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非愛転生〜カタオモイ〜  作者: オサム
第3章 私に必要な者
33/58

31話 貴方のために

 


 辺りは木々に囲まれ、大いに茂った葉の屋根が頭上に登った陽を隠している。

 あれから数時間経った。クリスはまだ目を覚まさない。

 もうすぐ昼になる。


 手元にある大きな岩が冷たく、とても鮮やかな苔が生えている。


 岩の隙間から流れ出る水を両手ですくい、口にあてた。

 幾分か冷静になれた気がする。


 深呼吸をし、今の場面を改めて確認する。



 ……このままではどう考えても全滅する。


 かなりピンチな状況に陥っていた。




 ───


 ルナの神至魔法が解け、ヨルドがクリスを癒した青の根について何か知ってそうな事を口にした後、急降下して襲ってきた。



 一瞬対抗すべきかと考えたルナだが、結界を張った時にほぼ全ての体内魔力を消費したのに加え、クリスに注いだ回復魔法で魔力が枯渇していた。


 一方マティルも一晩休み無く飛行を続け、ヨルドの強力な技をまともにくらっている。



 このままではまともに戦うことすらできないと判断したルナは、特製煙玉を叩きつけクリスを抱えマティルと共に森へ逃げこんだ。



 特製煙玉の効果範囲内で息をすると神経を痙攣させる効果がある強烈極まりないものだ。


 それを知らずに急接近してまともに吸い込んだヨルドはそのまま頭から地面に突っ込んだ。


 手下の魔族達はヨルドの指示を仰ごうとするが、ヨルドは声すら出せず、体も動かずで魔族一同は停滞していた。



 特製煙玉の効果もあってか、かなり距離をとることができた。


 途中、体力的に辛かったルナにマティルが進んでクリスを担ぐと言ってくれたので任せた。


 見つかりにくそうな岩場を見つけ、残り僅かの魔力を振り絞り【迷彩結界】を組み上げた。

 この結界は周囲に馴染み、違和感を産まない結界だ。


 その結界を頼りにやっと2人は安息を取った。


 疲れが押し寄せたのでクリスを柔らかい土の上に降ろし、睡眠をとることにした。



 それが悪かった。



 今、目の前にヨルドがいる。



 ルナは何かを感じとって起きた。すると目の前にヨルドがいたのだ。


「!?」



 咄嗟に戦闘態勢を取ろうとした。だがこちらに気づいていないようだった。


 迷彩結界がまだ持続しており、その効果なのだと思う。


 何故ヨルドが居場所を突き止めたのか。

 そっとマティルを起こすことにした。


「……あぁ、ルナもうすこっ!?」


 ヨルドに気がついたらマティルは飛び起きルナとクリスの前に瞬時に移動した。


 そこでマティルも違和感を感じ、数秒して納得したようだ。


「あぁ、結界でバレてないのか」


「多分……でもなんでこの場所が」


「なっ、まさか!?」


 ヨルドが手にした紫の宝玉を目にしてマティルが驚愕の声を上げた。



「なんかわかったの?」


「あぁ……あれは"追跡の宝玉"。ターゲットの魔力を記録させ場所を把握する事ができる魔道具だ」


「そんなものが……じゃあそれで!?」


「あぁ、あの魔道具を使っていたのか。道理で……」


「……何があったの?」


 状況からマティルはヨルドに追われていたように見て取れた。

 何故そうなったのか……その説明をルナはマティルに問いたのだ。



「あぁ、今朝直ぐに話そうと思っていたことだったんだがな……」


 そう言って彼は語り始めた。



「俺は……魔王様に似ているそうなんだ。」




 ───


 マティルがクリスとルナの元へ通いだし始める1か月前。クリスとルナが旅をしている間に人族との戦争が表沙汰になり、魔族の首都では大騒ぎになった。


 その騒ぎを落ち着かせるために魔王が動き出し、人族との戦争を終わらせると宣言した。


 それを聞いた魔族の民達は、魔王自ら先頭に立ち人族を皆殺しにすると捉え、混乱が興奮へと変わった。



 魔王幹部は8名おり、そのうちの3名が首都へ残り5名は戦士を連れ戦場へと飛び立った。


 時期魔王幹部のマティルは魔王幹部の抜けた穴を埋めるために働き、1ヶ月経ってようやく猶予が生まれた。

 そしてクリスとルナの元へ通い始める事になる。



 現魔王は魔王を良しとしない数名の幹部は"慈悲の魔王"と馬鹿にしていた。

 魔王は非道として魔族に崇められている。

 つまり忠誠が無いという意味だ。


 だが、魔王というものは突発的に生まれる者。

 魔族の中でどんなに実力をつけても幹部止まりとなる。

 それ程までに、魔王とは強大な力を有しているのだ。



 魔王を良しとしない幹部の1人にヨルドという者がいる。

 魔王へは直接口を出す事ができないが、魔王の考えによく似た事を抜かす者に目をつけた。

 それが時期魔王幹部のマティルだった。


 立場的にも上に位置するヨルドは様々な難癖をつけ、マティルに陰湿な嫌がらせをしていた。


 だがマティルは全く気にしてなどいなかった。

 その意に介さない態度も現魔王と同じようでとても気に食わなかった。


 戦争開戦から1ヶ月ほど経つと、マティルが首都を抜け出すのがとても多くなっていた。


 戦場とは別方向に飛んでいくので使い魔をつけ尾行させた。するとどうだ。人族と会っているではないか。


 これは魔族の裏切りという正当な理由であの憎たらしいマティルを処分することができると考えに至ったヨルドは、手練の部下にマティルがこの首都に戻ってきたら連れてくるよう命じた。


 後日、マティルが訪れた。

 ヨルドは使い魔をつけたことを告げ、魔族の裏切りだということをマティルに迫った。


「何が悪い?俺は魔族を裏切ったわけではない。人族と話してはならない決まりなどないだろう」


「黙れ!これは明らかな裏切り行為だ!

