39話 転生 魂の遺言
禁忌……それは世界の歪みである。
世界はそれを均衡へと帰す。
しかし、その者を世界が消す事はそれこそ世界の規則に反する。
よって世界はその者へ強力な能力に相当する、相反する能力を与えた。
それが……永遠に続く世界の呪い。
+と-で例えよう。
均衡というものの数値を±0とする。世界から見て《私》は+の能力を得た。世界は均衡へ帰すためにそれ相応の-の呪いを与えた。±0へするためにだ。
《私》にとって、転生の能力が-であろうが世界にとっては+であり、見過ごせない禁忌なのだ。
つまり、《私》は望むこと無くひとつの禁忌のひとつの呪いを持って誕生した。するはずだった。
しかし、それは世界の予測を遥かに超えた。
……転生の能力は強力過ぎたのだ。
何回も生を繰り返し、記憶や能力といったその全てを受け継ぐ力。
神ですら手にしてはならない禁忌の中の禁忌。
世界は均衡へ帰す為、更に強大な能力を、-を与えた。
それは、運命を捻じ曲げるほどの世界の禁忌……
【絶望の魂縛呪】というものだ。
その禁忌が《私》の魂の禁忌と混ざり合った。
世界が均衡へと調和し、やっと《私》が誕生した。
そして世界が気がつかない所で……《私》の陰でイレギュラーがおきた。
それは《彼》の存在。
本来、何事も無い人生を進む運命だった《彼》は、《私》の禁忌の強い影響に当てられた。
それは《彼》の運命を捻じ曲げた。
禁忌の影響に当てられた《彼》は世界の法則により、とある能力を授かった。
それは……
───
一つの蒼白い炎が揺らめいた。
それは……マティルの【ソウル・テル】だ。
(……クリス)
蒼白い炎の意思が響く。
(俺はお前の事が……好きだ)
マティルの魂はそっとクリスに近づいた。
(最後……ちゃんと聞こえたからな)
蒼白い炎がクリスに触れる。
すると、より輝きが増した。
本来、【ソウル・テル】というものは魔族という種族を生き延びらせる為、情報手段の為に使われる禁術ではなかった。
【ソウル・テル】とは最後の悲願。死して悔いを残さぬ為に何よりも大切な想いを、愛を、伝えるべき人へ届かせる。死を超えた告白。
(もう一度……俺は、クリスに)
蒼白い炎がより一層揺らめく。
その想いが、強い意思が、眠る魂の禁忌を呼び起こした。
(会いたい……っ!)
魂の雄叫び。それは深く閉ざされていた一度限りの禁忌。《彼》に眠るものが、【時】を動かした。
その願いが、クリスを想う魂が、《彼》の
【ソウル・テル】により浮き出しになった魂から直接禁忌を目覚めさせたのだ。
蒼白い炎はクリスの死体を呑み込み、世界を照らす眩い輝きを放って消えた。
それは……その禁忌は《私》の転生の能力を、その先の運命を大きく変えた。
何の因果か。何の運命か。仕組まれたものなのか。
有り得ない条件が奇跡のように重なり合い、それが結ばれた。
2つの禁忌が交わる……クリスとマティルは転生し、時を遡った。
私は、再び転生した。
日本人として……そして、
私がクリスとして目覚める前の……
勇者リル・ナスタシタとして。




