26話 種族への復讐心
水龍とだいぶ話し込んだため、帰りが夜になってしまった。
しかし、とても有意義な時間だった。
クリスは水龍に心から感謝した。
風魔法を使い、天井をぶち抜いて地底湖のある洞窟から抜け出した。
ダムの家の方角へ勢い良く飛んだ。
星が照らす山や森の木々が、この山に来た時よりも綺麗に見えた。
数十秒飛び続けるとダムの家が見えてきた。
庭にいたルナと目が合った。
「ルナっ!」
クリスは風を切り、地面へ降り立った。
風が辺りの草をクリス中心に通り抜け波紋のように広がっていく。
「帰ってくるのが遅いよ……心配したじゃない」
そう言ってほっとしたような仕草をみせた。
それをみてクリスははにかんだ。
「……あのさ、ルナ」
「…なに?」
「私に力を貸して」
ルナは嬉しそうに微笑んだ。
「うん。もちろんだよ」
私は様々なものを背負っている。
だからルナに協力してもらう。
だって……私にはルナが必要だから。
……例え世界に縛られていたとしても。
───
「ルナ、ダムさん、心配かけてごめんなさい」
ダムの家で夕食を頂いている。
ダムが席に着いたのを確認してクリスは改めて話を切り出したのだ。
「いいや、大丈夫だ。随分とスッキリしたようだが何かあったのか?」
朝とは違うクリスの態度に不思議に思ったダムは何かしらのきっかけがあったと考えた。
だがクリスの言ったことはダムの想像をはるかに超えた答えだった。
「水龍に会ったの」
「!?!?」
ダムは椅子から転げ落ち、尻もちをついた。
手にしていたお茶の入ったコップが驚いた拍子に真上にすっぽ抜け、そのお茶を頭からかぶっていた。
そしてとても間抜けな表情をしている。
口をぱくぱくしているが何を言っているのか伝わってこなかった。
日常茶飯事のようなダムのリアクションなので無視してルナはクリスに問いかけた。
「水龍って?」
「初代勇者と共に初代魔王を打ち倒した種族らしいよ」
「なっ、本当に会ったのか!?」
ダムは食卓に前のめりになってクリスに問い質した。
「本当だよ?そんなに驚かなくても……あぁ、星の管理者と知り合いだって言ってたよ」
「ん?ダムさんの知り合いなの?
というより水龍って会話できるの?」
「会話できたよ?そして色々な事を教えて貰ったんだ。私が今こうしてスッキリしているように見えるのは水龍のおかけだね」
そういってクリスは笑った。
クリスは自分の事を客観的に捉える事ができていた。
精神的にも成長を遂げたのだ。
「だが……あそこの洞窟までは3日はかかるぞ?」
「そうなの?飛んだらすぐ着いたけど……」
ダムはまた凄いリアクションをした。
身体的にもクリスは更に成長したらしい。
「……そうなのか。その様子だと親しくなったようだな。なら良い」
ダムはそういって頷いた。
「クリス、この後どうする?」
ルナはクリスについて行くつもりだ。
元々クリスとルナが魔族領にいるのは戦争の為だ。そして今も戦争中だ。
その最中に《彼》をみつけた。ここで選択肢が3つ生まれた。
1つ目は戦争にこのまま参加する事。
《彼》を見つけた今、魔族と対抗するのに加担するとはルナは思えなかった。
2つ目は《彼》を探しに行動する事。
つまり魔族の味方になる事を指す。
魔族がそれをどう思うかなどの問題は置いておくとして、一番可能性があるかと思えた。
3つ目は人族領へ帰ることだ。
《彼》は人族領へは行かないだろう。
今までの旅の目的からしてもここまで来て引き返すとは思えなかった。
それを踏まえてルナはクリスに聞いたのだ。
「う〜んとね、私もその事考えたんだけど……
どちらの味方にもならないで魔族領を周ろうと思う」
「それはどういうことだ?」
「ダムさんや水龍からこの世界の歴史を聞いた。
それで色々考えさせられたの」
「……それは私も」
人族と魔族の戦争の歴史……そして違和感をクリスとルナは感じていた。
「言ってみろ……星の管理者として聞いてやる」
ダムは真剣な表情で佇まいを正した。
「歴史だけ聞くと明らかに人族の驕り……それが原因だとわかった」
ルナが続ける。
「今の戦争はそこから始まった復讐心の連鎖……大切な人の命を奪った種族への憎しみ」
《彼》は言った。「お前ら人族はなんなんだ」と。「俺が何したって言うんだ。弟が何したって言うんだよ」と。
「それが罪のない何も知らない者へ降りかかる……同じ種族という理由で殺し合う」
《彼》の弟はその犠牲になった。
「子供まで容赦なく殺す……それは人族も魔族も同じ」
そこまで聞いてダムは口を出した。
「まさにその通りだ。知性ある者は何かを失った時、想像を絶する感情に襲われる……それは時間が経つに連れ憎しみへ変わる」
悲しい事だ……とダムは呟いた。
「相手の事を知らない。種族というひとつの集団でみている……それが戦争へ繋がる」
「皆悲しんでいる……その心を埋めるために復讐を選ぶ。それは次の世代へと永遠に繰り返させる」
クリスとルナは戦争について……種族間の争い、歴史について正確に読みとっていた。
ダムは星の管理者としてその事に気がつくことが出来る者がいて嬉しく思えた。
「そう考えることができる者が2人も居るとは……この星もまだ捨てたものじゃないな」
ダムは続けた。
「初代勇者はな、力を合わせて共に戦った者達が種族という理由で戦争した事にとても苦しんだ。
こんな事で血を流すならと《絶縁の谷》なんてものを作った。だがおかしいと思わないか?」
「それって……渡れることが?」
「そうだ。初代勇者は死に際にこう言ったのだ。
『いつか此処を越え、再び手を取り合えるように』とな。
戦力をそこで消費させ、戦わせないように《絶縁の谷》を作った。永遠に別れるのでは無く、再縁できるように敢えて絶対の境界線にしなかったんだ」
これが勇者の最後の希望だった。
「歴史では魔王討伐という事で讃えられているが当時は勇者が死んだ後、『余計な事をしやがって』と両種族からの責められたのだ。皮肉な事だろ?両種族のために命を投げ出して恨まれるなんて」
勇者の希望は叶わなかった。
それ程までに当時の復讐の応酬は酷かった。
《絶縁の谷》のおかげで勢いは収まったが今もこうして戦争がおきている。
勇者はそのような選択をした。
それが間違いだなんて思わない。
私は私の別のやり方で……
「私は……私の為に《彼》を探しに行く。
私達は何も知らない。だから魔族の事を知らないといけない。
そして、星聖女として戦争を止める!」
「……うん、そうだね。私もそれがいいと思う」
ルナが賛成してくれた。
それが今後の私達の目標になった。
───
「え?クリス星聖女なのか!?」
ダムが本日何回目かわからない驚いた声を出した。
「うん、水龍にそう言われた」
「では……なぜ収集がかからないのか」
「あぁ、水龍は誰かに頼まれ事されて半年後に収集するっていってたよ?」
「……そうか、水龍なりの考えがあるなら私も何もしないでおこう。しかし…星聖女か」
星聖女の存在は星の危機を示していた。
種族との戦争の描写を書きました。
これは私の考えでもあります。
戦争とは……憎しみの連鎖は相手を知らないから。
種族だけを見るのではなく個人を知る必要があるはずです。