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冒険者の前はかなり大変でした


 ゴブリンの討伐隊が帰ってくると共に、東の森の立ち入り禁止は解除となった。それまで、私はギルド二階に張り出されていた武器屋 『アルゴン』 の倉庫整理の手伝いの依頼をやっていた。宿代プラス食費位にはなる上に、武器の簡単な手入れの仕方も教えてもらえ、五日目の最終日には良く働いてくれたからと新しいナイフをくれた。村から持ってきていた物はいい加減ボロボロだったので助かった。お礼を言おうとすると不良在庫だから気にするなと言われた。アルプにいる限り武器はここで買おう。

 そして討伐隊が帰って来た晩。誰も欠けることなく大怪我することが無かった記念ということで大宴会に。ついでに私が二階に上がれるようになったことのお祝いも兼ねて、と言われてこそばゆかったけれど、とても楽しかった。まあ、いつもの宿の雑魚寝部屋は通称通りの泥酔部屋と化し、起きたら大惨事だったけれど。

 そんなこんなで久々の東の森へ。討伐が上手く行ったお陰かゴブリンは見かけず、逃げたのか兎も見かけたい。痩せた狼一匹と兎三匹だけなんとか狩って街に帰った。

 なんとかしないと、ということで次の日。ギルド二階の掲示板に面白い依頼があったので受ける。

「んじゃ、頼むぞー」

 周囲には結構な人数の半袖に斧を持った男達と森の中には衛兵の姿。私はというと森の中ゴミ拾いのとき一緒だったマリーの隣で警戒しながら立っている。

「まかせろー」

 あの声は衛兵長のサブかな? その声が響くとあちこちからコーンコーンと木に斧を入れる音が響く。開拓の始まりだ。

 人類、というのは千年程前までは種族ごとに別れて争っていたけれど、あまりにその争いが酷かったせいで文明が衰退。千年前は五つの大陸を制覇していたのに、今ではこの中央大陸の西側にしか生存圏が残されていない。二百年ほど前からは衰退は発展に変わったけれど、まだまだで、こうしてゆっくりと開拓が進められている、というのが現状。アルプには北西にモンスターの住み着かないよう管理された森があるので、この東側の森はどんどん切って行って良いらしい。ここまでマリー情報。

「あれ? でも、種族に分かれて戦争していたのに、今はみんな一緒だけど?」

「それはね、そうしないと滅ぶところまで行ったのと、争いの原因だった宗教が無くなったからだって。今じゃ、みんな混血で種族なんて気にしていられないしね」

「ふーん」

 千年前までの戦いは最終戦争と言われ、その原因となった宗教というものは嫌悪されているとも。どんなものかは分からないけれど、きっと悪いものなのだろう。

「でも、凄いですね」

 正直なところ、そんな話よりも振り向いた先の光景の方が面白い。次々に木々が切り倒され、運ばれ、根が引き抜かれていく。結構システマチックな光景で見ていて楽しいし、村では木を切るのは薪用くらいだったのでこんなに一気に切るのは見ていて心地良い。

「あれ? シーナって開拓村出身じゃないの?」

 マリーの困惑も良く分かる。開拓村なら木を切るのは日常茶飯事な筈だからだ。

「そうですけど、村じゃあんまり木を切らなかったので」

 でも、私の村は違った。農地は足りていないのに開拓なんてしない。そのせいで食糧確保のためにどれだけ私が狩りさせられる破目になったか。

「開拓村なのに?」

「はい」

 そう答えると、マリーは何かぶつぶつ自分の世界に入ってしまったので、視線を森の方に戻して警戒を強める。

 何事もなく、夕方開拓に参加した人みんなで街に帰る。

「では、明日もよろしく!」

 サブの号令にギルドに向かおうとすると、マリーに呼び止められる。

「ちょっと待って」

「はい?」

「昼間した村の話を聞いて欲しい人がいるの」

「はあ」

 そのまま衛兵の詰め所に連れて行かれ、衛兵達に見守られながら二階の手前の部屋へ。

「じゃ、ちょっと待っててね」

 そう言ってマリーは部屋を出て行った。案内された部屋は机を挟んで革張りの椅子が入り口側と反対側に向かい合って置いてあり、天井には宿屋のよりもしゃれた感じの明かりの魔導具がつるされている。座って良いのか分からないので机の横で待っていると、ドアが開きマリーとサブが入ってきた。

