表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非愛転生〜カタオモイ〜  作者: オサム
第3章 私に必要な者
32/58

30話 生命の樹

 



 大量の血液が急速に失われると人はショック状態を呈し、全血量の約3分の1以上が失われると死の危険がある。

 また、全血液の約2分の1以上を失うと確実に死に至る。


(もっと早く、そして精密に……)


 クリスの左腕は見るも無残なものだった。

 二の腕付近からまるで肉が液体のように焼き溶け、留まることがなく血を垂れ流し、骨は焦げていた。


 治癒魔法で腕をくっつけようとしても、こんな状態じゃ絶対に治せない。


 失血が酷いので腕を繋げることができる可能性を切り捨て、傷口を塞いだ。


 肉を再生し、構築する。


 形が崩れ、焼き溶けた腕を止血し肉を繋げるにはかなりの時間がかかった。



 そうして止血は終わった。

 だが、足元に広がるこの失血量は異常すぎる。


 どう見ても2分の1以上の血を流していた。



(このままじゃクリスは……)


 クリスの顔は真っ青で、徐々に体温が失われている。


 ルナは様々な打開策を考えた。

 1番現実的なのは栄養を取らせて血を作らせる事。

 しかしそんな時間はない。血ができる前にクリスは死んでしまう。


 ならこの血を浄化させてクリスに戻す?

 そんな馬鹿げた事できるはずがない。


 血を分ける?

 昔それを行って余計体調悪くなって死んだ人がいると聞いた事がある。



 本当は気がついていた。


 ……このままじゃ助からないという事が。


 認めたくなかった。



「ねぇ、クリス。起きてよ……死んじゃ嫌だよ」


 ルナの弱々しい声が放電にかき消される。


「なんで?ねぇ、なんでよ……」


 血だらけのクリスの胸に頭をうずくめた。

 このままでは死んでしまう。そんな現実なんて知りたくない。受け入れられない。


 その時、汚らしい笑い声が聞こえた。


 今になって初めてルナは()を見た。



 あいつは何を笑っているのだろう。

 クリスが危ないのに……あんなやつに構ってやる時間が惜しい。


 ……っ!?あいつがクリスを?


 それに気がついた時だった。

 ルナの体から膨大な高密度の魔力が溢れ出た。

 それは体内で渦となり更に濃さを増す。



「……許せない」


 魔族の男は下卑た声を上げ、雷鎚が(ほとばし)る。

 ルナはその声や雷鳴がクリスを貶す戯言に聞こえた。



「──黙れ──」


 口から吐かれた冷えきった言葉は周囲に反響した。


 あいつが憎い……だがそれよりも優先するべき事はクリスの生死。

 私がクリスを護らなければならない。

 私はクリスとの時間を邪魔されたくなかった。


 私の強い願いは魔導へ昇華した。


 それは神へ至る魔導……



「【神至結界・絶対領域(私の空間)】」





 ───


 確かに魔法を放ったはずだった。

 今の魔法は俺のとっておきだ。


 直撃したらその地形諸共瓦礫に埋もれ焼き焦がれるはずだ。

 なのに……その地形にすら傷一つ着いていない。

 そもそもこの魔法特有の雷鳴が轟いていない。



 ─ゾクッ─


 目が合うと悪寒がした。


(あの女だ……あいつの仕業だ)


 やばい、と本能で感じ取った。

 すると俺から目を逸らして腕に抱いた女の方に魔力を注いでいる。


(ふっ、治癒魔法か?あの失血では既に死ぬだろうに……)


「お前らァ!あの女に全力の魔法をぶち込めッ!」


 雷魔法の大技でかなりの魔力を消費した。

 温存をする為にも他の奴らにやらせる事にしたのだ。


 そして魔法が一斉に放たれる。


 あの女はこちらに目向きすらしない。

 やれると思った。


 だが、魔法が何かに触れると消えた。


 まるで魔法をかき消されたかのような気がした。



(そんな馬鹿げた魔法があるのか?)


 手下の1人に突撃させた。

 すると見えない壁のようなものがあるらしく、どんな物理攻撃も跳ね返されていた。


(まさか、結界とでもいうのか?)


 上空から四方を囲んで一気に畳み掛けてみるも、その硬さに手も足も出なかった。

 この結界を張ったと思われる女が、腕に抱えたほぼ死んだような女に向かって吠えている。


(まさかこの結界は音も遮断するのか!?)


