27話 憎しみの連鎖
「私は……私の為に《彼》を探しに行く。
私達は何も知らない。だから魔族の事を知らないといけない。
そして、星聖女として戦争を止める!」
私達の方向性は決まった。
色々あったせいで忘れかけていたが今は戦争中だ。
Sランクチームという事で先行していたがあれから数日と時間が経った。そろそろ本部隊が魔族と交戦するだろう。
戦争を止めるというのはとても難しい。
というよりできるとは思えない。
クリスの言った戦争を止めるというのは別の違う意味だった。
戦争となる原因を止める。
だがそれを成すには人族のクリスとルナだけではできるとは思えない。
それを踏まえても《彼》に逢いに行く。
ルナと話し合いそう決めた。
次の日、いつまでもダムの家に留まっているわけにも行かないので出発することにした。
「ダムさん、本当にありがとう」
「うん、とてもお世話になりました」
「ははっ、いいって事よ!久々に楽しかったぞ」
ダムにあって色々な変化があった。
それは私にとても必要な事だった。
「何かあったらすぐに戻ってこい!」
私達は魔族領奥地を目指して緩やかに飛び立った。
ダムは見えなくなるまで手を振ってくれた。
───
「いっちまったか……」
ダムはしみじみ呟いた。
「まさかクリスが星聖女とはな、忙しくなりそうだ」
家の中に入ると妙に静かに感じた。
数百万年と生きてきた。この家でここまで賑やかで内容の濃い2日間は今まで無かった。
あの2人には驚きっぱなしだった。
お茶を入れて一服する。
するとドアがノックされた。
「ん?忘れ物でもしたのか?」
そういってドアを開けた。
「どうしたんだ……って、お前さんは誰だ」
驚いた。こんな短期間に人族がこの家に来るなんて。
「──、───久しぶり」
「……俺はお前の事知らないぞ」
理の眼を使った。……が、弾かれた。
「なっ!?」
弾かれる事なんて初めてだった。
……だが、一瞬だけ、少しだけ視れた。
「お、お前はッ!」
───
ダムの家をでて、急ぐわけでもなく周囲が見渡せやすいように上空50メートル程を時速80キロ程で飛んでいる。
密林や森林が広がり、高野や荒地、砂漠化したような土地もちらほら見える。
環境が激しいのが伺えた。
途中で魔族数百名ほどいる集落を見つけた。
人族だから襲われる可能性がある。
それを考慮して2人は話し合った。
「ねぇルナ、どうする?」
「う〜ん、とりあえず彼がいないか探してみる?」
私達は敵対しない。ただ、集落にいる魔族達が敵対するかもしれない。
だが、《彼》以外の魔族と話したことが無い2人はアクションをとることにした。
魔物よけの柵が集落を囲んでいるのでその近くに降りた。
「すみません!誰かいませんかー?」
軽く風でその声を集落内に届かせた。
すると1人の若者が現れた。
「どうかしましたか……っ!?人族だー!!!」
クリスとルナに近づいた魔族の若者は集落へ向けて叫んだ。
その魔族はすぐ戦闘態勢をとり、クリスに狙いを定めて襲いかかってきた。
「クリスっ!」
「大丈夫!ルナ、何もしないで!」
魔族が繰り出す拳や蹴りを躱し続ける。その拳を軽く弾くと簡単に尻もちを着いた。
「君、私達は争うつもりは無いよ。だから敵対しないで?」
「くっ、来るなぁ!」
クリスが手を差し伸べると弾かれた。
すると、増援が来たのか直ぐに魔族に囲まれた。
「アベル!時間稼ぎ良くやった。
あとは任せろ」
そう言ってクリスとルナに魔族達は襲いかかった。
「待って!私達は戦うつもりは無い!」
「黙れ人族ッ!」
全く聞く耳を持ってくれない。
さすがに手数が多すぎて躱す事が難しくなってきた。
「ねぇ、クリス!このままじゃ……」
「うん、わかった」
このままでは会話すらできない。
クリスは場を整えることにした。
武器を弾き空中で回転をし、着地する。
ルナが跳躍する。そのタイミングで左脚を地面に叩きつけた。
「【グランド・ウェーブ】ッ!」
クリスを中心に地面が盛り上がり、地ならしが起きた。
地の波は波紋のように広がり、魔族達は立つことができずに一斉に崩れた。
体制を立て直すため、ルナを風で掴み後方へ飛んだ。
「まって!私達は争いに来たんじゃない!」
魔族達は鎮まった地に手をつき体を起こし、リーダー格の男がすごい剣幕で叫んだ。