 お前は本当に魔王様に似ているな!そういう甘いところが!!」


 マティルの言葉に怒り心頭になったヨルドはマティルに襲いかかった。


 そこからマティルの逃走劇が始まった。

 ヨルドが手配した手下に囲まれ、マティルが魔族を裏切ったと首都中に情報が回った。


 このままでは本格的に不味いと察したマティルは誰もついてこれないような速さで迂回して、クリスとルナのいる別荘へ向かったのだ。




「……そんな事があったのね」


 マティルの話を聞き終えたルナはしみじみと呟いた。


「でも、ここにいたらマティルは本当に魔族の敵になっちゃうよ?」


 マティルは時期魔王幹部という重要な立ち位置だ。

 それなのにここにいていいのかと心配に思った。


「現魔王幹部のヨルドの言葉は絶大だ。なんかしらの証拠は揃っているだろう。もう戻ることはできないのかもな」


「……いいの?」


「あぁ、俺はクリスとルナに知り合って、様々なことを考えることができるようになった。……このまま2人について行ってもいいか?」


「それはもちろんよ」


 ルナはそう言って口だけ微笑んだ。

 ヨルドが何故マティルを追ってここまで来たのかは理解した。だが、今の状況は変わらない。


 目の前の迷彩結界越しにヨルドがいるのだ。

 ……このままでは全滅する。


 先程と違って少しばかり体力が戻ったが、マティルを軽くあしらったヨルドだ。

 そしてクリスの左腕を奪った程の実力者だ。感情的になって突撃することは出来ない。


「ねぇ、なんでヨルドはこの場から移動しないの?」


「……追跡の宝玉の効果だろう。あの効果は絶対だ。現に俺達が今ここにいるように必ず追跡できる代物なんだ」


 ヨルドがどこか行くまで大人しくするべきかと思った。しかし、ゆっくり出来る時間は過ぎたようだ。



「ヨルド様。マティルと人族は見つかりません」


 辺りを散策していたのかその1人の魔族が戻ってきた。


「そうか。だがこの辺りにいるに違いない。

 ……吹き飛ばすか」


 ヨルドはそう呟き、手下と共に上昇していった。

 上空でものすごい魔力が練られている。


「まさかっ!ここら一帯を消し飛ばす気か!?」


 マティルが驚いた声を出す。


「このままだと……魔法を防げたとしても見つかってしまう」


 すぐ移動もできなさそうだ。

 ルナは結界を張った。


「【避雷結界】」


 それと同時に、巨大な雷柱が地に直撃した。


 ──ゴオオオオオオオンッッ!!──


 地が揺れ、土木が消し飛ぶ。

 辺りを見晴らし良くするための魔法らしく、効果は【雷帝・天堕】より小さかった。


 しかし、轟音が静まると辺りは焦げた地が広がっていた。


 そして迷彩結界の効果が切れ、ルナとマティルを見つけヨルドが声を張り上げた。


「ふははは、そんな所に隠れていたのか?」


 そして手下の魔族達もヨルドの周りに集った。



 このままでは不味い。

 身を隠せるような障害物も無いし、戦える魔力も少ない。

 雷魔法一点読みで【避雷結界】を張って魔力の消費を節約したが、それでも今の魔力量は心ともない。


 せめてクリスが目を覚ましたら……そう考えてしまう程に絶体絶命だ。



