表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

冒険者はいい人ばかりです


 このところ雨は降らない絶好の収穫日和となっていて、アルプの西の倉庫街は税以外で持ち込まれた作物の搬入や搬出でてんやわんやしている。商人の良く集まる街の北側では商人が怒声を上げ、冬に備えようと街の南では村から買出しに来た人々や一旦帰って来た冒険者でごった返し、そこへ南の要塞群へと物資を運ぶ馬車が居合わせて混乱が広がる。

 そんなアルプで、私は倉庫の整理の依頼を淡々とこなしていた。

 というのも、あの証言をした後、街の外に出ると衛兵隊が対処出来ないから街の中にいてくれ、と頼まれたからだ。弓の腕が鈍るのは困るので、時々マリーやタッカーについて来てもらって東の森で兎狩りはしているが、たいていは倉庫整理をしている。

 風の噂によると、一ヶ月ほど前、アルプの南東のある開拓村で不正が発覚し、そこで回収された書類から大規模な人身売買組織の存在が明らかにされ、調査が進められるとそれにこの国の貴族や商人ギルドに加盟している豪商の関与が発覚。連合国や商人ギルドの上層部や暗部は大掃除が行われ、だいぶ風通しが良くなったらしい。商人の怒号が凄いのも、その空いた席や利権の奪い合いで有利に立つためだとか。

 という訳で、私の故郷の村は解村、悪事に加担していた連中は奴隷落ちとなり私の安全は確保された。ということで衛兵隊から自由にする許可が出た。でも、問題がひとつ。

「どうしよう……」

 先輩情報によると、ここから先の時期はアルプではゴブリンすらいなくなるのでどう頑張っても稼げない。なので、ここいらの冒険者は南の要塞群の稼ぎ場でオーク相手にするか一旦西の街ガンヌのさらに先クロスに行ってから南下してレオンかさらに南のゴートに行き、『ゴブリンの森』 と言われる所で狩りをするそうだ。でも、どちらの狩りも中堅なら最低四人は必要と言われていて、私一人では稼げるほど狩れないだろう。農作業がある所もレオン以南なので、農作業の手伝いとかは期待出来ないし、どのみち移動しないとまずい。

「どうしよう……」

 悩みながらも、兎は狩る。あ、抜いたら鏃が潰れてしまっている。高いのに。

 気がそぞろで集中出来ないので、五匹狩ったところで街に帰り、城壁近くで使った矢の整備。

「まだ昼前だぞ? 今日は早いなあ」

 城門でタッカーにそんなことを言われたので、苦笑して返し買取所で兎を売却。一階のカウンターで暇そうにしていたカミラにそのことを相談する。

「じゃあ、先輩と組んでもらったら?」

 すると、そんなことを言われた。

「組む? 良いの?」

「というか、普通は冒険者成り立てだと剣も矢も出来ないから、先輩方の荷物持ちとして働きながら資金と戦い方を身に付けるものよ?」

 私の疑問は半ば呆れたような答えで返された。

「シーナちゃんは弓の腕や森での歩き方は良いけれど、他は知らないでしょ?」

「……はい」

 悔しいが、その通りだ。

「だったら、丁度良い機会だから先輩達に付きっ切りで教えてもらいなさい」

「分かりました」

 そう言ってとりあえずお弁当のサンドイッチを食べようとギルド酒場へ。食べながら考えるも、私のような幼児を雇ってくれる殊勝な先輩は思いつかない。単に信用出来ていないだけかもしれないけれど、私は夜警も出来ないし、弓以外使えないし、お荷物だ。そんな私が先輩達と一緒に行動して良いのだろうか?

 うじうじ考えながら、鏃の予備を二十個買いに行くも、すぐに終わってしまい、やることが無くなる。たまたま古本屋を見つけるも、特にこれといった面白い本は無く、適当にモンスター図鑑を買ってギルド酒場の端で許可を取って図鑑をめくる。図鑑と言っても戦い方とかは載っていなくて、外見とか何を食べるかとかばかりだ。十ギルだからと買うんじゃ無かった。

 そんなのでもめくっていると時間は過ぎる。夕方になり、先輩達がカウンターに報告に並び、報告を終えると酒場の方へとやってくるので、会釈し合い、先輩達は席へと着いていく。そんな中、しばらく見なかった顔が近付いてきた。