「黙れ人族!俺の親父は……お前らに殺されたんだ!他のやつらだってそうだ!俺達はお前らを許さない」
その眼は憎しみに溢れていた。
クリスとルナは何もしてない。ただ人族という理由で一方的に襲われた。
だが、クリスは反撃することができなかった。
「人族なんて、お前らなんて死んでしまえ!!」
何かに耐えるように泣き叫ぶ魔族の子供の声が聞こえたのだ。
声がした方を見てみると、飛び出す子供を母親と思われる魔族が必死に止めていた。
母は涙を流し、子供を抱き抱えていた。
場にいる全ての魔族からその視線を受けた。
憎しみは悪ではない。それも感情のひとつ。
例えルナが誰かに殺されたりでもしたら私は復讐に走るだろう。
その感情を否定する事はできなかった。
何があんなに小さい子供まで憎しみを植え付けているのだろうか。
この場にいる、憎しみという感情に振り回されている者は悪くない。
……悪いのは先人だ。
この世界は間違っているんだ。
魔族達は人族としてクリスとルナをみている。関係ないとは言えなかった。
「ルナ、ここは一旦引こう」
「うん……そうだね」
とても話が出来る状態じゃなかった。
このままではまた戦闘になってしまう。
クリスが風を操り、飛び立とうとした時だった。
南西の方角から三筋の蒼白い玉がこの集落へ落ちて来た。
二筋は村の中へ、そして一筋はリーダー格と思わしき魔族の男へ降り注いだ。
「なに……これ」
「……綺麗」
クリスとルナは困惑ながらもその美しさに目を奪われた。
だが、魔族達の反応は驚愕であった。
「なっ!まさか今のは【ソウル・テル】なのか!?」
「しかも三霊とは……まさかっ!」
魔族達がざわめき、静まり返る。
凄まじい緊張感が辺りを支配した。
息を呑む音が聞こえる。
魔族達の視線はその蒼白い光を受けたリーダー格の魔族の男へと向けられていた。
(ん?【ソウル・テル】ってどこかで……まさかッ!!)
クリスがその意味を思い出した時だった。
その魔族の男は激昴した。
「クソがあぁぁぁぁッ!!お前らは!お前らはァ!!何度も何度も!人族があぁぁぁあ!!死ねぇぇぇぇぇぇッ!」
魔族の男は泣き叫びながら物凄い速さでルナの懐に入り、蹴り飛ばした。
「ルナッ!?」
木々を薙ぎ倒し、ルナは視界から消えていった。
「次はお前だァ!」
魔族の男はクリスへ襲いかかった。
透かさず魔力を練り、右手をかざした。
「【アンティサイクロン・スペース】!!」
「くっ!?」
周囲の風を巻き込み、身動きの取れない高気圧の場が生まれた。
その魔導は拳を振りかぶった魔族の男をその形で固定した。
「何をしたあぁぁぁ!人族がァ!!」
「……こうでもしないと話聞いてくれないでしょ」
「黙れぇぇぇ!!」
魔族の男は憎しみを込めた眼で泣き叫んだ。
だが今この場はクリスの空間だ。その声は周囲に届かなかった。
すると木々の合間からルナが出てきた。
クリスは目視せずにルナの存在を感じていた。
「……無事でよかった」
「まぁ、結界張ったからね」
クリスはルナが結界を張ったのに気がついていた。なので冷静でいれたのだ。
「……さっきのアレって、ソウル・テルだよね。
何を聞いたの?」
【ソウル・テル】とはSランクの人達と会議をした際に聞いた。確か成人した魔族が死ぬと、その情報を他の魔族へ伝えるものだと。
Sランクチームは隠密行動を取るように言われている。よって成人した魔族は殺さないようにと言われている。
ソウル・テルが一気に三霊も現れたという事は……本部隊と魔族がぶつかったという事だろう。
つまり戦争が本格的に始まったという事だ。
「お前ら人族が、戦争を仕掛けてきたようだな……俺の息子が殺された。お前らのせいで!!」
「……」
「クリス、行こう」
クリスが魔法を解くと男は膝を着いた。
周りにいた魔族が駆け寄ってくる。
今度こそクリスとルナは空へ飛び立った。
魔族の男は苦しそうに地を叩き、泣いていた。
あの男にとって、必要な者だったのだ。
人族だからとか魔族だからとか、関係ない。
大切な者を失ったのだ。
戦争とは……憎しみとは何かを奪う。
それは目に見える者でもあり、目に見えない物でもある。
何が正しいのか、何が悪いのか……ぶつかり合い、憎しみ合う。
空から泣き叫ぶ魔族達を見て、心が痛くなった。