「お前らは手を出すな。

 マティル……その人族と共に死んでもらおうか」


 ヨルドはそう言い放ちマティルの目の前に瞬時に移動をし、地面へ叩きつけた。


「ぐはっ!」


 あまりにも速い不意打ちに肺と腹から息が出た。

 ヨルドは回し蹴りをルナの腹部に入れ、横へ蹴り飛ばした。


「くっ!!」


 瞬時に結界を張り、ダメージを抑えたが続けて雷の槍が飛んでくる。


「ッ!?【避雷結界】!」


 それを辛うじて弾く。

 そしてさらに魔力を練る。


「【フリーズ・ロード(氷連の道)】ッ!」


 体を捻り、転がり受身を取ったその手を地に叩きつけ、氷の連なる魔法を使った。

 それはルナが飛ばされた時通った地面を1メートル程の高さに列に凍らせた。


 ヨルドはその氷を避け、さらに雷の槍を3本放ってきた。


「【避雷結界】ッ!!」


 ギリギリ弾くことができた。

 だが魔力が一気に底を突く。


「くっ……魔力が、もう」


 ヨルドはそれを感じ取り、とどめに雷撃をルナへ打ち込んだ。

 魔力が枯れたルナにはそれを防ぐ術はなかった。


「ぐぁぁぁっ!」


 まともに直撃したルナの皮膚は黒ずみ、体の至る所から煙がたった。


 そんなルナを一瞥したヨルドはクリスへと歩み寄った。


 そして魔力を練り、雷を放電させる。

 それに感電して身動きの取れないルナが気がついた。


「!?やめてえええええ!!!」


 ヨルドはルナに目もくれず、雷の剣を右手に作り振り下ろした。



「やめろぉぉおおおおおおおおおッ!!!!」


 クリスが切られる瞬間にマティルがヨルドに体当たりした。

 ギリギリ間に合った。


「ちっ、くそがああ!!」


 マティルにタックルされた事に激昴したヨルドはマティルを蹴り飛ばした。


「ぐぁっ!」


「死ねぇぇぇぇ!!」



 雷を纏った拳でマティルを追撃する。


 その拳は何度もマティルを捉え、何度も吹き飛ばした。

 ヨルドの気が済むまで何度も……



 どれくらい経ったかわからない。至る所から血を流し、骨は砕け、声すら出せない程に満身創痍になったマティルはルナの目先に蹴り飛ばされた。



「もう、やめて。このままじゃマティル死んじゃうよ」


「はぁ、はぁ、ふははは。こっちはな、殺そうとしてるんだよ!」


 ヨルドはマティルに拳をさらに振りかざした。

 嫌な音が鳴り、マティルは地に埋もれた。


「ふはは、これで最後だ!マティルよ」


 ヨルドはさらに魔力を練る。

 その体から放電が迸る。


「やめてっ!本当に死んじゃう!」


「黙れ!」


「ぐぁっ!」


 ヨルドがルナに向けて放った雷撃が直撃した。


「黙ってよく見ておけ……こいつの死ぬ瞬間をなぁ!」


「ぁ……ぁぁ」



 ……声が出ない。体は痛みで悲鳴をあげている。

 既に感覚は無く、意識も朦朧としている。


 マティルは死にかけている。

 あの傷だとこの男がとどめを刺さなくても死ぬだろう。

 そして私も……このまま意識を離したら、死ぬと思う。



 もう目を瞑って楽になりたい。


 でも、私が動かないとマティルが殺されちゃう。