「おお、シーナちゃん久しぶり」

「お久しぶりです、マサさん、フェルムさん、ギガさん、ハラハラさん」

 近付いてきたのは、ここアルプと稼ぎ場を庭と豪語するマサのチームだ。

「どうしたんじゃ? 困った顔して?」

 ドワーフのフェルムに聞かれる。

「そんな分かりやすい顔してました?」

「というか、シーナちゃんの表情は凄く分かりやすいぜ」

「ギガよ、デリカシー、ってモンを考えろよ。こんなでも女の子だぜ?」

「ハラハラさんこそデリカシー考えてくださいよ」

 そう突っ込むと四人は笑った。

「で、何なんだ? おっちゃんに言ってみ?」

 マサにそう言われて、少し悩んだ後、結局言った。

「実は、狩場を他の街に変えようか悩んでいまして」

「おお! そうか! それで?」

 マサはオーバーリアクション気味だなあ、と思いながら続ける。

「それで、他の街の狩場ってチーム推奨じゃないですか」

「じゃな」

「で、荷物持ちでも何でもするから、連れて行ってくれる先輩いないかなあ、って思って」

「オオオオ!!」

「やっとか!」

「聞いたな!?」

「聞いたぞ!」

 四人は、私の言葉に勢い良く立ち上がって盛り上がる。

「何だ何だ?」

「どうしたの一体?」

 それにつられて先輩達が寄ってくる。するとマサが椅子の上に立って大声で彼らに伝えた。

「シーナちゃんがやっと 『先導』 希望したぞ!」

 一瞬広がる沈黙。そして。

「オオオオオオオオオオオオ!!」

「Foooooooooooo!!」

「やっとか!」

「待ってたわ!」

「キタキタキタキタ!!」

「俺に任せろ!」

 なんかもの凄い騒ぎになった。耳が痛い。

「え? え?」

 困惑していると、近くの先輩達が次々に話し出す。

「みんな待ってたのよ?」

「先導って大変だけど楽しいからな!」

「特にシーナちゃんは可愛いし」

「腕も良いし」

「真面目な良い子だから教え甲斐あるしな!」

「みんな……」

 先輩達はみんな良い人だって知っているのに、何で疑ってたんだろう? そんな自分が情けなくって、阿呆らしくって、涙が出てきた。

「みんな……、ありがとう!」

 笑顔で言うと、先輩達もさらに笑顔になった。

 そこから、盛り上がりながらも先輩達は真面目に考え出す。酒場はいつも以上の混み具合でいつの間にか大通り側の壁が取り払われていた。こんな機能あったんだ。

「今からの時期だと最低半年はかかるな」

「近くの狩場だと、何人か新人抱えるのは怖いわね」

「シーナちゃん女の子だから野郎だけのチームは止めた方が良いな」

「シーナちゃんのサブウェポンは? ナイフか。ならナイフか短剣使いが欲しいな」

「人数は少なくても良いから強い所が勉強になるだろう」

「この業界だと大剣使いとか槍使いが多いからその二つがいる所が良いんじゃない?」

「弓の腕だとシーナちゃんの方が上手いからなあ」

「クロスボウだとシーナちゃんと被るし変な癖がついたら困るからやめた方が良いな」

 エール片手に木版に書き出された条件を全て満たしたのは、三つのチーム。

 一つ目は、良くお世話になっているドーラのチーム 『黒き虎』。ここは人数が三人と少ないのがネック。

 二つ目は、風魔法使いのコリンがリーダーをしているチーム 『あいの風』。ここは人数は六人と程よいけれど、装備を買い換えたばかりなので 『稼ぎ場』 でオーク狩りをする予定とのこと。

 三つ目は、弓使いのエドガーがリーダーをしているチーム 『赤竜の雛』。ただし、ここは人数が二十人と多くあまり参考にならないかもしれない。

 ということで、出揃ったので私がそこから選ぶのか、と思っていたら、ドーラ、コリン、エドガーが飲み比べを始めた。

「え? え?」

 混乱していると、マサが教えてくれた。

「こういうのはな、先輩達が考え出すより先に自分の希望を言っていないと、先輩達で決めてしまうんだ」

「ワシもそうじゃったのう」

 フェルムが何か遠い目をしている。

「で、冒険者で争いとなると、腕相撲か火酒の飲み比べって決まっているんだ」

「え!? あれ火酒なの!?」

 火がつくほどの度数の酒を水か何かみたいにカパカパ飲んでいるとか、馬鹿なのか?

「今回は、腕相撲じゃとドーラが有利すぎるから飲み比べじゃな」

 一応そういうの考えているんだ。関心していると、嫌な想像が頭をよぎった。

「あのー。これ、誰が勝っても私が介抱するんじゃ……」

 すると、周囲の先輩達は一斉に目を反らした。

「目を反らさないでくださいよう……」

 訴えても無駄だった。

 先輩達が私の前に積み上げた串焼きをつまみながら、勝負を見守る間にも火酒は減る。三人合わせて一本一タロの瓶が四本空いた所でエドガーがリタイア。そこからが長くて、一部の先輩にいたっては賭けを始めたくらいだ。

 テーブルの上では足りず、床にも瓶が転がりだした頃、ようやくコリンがテーブルに突っ伏した。

「これでシーナは私のものだ!」

 ドーラは勢い良く立ち上がり、そして後ろに倒れたのを今日も黒いエッタが支える。エッタはドーラをおぶると私の方にやってきて、言った。

「……よろ」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 そう頭を下げると、先輩達から拍手が沸き起こった。見回すと、先輩達は、悔しげな、誇らしげな顔をしていた。こんな顔をしてくれるのが、なんだか嬉しかった。

「シーナちゃんの 『先導』 が決まったことを記念して、乾杯!」

「「乾杯!」」

 先輩達と同時にミルクの入ったコップを掲げ、同時に飲む。この一体感が、なんだか楽しかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