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非愛転生〜カタオモイ〜  作者: オサム
第3章 私に必要な者
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24話 世界の禁忌

 



 ダムの深紅に輝く瞳はどこまでも深く、心の底まで覗かれている気がした。


 その迫力にクリスとルナは思わず息を呑んだ。


「ダムさん、お願いします。私は……私を知りたい」


 クリスは頭を下げた。


 想像したよりも必死なクリスの態度に少し驚きながらダムはいった。


「頭を下げなくても見てやるさ」


 深紅の瞳が一層濃く煌めいた。


 何かが体をすり抜けていくように感じた。


 するとダムは目から血を流し、膝をついた。


「っ!?ダムさん!!」


「有り得ない……」


 ダムは驚愕しながら呟いた。

 ()()を知り初めて口にした言葉がそれだった。



 ダムの急変に驚いた2人だったが、クリスはその状況を冷静にみていた。

 何が『有り得ない』のか何となくわかっていたからだ。


 落ち着いたダムを起こしクリスは問いた。


「ダムさん。教えて欲しい」


 その言葉には様々な感情と意味を含んでいた。

 それを感じたルナは同じく真剣な表情でダムをみつめる。



「……あぁ、わかった。知り得た事を話そう」


 ダムは伝えるべきか悩んでいた。

 だが、クリスの為にも話すべきと判断した。



「俺はまず先にルナを視た。ルナ、お前は星に愛された者だ」


 話から予想できていたクリスにはそこまでの驚きは無く、すんなりと受け入れることができた。


 ルナは星に愛された者と言われても特に何も感じていなかった。



「ルナには強力な力が根付いていた。それは特殊な属性……そして魔法使いとしての才能が」


 それを星に愛された者と呼ぶには充分だった。



「クリスは?」


 ルナのその言葉にダムは一瞬言いづらそうにした。

 その仕草を不思議に思っていたルナだったが、ダムが続けた言葉を聞いて驚愕した。



「クリスは……世界の禁忌だ」



 それを聞いたクリスは一瞬鼓動が早まった気がした。




 ───


「ちょっと!それはどういうこと!?」


 ルナが声を荒らげた。

『世界の危機』と聞いて良い気がしなかったのだ。

 クリスは押し黙っていた。



「これは簡単に説明できるものじゃない。クリスの為にも俺の事から話そう」


 ダムのその表情はなんて言ったら良いかわからない、とても複雑なものだった。



「まず、俺はこの星の管理者だ」


 ダムが正体を明かした。

 クリスとルナはその意味がよくわからなかったが、星というスケールに驚いた。

 ダム苦笑いをして補足した。


「この星の始まりから終わりまでの時を星と共にする者だ」


 ルナは少し気になって恐る恐る聞いた。


「つまり、ダムさんはこの星の誕生から今まで生きているってこと?」


「そうだ。ざっと数百万年間だな」


 何事もないかのようにダムは言った。

 想像すら出来ないそれに2人は絶句した。



「星の管理者は俺含めて4人各地にいるんだ。その土地に見合った姿形でな」


「そ、そうなんだ」


 数百万年というのが頭から離れなかった。


「でな、俺達には様々な力がある。その1つが星の民の真理や能力、事象や寿命全てを理解できる眼。理の眼と呼ばれるさっき使ったやつだ」


 能力はまだしも寿命までわかってしまうとは思わなく驚いた。そして自身の寿命が気になった。


「寿命とか……教えてくれない?」


「駄目だ。そういう決まりだ」


「だよね」


 ルナは少し肩を落とした。

 すると神妙な表情を浮かべダムは言った。


「ルナの寿命はわかった。だが、クリス。お前の寿命は不安定過ぎる」


「それは……どういう?」


「俺の力でも完璧に見通せないって事だ」


「……」


 こんな事は数百万年と生きてきたダムにとっても初めての経験だった。



「俺はクリスの能力を視た。すると有り得ない事に複数の能力の存在を確認した。

 感じたままに言うとな……その複数の能力がクリスの中心にあるひとつの能力を纏っているように感じたんだ。

 意味がわからないだろ?」



 世界の決まりとして複数の能力を持つという事は有り得ない。そして……あんなに強大過ぎる能力を有してはならない。

 クリスには心当たりがありすぎた。



「クリスの魂の奥深くまで……いや、既に魂そのものが能力のようだ。

 イメージでいうと、その魂を大樹としてその枝先に複数の能力という葉が付いているような感じだ」


 こんな事はあってはならない事だった。



「そして俺でも見通せない……それは俺以上の能力って事だ」


 星の管理者と呼ばれる神に等しい者よりも力を有するなんて……まさに世界の理から外れた存在。


 世界の均衡と呼ばれるものだ。




 人が持つ能力は主に3種類ある。


 自身より高位の存在に与えられる能力。

 生まれ持ったの個人の魂の力。

 何かをきっかけに発祥する能力。


 人はそれを神の奇跡、才能、努力と呼んでいる。


 そして強大な力にはそれ相応のデメリットが課せられる。



 ルナの場合、特殊属性の扱いがとても優れている。

 そして基本属性と呼ばれる火 水 風 地への属性変換が何かに蓋をされたかのように全く使えなかったのだ。


 ダムはそれを能力の代償と言った。


「能力の代償と言ってもな、ルナのように強力な能力だとしても自身へのデメリットはそこまで無いものなんだ。だが、クリスは違った」


