ。
───
レイラに案内の元、店内を軽く眺め客間まで移動した。
店の外のイメージが強いため、店内がとてもまともに見える。店内の明るさは暗いが、武器の管理や掃除に手が届いているのだろう。
どれも息を呑むような綺麗な刀身がガラスケースのような箱の中にずらりと並んでいた。
レイラの言う通り、鍛冶師としての腕前はとても凄そうだ。
表の印象との差が酷いため、呆気に取られているとレイラが面白そうに私を見て笑っていた。
……鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていたと思う。
しばらくすると客間にガルがお茶を運んできた。
「待たせたな。んで、今日は何の用だ?ただ顔を見せに来ってわけじゃないんだろ?」
私とレイラの前に腰を下ろすとガルはレイラに向かって嬉しそうに微笑んだ。
「私がわざわざこんな店に来るには理由があるに決まってるでしょ……」
レイラが呆れ顔でため息をついた。
後から聞いた話だが、レイラの愛剣を調整する際は部下にこの店まで運んでもらっているそうだ。
ガルはレイラの口調に口を曲げた。
「こんな店ってなんだよ……客は来ないがな」
「だから私はあれほど言ったっ!入口が絶望的だから改装しろって、あれじゃ客が来ないよって!」
「ふざけんな!ここは俺の店だ!!俺のセンスがわからない客はいらん!」
「嘘だね!店の前に恥ずかしい字で客寄せしてた!あれを口で言ってみてよ!「この店が一番すごい」って!」
「本当の事だろ!?俺は俺の腕が一番だと自負している。」
「確かに腕は一人前だけどそのうちこの店は潰れるよ?それに客寄せ目当ての紙を貼り付けるとか客が今一人もいないんじゃないの?それにリル様だって、心清らかなリル様だって一目見てUターンするくらいだよ?」
「心清らかって……あはは」
レイラの口調が普段聞けない感じで面白い。……ただ内容が内容なのでもうしばらく黙っていよう。
「……わかっている。わかっているわ!だからより改装を重ねたんだぞ!」
「……今なんて?」
レイラの空気が張り詰めたように感じた。ガルは気がつけなかったのだろう。意気揚々と自慢するように語り始める。
「ネジが降ってくる仕掛けを見たろ?あれは誰も思いつかない素晴らしいものだ。作るのに5年分の資金を失ったがそのうち客が来るに違いない」
「……リル様、違う鍛冶屋を探しましょう。さすがにこんな馬鹿に剣を任せる気も失せました」
まるでその目つきは、あれほどやめろと言ったパチンコや競馬にいつまでも手をつけて破産した夫に対し、呆れを通り越したよく分からない感情がとめどなく溢れ、自身の人生を考え離婚届を手にした妻のような……
「ひぃ!待ってくれレイラ!俺が悪かった!俺が悪かったから出ていかないでくれ!!」
やばい……既にダメな夫にしか見えない。
「もう決めたことですから。今まで大変お世話になりました」
「お願いだ!最後のチャンスをくれ!頼む!お前がいないと俺はダメなんだ!」
昼ドラですか?
これも後から聞いた話だがガルのいう俺はダメとはレイラが剣を調整してもらう際にガルに払うお金がこの鍛冶屋の生命線だかららしい。
レイラはガルの言葉を無視して出入口へ向かう。どうしよう……ガルさんには悪いけどとりあえずレイラについて行こう。
「なぁ!レイラ聞いてくれ!いや、聞いてください!俺が間違っていた!」
出入口を塞ぐような形で前に出たガルをまるでゴミを見るかのように冷え切った目で……怖っ!
「……でなんですか?店を心配していた私の気持ちを返してくれるんですか?」
「いや、本当に悪かった。本当は気がついていたんだ。このままじゃまずいってな。いつまでもお前に助けてもらう訳にも行かないからな。だから、俺は……」
ガルは膝をつき、悔しそうに床を握る。
レイラに迷惑をかけないために、巡り巡って迷惑をかけていたらしい。
悪い人じゃない事は薄々わかっていたけど、この人すっごい馬鹿だ。
変なセンスにこだわらず、普通の鍛冶屋に改装すればいいだけの話なのに。
そんな落ち込んだ姿を見たレイラは、呆れたように微笑みガルの肩を優しく叩いた。
「……はぁ、だからそんな大金を払ってまで馬鹿な事をしたのね」
「レ、レイラ……」
「ねえ馬鹿?よく聞いて」
「馬鹿って……いや、はい。」
「私の言うようにしてくれると誓うのなら許してあげる」
「ち、誓います」
「次私が来る時までにはこの店が繁盛するような外装にすること。その指示は私がするから手出しはしないこと。本当に客がほしいなら変なこだわりで無下にしないこと。でも変な客や嫌な客なら別ね。売上は変な事に使わないこと。他にも沢山あるけど……これが呑めないなら二度と許さない」
「わかり、ました……」
「嫌なら嫌で良いんだよ?」
「嫌ではないです」
「はぁ、まったく。仕方ない人なんだから……」
なんだ……昼ドラか。
とりあえず丸く収まったようでよかった。ホッと肩をなでおろしてふたりを見ているとレイラと目が合った。
何かに気がついたレイラは慌てた様子で頭を下げる。
「リル様、申し訳ありません」
本来は私の武器選びで鍛冶屋に来たので、違う要件で時間を使った事に護衛として罪悪感を感じているのだろう。
「レイラ、そんな事気にしないでよ。レイラにとってもガルにとっても大切な事でしょ?それに私もお客さん来るように手助けするからさ!」
「リル様、ありがとうございます……!」
「あぁ、えっとリル様、感謝します」
「もう、2人とも顔を上げてよ。玄関じゃなくさっきの客間に移動しよ」