 ここまで強力な結界をいつまでも維持する事はできないだろう。相手の動きがあるまで待機しろと命令した時だった。


 この土地…いや、大陸が……この星が唸るように動きだした。


「な、何だこの揺れは!?」



 震度どころの話じゃない……


 上空にいるため被害はないが、土地がぶれて見える。



 そして……結界内を青い根が埋めつくした。



「なっ!?まさか、あれは!」





 ───


 ルナが結界を張るとマティルが傍に来た。


「クリスは、大丈夫なのか、?」


 マティルはかなり疲労している。

 強烈な攻撃くらい、そして深夜からぶっ通しで飛んできたのだ。


 ルナはクリスに顔をうずくめ一生懸命に魔力を注いでいる。


 だが、クリスの死は少しずつ近づいているのを感じていた。


「嫌だよ……クリス、このままじゃ本当に」


「そ、そんな」


 マティルは地に膝をついた。

 ルナの顔は涙で酷いことになっていた。




 ──ゴゴゴゴゴ──


 地中から音がする…




 とうとうルナの魔力が尽きてしまった。



 クリスの命が急激に消えていく……




 ──ゴゴゴゴゴゴゴ──


 徐々に地鳴りが酷くなる…




「嫌だ!嫌だよッ!

 死んじゃだめだよ!クリスーーッ!」


 ルナが声にならない声を上げた。





 ──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!──


 割れるかのような強烈な地鳴りが轟いた……



 亀裂と共に、地中から輝きを放ち透明感のある青色の根が次々に飛び出してきた。


 その根は無数の青の葉を生やし、クリスとルナを包み込んだ。


 2人は青の根に囲まれた、神秘的な部屋に招かれた。


 そしていくつもの小さな青の根が、クリスに優しく絡みついた。



「なに…これ、何が起きてるの?……っ!?」


 とても綺麗で幻想的な青の根。

 何かが流れているようにも見える。


 害は無いと確信した。

 根からとても濃いクリスの魔力のようなものを感じ取ったからだ。


 クリスから星聖女の能力は星の魔力の中継と聞いている。

 仕組みは全くわからないが、クリスより濃い魔力をもつこの根はその根源だと予想がついた。



 次第にクリスの全身を青の根が鎧のように纏い、その中で飛び抜けて魔力の濃い青の根が、胸の上に小さな雫を零した。


 《ドクンッ!》


 その雫は胸から全身に波打つように光の奔流となってクリスの体を駆け巡る。



「──ぁ」


「え、クリスッ!」



 クリスが小さな呻き声を出した。

 もうダメかと思っていた。助からないと思っていた。

 何が起きたのかわからなかった。クリスは気を失っているが、表情に生気が見て取れた。


 次第に青の根は解け、地中へと帰っていった。

 青の根に包まれたクリスが解放される。

 ルナはクリスを抱えて受け止めた。


 クリスには大きな変化があった。

 赤茶の髪に綺麗な青の髪が混ざっている。

 その髪は、まるで鼓動しているかのように輝き満ちる魔力が流れている。



「な、何が起こったんだ!?

 クリスは、クリスは無事か!?」


 青の根が作った部屋の外にいたマティルが寄ってきた。そして、クリスの変化に驚いた。


「……うん。もうだめかと思ったけど、今の青の根がクリスの命を繋いだらしい」


「そう……だったのか。良かった」


「うん、クリスは助かった」


 それを自覚して安堵した。

 同時に結界が消えた。


 "クリスは助かった"とルナが認識したからだ。

 ルナが使った魔導はクリスを守るために誰にも邪魔されないように作った結界だ。


 役目を果たした結界はルナのその認識で解除されたのだ。



 結界が消えたのを感じ取ったのかヨルドが口を開いた。


「おいおい……生きてるのかよ。

 それにあの根、星聖女とでもいうのか?」


「!?」



 ルナは改めてヨルドの存在を把握した。

 そして瞬時にこの状況の危険性を正確に感じとった。




 だが、より危険性を感じたのはヨルドの方だった。


 先制攻撃した【ハイボルト・ランス(轟雷の槍)】は普通の魔法とは一味違う。体の一部を吹き飛ばしさえすれば止血させることもできない傷跡を残し、大量失血で殺せる技だ。


 それを止血したあの女の技術には驚いたが、あの失血量では確実に死んでいたはず。



 失血さえも回復を可能にできるのは……伝承にある星聖女の能力、【生命の樹】しか考えられない。

 そして生命の危機を感じた星聖女は"生命の樹"を使い覚醒すると聞いている。


 そもそも星聖女の存在なぞ馬鹿げている。

 だが、あの青の根……そしてあの女は生きている。星聖女の能力にしか考えられない。


 世界の運命の渦中にいる存在が星聖女というものだ。

 それは世界規模の"何かが起こる"という事だ。


 そして何かを変える運命の星聖女はその宿命を終えるまで最強の能力を有すると聞いている。



 今の圧倒的有利な局面、だが星聖女と敵対するのは後々響くかもしれない。



 ……しかし、星聖女も人族だ。

 昔の伝承なんて関係ない。

 殺すべき復讐の対象だ。


 だが、今こそ絶好のチャンス……


 そう自分に言い聞かせ、ヨルドはルナ達に襲いかかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