 クリスは俯いた。



「クリス、お前の能力は強力過ぎる。

 それは世界の理を歪める程にだ。

 そして世界は均衡へ帰る……それは釣り合いをとるということだ。その強過ぎる能力に相応するデメリット……決して解くことのできない、悠久の呪い。

 その魂に憑依した……魂と一体化したそれは……世界の呪いだ」


 ダムはこの世界で最も最悪とされる呪いが憑いてるといった。

 そしてそれはどのような呪いかまで分からないといった。



 話を終えたダムはゆっくり目を閉じた。


 ルナは悲壮な表情を浮かべクリスを見た。

 クリスは震えながら俯いていた。



 なんでそんな能力を手にしてしまったのか。


 なんで私なのか。


 もうどんな顔をしたらいいかわからなかった。





 ───


 あれから1晩経った。

 ダムは自給自足をしているそうで、今朝捕まえたという魚と野菜の入った鍋を頂いた。

 そしてダムの勧めで客間らしき部屋に泊まらせてもらった。


 ルナは悔しかった。

 クリスの助けになりたかった。

 結局、上手く話す事も何もできることはなかった。



 クリスの顔は晴れなかった。



「少し1人にさせて……夜には戻る」


 そして今朝、クリスはそう言い残し出ていった。



「ダムさん……私にできることってありますか?」


 人に答えを聞こうとしないはずのルナは、初めてそのような答えを求めた。



「……今のクリスにとってな、ルナの存在は何よりも必要だと思う。だから、あいつがお前を必要にした時に助けてやればいい。

 俺も配慮が足りなかったと思うが……あの事をクリス本人が知らないのは酷過ぎだ。

 これからクリスがどう生きて行くのか……本人が1番辛い。今はそっとしておいてやれ」


 ルナはダムの言う事がとても正しく感じた。

 数百万年生きたという者の言葉というものだ。

 心に響いた。


 そして、ルナはルナのできることを見つける事にした。




 ───


 この星、アスティルカにはダンジョンと呼ばれる魔力溜まりがある。

 濃密な魔力が集中した森林に、地脈に、海底に、洞窟にそれは生成される。


 魔族領にある山の中の隠れた洞窟のダンジョンに、1人の赤茶色のショートカットの髪をした人族の少女が暴れていた。


 留まることなく破壊音が洞窟内に反響する。

 ダンジョンの壁に亀裂が走り、崩れる。その連鎖が続いていた。



「鬱陶しい……」


 当の本人は作業のように腕を振るっていた。




 ダムから私の能力を聞いた。

 呪い……そのような気はしていた。


 悠久の呪い。世界の呪い。


 確かに私は転生という強力な力を持ってる……

 だから呪いをかけられた?私は何もしていないのに?

 そのせいで《彼》は死ぬの?《私》は死ぬの?《彼》に思いを伝えられないの?


 私が力を持ったから?


 なんで私が力を持ったの?


 こんな事なら……こんな力なんて持ちたくなかった。



 ダムの家を出たクリスは軽く空を飛び、手頃な山を見つけ麓に降下した。

 気のままに進むと木々が多くなり、その合間を通り(つた)の集合体を抜け洞窟を見つけた。


 何故かその洞窟から湧いた濃密な魔力がクリスにとても馴染んだ。


 誘われるかのように洞窟に入りしばらく進むと魔物が湧いていた。



 ダチョウのような魔物が襲ってきたので風で消し飛ばした。

 すると続けて猿のような魔物や狼に似た魔物なども襲ってきた。


 本当に鬱陶しくなってきたクリスは辺り空間を壁ごと風で崩壊させた。


 本来ダンジョンの壁は魔力が通っており簡単に壊せない。

 だがクリスの風は容易く壁を破壊していった。



「……迷った」


 壁を壊し特に何も考えず歩き進んだクリスは方向感覚などの位置情報を、そして時間の感覚を失った。


 相変わらず襲ってくる魔物を蹴散らす作業をしている。


 夜には帰ると言っているのでなるべく早くこの洞窟……空洞を抜け出さなければならない。


 そして魔物の湧きとこの魔力の不思議な環境にクリスはようやくダンジョンの可能性を思い至った。



(そういえばダンジョンって最下層にボスがいるんだっけ……)


 魔力溜まりの魔物の中でより強力な魔物が湧く事がある。それはボスと呼ばれており、そのボスが居る限りダンジョンは拡張していくのだそうだ。


 少し気になったクリスは最下層を覗いて見る事にした。


「【グランド・フィシャル(地割れ)】」


 静かに吐かれたその魔法はその床に亀裂を作り割いた。

 そしてクリスは軽い上昇気流を生み出し降下した。



 幾階層を抜け降る。


 周囲が一気に晴れて、最下層と思わしき大きな空洞に出た。

 そこは膨大な地底湖が広がっていた。

 その水中や壁から青い水晶が所々から突き出ており、幻想的に輝き辺りを照らしていた。


「綺麗……」


 クリスはその絶景に思わず息を呑んだ。

 それ程までに膨大で静けさが広がる地底湖だった。


 真下から水飛沫があがり何かが水面から飛び出してきた。

 クリスは巧みに風を操りそれを躱し、水飛沫が晴れるのを待った。



『ギュアアアアアアアアッ!!』


 突如、この空間を揺るがすような大きな咆哮が木霊した。


 それを起こしたものは蛇のようにとても長く、深く青い。綺麗に並んだ鱗をつけた胴体が水中で曲がりくねり、水面上から窺える。

 水の1滴が水面に落ちる音でさえ響くこの地底湖の空間に、逞しい声を上げて現れたのは水龍だった。




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