45話 束の間のひととき
レイラから剣術を教わり始めて3ヶ月程経過した。
いつもの様に朝食を済ませ訓練所に向かうため着替えていると、レイラが完全武装で私室に尋ねてきた。
急遽王様と謁見のようなものを行うらしい。
レイラ曰く、勇者育成計画というものが帝国に代々伝わっており、その第二段階に入るという事だ。
なんで連絡もなく急に決まったのかを聞くと、私の成長スピードが予想以上速く、半年を計画にしていた城内訓練を大幅に短縮できるほどの実力を身につけていた為、近頃王様から直接謁見という形で次の段階に入る予定だったそうだ。
今日は常に多忙である王様の予定が急遽空いたので早い方が良いと王様の意向で行われるそうだ。
急いで私室に用意されてある正装を纏い、レイラと共に王様の元へと向かった。
───
城に住んでいても滅多に行くことの無い城内中心部。その奥の部屋に通された。
「久しいな、勇者よ」
「お久しぶりです、王様」
王様が正面に座り、後ろ隣りに立っている人は……多分宰相だろう。城内で騎士団長のクゼンと並び歩いているのをよく見かける。
急遽予定が決まったためか、今回は貴族達がいなかった。
「副団長もな、よくぞ勇者をここまで育ててくれた」
「有難いお言葉です」
「して勇者よ、此度はお主に試練を与えたいと思う。この世界には魔物が存在するのは知っているな?」
そう、この世界には魔物というものが存在するらしい。実際に見た事がないがレイラから聞いたことがある。
毎日のように訓練所にいる為この世界に転移してから未だに城外へ出たことがないのだ。
「聞いたことはあります」
そう端的に答えると王様はニヤリと笑ってきた。
「代々帝国に伝わる勇者を育成するための特別なダンジョンがあってな。そこに挑戦してもらいたいと思う」
……魔族を殺してこいと、いつかそのような使命を負うと考えていたため、幾分か心が軽くなった。
魔物なら大丈夫だろう。害悪と聞いたし。
「わかりました……!という事は城外へ出てもいいのですか!?」
毎日訓練しているため、外の景色は城の中からしら見たことがない。城下町が毎日のように賑わっているのをよく目にしていたので気になっていたのだ。
「あぁ、勇者には休暇を与えてなかったな……うむ、悪かった。詫びと言ってはなんだが今日明日は城外で遊ぶことを許可しよう」
「おお!ほんと!?」
言ってみるもんだなと思った。
宰相らしき男性が小さな包を手渡してきた。中を確認すると硬貨が40枚くらい入っていた。
あ、この世界のお金の価値は知らない。後でレイラに聞こう。
「ただし、勇者とバレないように頼むぞ。勇者には力をつけてから民の前で初めて素性を明かし、演説する事になっているんだ」
「え、それは聞いてない!」
演説するなんて……するなんてっ!
何を話したら良いかわからないし!!
「人族の代表である勇者が演説をしなくてどうするんだ」
王様は軽く呆れたような苦笑いをした。
「明後日、まだ民には秘密だが先程言ったダンジョンへ優秀な副団長の率いる騎士団を連れて遠征をしてもらう。それまでには帰ってくるように」
「わかりました!」
とにかく城外が楽しみで仕方なかった。
ダンジョンへ潜ることは棚に置き、めいいっぱい楽しむことに決めた。
「副団長、話があるから明日の夜書斎まで来い」
「……はい、わかりました」
王様はそれだけを言い残し、自らの書斎へ戻っていった。
「レイラ!そんな顔してないで速く行こ!」
「はい、お供しますね」
騎士の副団長って大変なのかなと私は軽く考えていた。
───
「うわああああ!すご!」
城下町の城前通りの真ん中で、私は目を輝かせていた。
宰相から貰ったお金とメイドが用意した服を着て、城門正面ではなく裏門からこっそりと城外へ出た。勇者の噂は帝国内に既に出回っており、城門正面から出ると怪しまれるかもしれないからだ。
とはいっても誰しも勇者は男だと思っているため、バレはしないだろうとさっきレイラが言っていた。
そして私の背中から腰にかけて、鞘を紐で通した細長い剣を携えてる。一応気品やなにかあった時の為といい、刃のついた剣をだ。鞘から刀身を覗くと鋭利な刃が見て取れる。いつも訓練では刃を潰した物を使用するため、こうした剣を手にしたのは初めてレイラと立ち会った時以来だった。
もちろん隣にいるレイラはガチの愛剣を携帯している。
城下町へ行きたいと思っていたが、いざ来ると何をするか迷ってしまう。
とりあえず雰囲気を楽しむために人混みの中に突入した。
様々な屋台のようなお店が通路脇を構え、食欲を誘ういい匂いが漂ってくる。
城で出される料理を初めて口にした時は美味すぎて驚いたが、それも続くと舌が肥えて食べ歩きなどをしたくなる。
「いらっしゃ〜い!お嬢ちゃん!こっちこっち」
「いやいや、あんな店よりうちの店の方が美味いもん揃ってるよ〜!」
「はあ!?お前の店なんかよりうちの店の方が何倍も美味いに決まってるだろ!」
「黙れ干物屋!肉の方が美味いわ!」
あまり絡まれたくないので軽く会釈しながら、城前通りを歩いて行く。本当に盛んだ。
しばらく歩いて、いい匂いが漂う串肉屋さんへお邪魔した。さっきのおじさんには悪いけど、絡まれたくなかったのだ。仕方ない。
「いらっしゃい!コールラビットを買っていくかい?タレ味が銅貨3枚で塩味が銀貨1枚だ!」
