40話 再生
最高神と名乗る女性が消滅すると、私は光の波に呑み込まれた。
しばらくするとその圧迫感から開放された。
「くっ……いったい何が」
地べたに尻もちをつき、周囲を見渡す。そこには信じ難い光景が広がっていた。
「え……は?」
透明な硝子に細工された色鮮やかな芸術が並び、広々とした空間に女神のような銅像が佇む。その中心に居る私と……私に向かって片膝をつく見た目神父。そして偉そうな態度をとった鎧の集団。
(あれ?なんで私こんな所にいるの?)
混乱した挙句、1番初めに思った事はそんな疑問だった。
すると、片膝ついていた神父が偉そうにしている人に話し始めた。
「おぉ、なんとお美しいお姿か!女性の勇者とは初めてでありますぞ!そして転移者の勇者となると……予言通り世界の危機が訪れるという訳ですな」
「あぁ、先代の予言通りなら、な。しかし、女性の勇者か……戦力として扱えるかが問題だな」
「?」
私には何を言っているのかさっぱりわからなかった。
そこへ神父が私に向かって話してきた。
「では勇者様。改めまして、アスティルカへようこそおいでになられました。どうか人族の救世主、英雄としての使命を果たしてくださいませ」
「……え?」
───
ここは私がいた地球ではないらしい。
この世界の?大陸の名称はアスティルカといい、今私は帝国と呼ばれる国の王城にいる。
私はこの世界の者ではなく、異世界転移者と呼ばれる勇者だそうだ。
初代勇者に続く二番目の異世界転移者らしい。
私は帝国の大聖堂に転移し、この王城に来るまでに神父にそう説明された。
この後、帝国の王様との謁見がありそれに付き合う予定になっている。拒否権などないらしい。
道中、王族の豪華な馬車の中で考えを巡らせていると、いつの間にか王城に着いていた。個室にまわされ着替えを要求させられた。
王と謁見するには身だしなみを整えるべきだと言われたからだ。
「勇者様、そろそろよろしいでしょうか?」
メイドのような女性が急かしてくる。
「は、はい!今行きます!」
動きやすそうな白いドレスを来て、個室を出た。
メイドの後ろについて行く。
通された場所は、先程いた大聖堂に負けないほどの装飾が広がっていた。よくわからないが芸術というやつだろう。
私は周囲に流され、気がついたら王の前まで来ていた。
いつの間にかメイドに代わって私の前に立っていた騎士に倣って頭を下げる。
すると威厳のある力強い声が響いた。
「よい……面を上げよ」
足元にある赤の大きな絨毯の脇に貴族と思わしき人達が並び、正面を真っ直ぐに進んだ小高い椅子の上に王様の風格を感じさせる男性がいた。
「貴女が此度の勇者か……ふむ。
我の名はフィルド・フィ・オグマ。大陸アスティルカの王族にして、帝国の王である。
色々と疑念があるが貴女に頼みがある」
王様は首をかしげながらそういった。
勇者が女性というのは初めてらしい。
「あの、状況が理解できないのですが……」
状況も何もわからない私が困惑気味に発言するとひとりの貴族が叫んだ。
「無礼者ッ!王の前で勝手に発言するなど」
「よい……それをいったら貴殿もであろう?」
「ぐっ、申し訳ありません……」
その指摘を王様は遮った。
言いくるめられた貴族は私をまるで親のかたきかのように酷い表情で睨みつけてきた。
(わぁ、あんな人本当にいるんだ……)
そんな視線に当てられ萎縮しながら私はそんな事を考えていた。
すると王様が私に話し始めた。
「すまないな……転移したばかりでここの常識など知らないだろう。後でそれを教えてやるが、今は王と勇者の謁見という国の大々的なものだ。まず、その本題に入ろう」
常識を教えて貰えると聞いて少し安心した。
私は転移したことには不思議と未練はない。この世界がどんなものか知らないが、前の世界には戻りたいとは思わかなった。
ただ一つだけ……転移前に出会ったあの男性の事が気がかりだった。
「王族には勇者をみつける力がある……勇者とは周期的にこの大陸の人族から現れるものだが、今回は今までの勇者とは違うのだ。それは転移者という点だ」
王は難しそうな表情を浮かべ身振りをしながら語った。
「それも、初代勇者以来の転移者だ。そして歴史によると、転移者の勇者が現れるのはこの星の危機が迫っているというのだ。」
貴族達がざわついた。そこまでの事は知らされていなかったらしい。
私は私が転移者だと、改めて自覚した。
「王家に伝わる歴史にはこう記してある。『転移者、初代勇者を筆頭に人族はアスティルカを守った。悪の魔族の進行を遮り、その根源の魔王を討伐した。再び勇者と共に、生き残りの悪を駆逐することが王家の宿命だ』とな」
再び貴族達がざわついた。聞いた限り大層な歴史なので、それを知らなかった?貴族達は驚いているのだろう。
「勇者よ、人族の救世主よ。我ら王家の悲願を……人族の平和のために、悪の魔族を駆逐するよう協力してはくれないか……?」
王様が縋るように私に頼んでくる。こうして人に頼られたのは初めてだった。それが嬉しかった。そして不安でもある。
でも、私はその話を聞いて……私が勇者だと聞いて。
人族の救世主だと言われて。雰囲気におされて……
「私にできるなら……私は勇者として、人族のために戦います!」
「おお、勇者よ!感謝する!!」
王や貴族達が嬉しそうに手を叩いた。
ずっと暗かった、いじめられ続けていた私が、必要とされた。
嬉しかった。
でも状況がぶっ飛んでる。意味がわからないくらいに。でも、できることなら勇者として……
この世界に来てからどこからか湧き上がる不思議な力を感じて……それに背中を押されて。
誰かの役にたちたいと思った。
「して、勇者よ。貴女の名を教えて欲しい」
「あ、まだでしたね。
私の名前は……そうだった」
転移する時、私は神様に会った。何を話したらよく思い出せないけど……その時に貰った名は、今もはっきりと覚えている。
「私の名はリル・ナスタシアっ!」
この小説をふたつに分けるのなら、今話からが後半となると考えています。