 マティルが死んだら、クリスは泣いちゃうよね……


 私が生きないと、クリスも殺されちゃう。


 私が死んだら、クリスを泣かせちゃうもんね。


 私が……今頑張るしかないよね。



 だから……私が大人しくしている理由なんて無い!


 私が今、抗うしかないッ!!



「……ぁぁぁっゴホッ、ぁあああ!!」


 枯れる喉を酷使して手に力を込める。

 喉に亀裂が入ったのか口から血を吐き出し咳き込んだ。

 それでも声を上げることをやめなかった。


「あぁ、ぁぁああ゛あ゛!!」


 今まで使ったことの無い大技。

 本当なら使いたくなかった魔法。

 それは自身にも深く傷を残す魔法。


 それを発動した。



「【環境・吸収(私の糧になれ)】ッ!!」



 掌から、大地からエネルギーを吸い取る。

 そのエネルギーはルナの体内で魔力に変換された。


 ……そして、エネルギーを吸われた大地や木々は、ルナを中心に二度と元に戻る事の無い傷跡を残し、腐り枯れ果てていった。


 すぐに得た魔力を魔法へと変換させる。



「【ニヴルヘイム(極寒の世界)】ッ!」



 朽ち果てた地が凍る。

 冷気がたちのぼり、周囲の空間を凍らせた。

 だが、その脅威の効果は付属にすぎなかった。


 "ニヴルヘイム"の本命、それは氷の結晶。

 その小さなものをヨルドへ飛ばしたのだ。


 驚異的な冷気に当てられ、魔力を上手く練れなくなったヨルドは回避する事が出来なく咄嗟に左腕で胸を庇った。



「な、俺の……腕が!?」


 すると、氷の結晶に触れた体の部位から凍り、粉々に崩れていった。



 正真正銘、全ての魔力を注ぎ込んだ。

 ヨルドをどうにかしないと傷を治そうが意は無い。そう判断したルナは持てる全ての魔力でヨルドを殺しにかかった。

 大地から吸い取れるエネルギーの量も限られている。


 これが最後の魔法だった。


 ヨルドの左肘から下は崩れ落ち、その凍りの侵食が肩へと迫っていく。


 痛みが無く、気がついたら体の部位を失っている恐ろしさ……それが"ニヴルヘイム"の真骨頂でもある。



 だが、その凍りの侵食にいち早く気がついたらヨルドは自身の肩を切り落とした。


「ぐあああっ!くっ、くそがぁ!」



 瞬時に後方へ飛び、雷を纏い切り口を焼き止血した。


「あ゛あ゛、こんな事初めてだぞぉぉおおお!!!」



 激昴したヨルドは纏う雷を辺り一帯に放電した。

 その熱で冷気が消えてゆく。


「あぁ、殺れなかった……」



 その言葉にはルナとマティルの死、そしてクリスの死を表していた。



「よくも、よくも俺の腕をおおお!!!」


 ヨルドは怒りに任せ、勢いよく降下してくる。

 目に見えるような分厚い雷の層を纏った拳がルナの顔を捉えた。


「……ごめん、クリス」


 ルナは死を覚悟した。




 ──ドゴォォォォンッ!!──




 何かがぶつかった音が聞こえる……


 私は……死んだのか。




 ……っ!?




 あぁ、良かった。




「おはよ……クリス」




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