「んー、タレと塩味を2本づつ!」
「あいよ!」
よくわからなかったがとても美味しそうな匂いがしたので、コールラビットという串肉を買った。塩とタレ味があり、驚いたことに塩味の串肉はタレ味の3倍以上の値段がした。
小包みから銀貨を取り出して払った。道中硬貨についてレイラに聞いといてよかった。それと小包みに銀貨が入っていたので金貨という大金を出さずに会計できたのでほっとした。さすが宰相さんだ。
「おまたせ!焼きたてだから熱いうちに食べるんだぞ」
「うん、ありがとう!おじちゃん」
「また来てくれよ〜」
やっぱ喧嘩しているより笑っている人の方が気持ちがいいかな。
店を出て、手にした串肉をレイラに渡した。
「いいのですか?」
「うん、レイラの分だよ」
「ふふ、ありがとうございます」
レイラが嬉しそうに受け取ったので熱々の串肉に噛み付いた。
柔らかさの中にしっかりとした肉の弾力があり、噛む度にしつこくなく程よい肉汁が口内を駆け巡る……
「……これ、美味っ!」
この美味しさには驚いた。すっごい驚いた。
レイラと共に串肉を頬張りながら城前通りを下る。コールラビットの肉も美味しかったが普段では味わえない美味しさもあった。
「ねぇレイラ。なんでタレと塩でこんなに値段が違うの?」
「あぁ、それは……」
レイラのしてくれた説明はこうだ。
塩はこの帝国では入手が困難らしい。
まず、塩は海からしか取ることができない貴重品であり、人族の領にある海はこの大陸アスティルカの北海岸か南海岸のみ。南海岸は100メートル程の波が押し寄せる断崖絶壁のため塩の採取は実質不可。
大陸の南側に位置する帝国では唯一塩を採取できる北海岸側の王国へ旅商人を依頼するそうだ。
その中で聞きなれない単語があった。
「旅商人って?」
「商人の中でも国に選ばれたエリートです。様々な運搬をする職業で主に国が常に必要である塩を運ぶ事が多いらしいです」
それほどまでに塩が必要なのか。いやそりゃそうか。人は塩分を取らないと死ぬって科学の授業で勉強した事あるし。
なるほど、塩味が高いのも頷ける。
手元の串肉が無くなった頃、一際目立つ大きな建物を見つけた。人通りがより激しくなり、大きな武器を担いだ人が出入りしている。
「あぁ、あれは冒険者ギルドと呼ばれる組織の建物ですよ。入ってみますか?」
冒険者ギルド……魔物……はっ!そういう事か!RPGか!ドラ〇エやった事あるからしってる!
転移前、友達がいなかったから、家でゲームをよくやっていた。そんな本気でやっていたわけじゃないけど、楽しむ程度に遊んでいた。
「うん、見てみたい!」
まさか本物の冒険者ギルドにくるとは思わなかった。
上手く人波に乗り、レイラと共に冒険者ギルドへ入った。
入って正面に受付がある。木製の机や椅子がずらりと並び、バーのようなカウンターの手前、程よく人が埋まっていた。
陽の光が直接屋根から差し込むような構造になっており、建物の中なのに外と同じくらい明るかった。
正面の受付のお姉さんが身振り手振りで私達を呼んできた。
「レイラ、行ってもいい?」
「はい、ご一緒します」
今の服装はフードを被り、顔がよく見えないようになっている。
受付まで近づくと、お姉さんが笑顔で対応してくれた。
「冒険者ギルドへようこそ!本日は依頼の申し込みですか?それとも……剣を所有のようなので冒険者の方ですか?」
「いや、冒険者ギルドを初めて見たから気になっちゃって」
時間は昼過ぎの為、冒険者ギルドに依頼を頼む人の方が多いそうだ。
そして私とレイラは剣を持っている為、冒険者の人と勘違いされたみたいだ。
「そうですか。でしたら冒険者登録でもされますか?」
「う〜ん、レイラ?」
素性を明かしては駄目だと王様に言われているため、レイラに丸投げした。
どちらかといえば登録したいけど、したところで依頼も受けることができないと思う。冒険者活動をしたいわけではない。
いや、スライムは倒したい!目と口しかないあの青いヤツ!
「すみません。私達は冒険者登録をしに来たのではなく、観光が目的ですので」
「そうでしたか、申し訳ありません。
ではまたの機会に。何か質問などありますか?」
レイラが上手く流してくれた。
う〜ん、質問か。
「トロール討伐の依頼とかってあるの?」
ちょっとした好奇心だった。頭に浮かぶのは緑の怪物。
「はい、たまにあります」
「あるのっ!?」
「はい、ありますよ?」
「緑の?」
「はい。」
「太った?」
「はい。」
「持ち物は?」
「棍棒ですけど……」
「ぉぉおお!必殺技は?」
「えぇ、と」
「必殺技は??痛恨の一撃???」
「ちょっと、リル様!リル様!?」
「え?……あ、ごめんなさい。」
「い、いえ。大丈夫ですよ」
気がついたらカウンターに両手をつき、前のめりになっていた。レイラが制止してくれなかったらもっと危ない人になっていたところだ。
まさか本当にトロールがいたなんて……
トロールが好きってわけではないけど、興奮してしまった。
「ま、またの機会をお待ちしています」
場の空気を読んで受付のお姉さんが気を利かせてくれた。
私はフードを深く被り、火照った頬を隠しながら冒険者ギルドを出た。
それから城下町を再び見て周り、日が落ちてきたので城へ戻ることにした。
なんだかとっても疲れた。でも、とっても充実した日だったと感じた。