「座ってて良かったのに」

 マリーがそう言ったので壁側に座ると、自然とサブはドア側に座りマリーは私の隣に座った。あれ? もしかしなくても自分から逃げられない方に座ってしまった? まあ、悪いことはしていないので大丈夫だろう。多分。

 自問自答しているとマリーにこう促された。

「シーナちゃん、故郷のハーク村のお話してくれる?」

「分かりました」

 私は素直に話す。とは言っても普通の村の話、おかしなところは無い筈なのに話すほどサブの顔が険しくなっていく。

 話自体はこんな感じ。

「早朝から村の半分くらいの人で畑仕事をして、残りの人は村の中の仕事をしていました」

「半分なのか?」

「はい、それで足りるくらいしか畑が無いので」

「……確か、毎年飢えそうになって村人が売られてたんだよな?」

「はい。いつも食べ物が足りなくて私はいつも狩りをさせられていました」

「何人でだ?」

「? 父親が死んでからは一人で、ですけど」

「……済まないことを聞いたが、その年でか?」

「五歳になる少し前からだったと思います」

 しまいにはサブは顔を真っ赤にしてしまって話して良いのか分からなくなった。

「こらっ! シーナちゃんが怯えてるでしょ!?」

 そんなサブにマリーが注意すると、サブはばつが悪そうな顔になって謝ってきた。

「シーナちゃん、済まない」

「別に良いですけど、私、何か悪いこと言いました?」

 怒らせてしまうようなことを言ってしまったのか気になった、いや、怖かったのでそう尋ねた。

「……そうだな。もう十分だから話すか」

 サブはそう言ってマリーと頷きあった。

「シーナちゃんの故郷の村、ハーク村は重大な犯罪を行っている疑いがある」

 思いもしなかった言葉に、私は呆然としてしまった。それでもサブの話は続く。

「ハーク村は開拓村として登録されているから、かかる税は安いのだが、それが滞納気味であるということ。次に、開拓村ならば開拓を行う義務があるのに、モンスターが多い、という虚偽の報告を行って開拓を怠った疑いがあること。他に、違法な人身売買に関与した疑いがあること。……ここまでは我々の調べで分かっていたことだ」

 色々アウトな村だったんかい。私はそんな村に生まれて色々なことに気付かずにいたことに頭を抱えた。

「だが、行商人のアランと君、シーナちゃんの証言でそれらの裏付けと新たな疑いが出てきた」

「ちょっと待ってください。私証言なんてしていないですよ?」

 証言、というのは書類に書きながらやるものだと思っていた。

「ああ、それはな……」

 サブが言いよどむと、マリーが引き継いだ。

「シーナちゃんごめんなさい。さっきの話、録音していたの」

 マリーが机をコツンと叩くと、机の真ん中に透明な水晶柱が現れた。唖然としていると、サブが復活して説明する。

「連合国の法律では、詰め所や裁判所で行われた話や取調べは録音する義務があってな。もし、話に嘘が混じっていたら、この水晶柱は赤くなるが、嘘が無ければ透明なままだ。で、透明な水晶柱は例え騙したり唆したりして話させたとしても正式な証拠として扱われる、と法律で決まっているんだ」

「シーナちゃんごめんなさい。こんな話をしていたらシーナちゃんが脅されていたりして嘘をつくかもしれないから、こんなことをしたの。でも、シーナちゃんのお陰で悪人を捕まえれるわ」

 私は、色々な良く分からない感情が混ざって何と言うべきか言葉が見つからなかった。でも、段々と暗い感情が強くなってきて、変な覚悟が決まった。

「……まだ、録音は続いていますか?」

「え、いいえ。水晶柱自体の録音の限界が来てるからもうしてないわ」

「なら次を持ってきてください」

「え?」

 マリーは困惑し、サブは額に手をやってため息をついた。

「村長は八歳児に欲情する変態で、村の中の仕事をする、と言っていた人たちは実際は何もせず昼間から酒を飲んでは私や畑で働く人たちに石を投げたり殴ってきたりするような屑共です。あんな奴らが正当な手段で破滅するなら、私は喜んで協力します。何なら、奴隷商の名前や馬車の紋章も書きます」

 言い切ると、サブは額から手をどけて心配するように言った。

「シーナちゃん。そんなことをすれば故郷が無くなるかもしれないし、この件に関わっている裏の組織に目を付けられるかもしれない。それでも、良いのか?」

「はい」

 即答すると、サブは大きく息を吐いた。

「分かった。では、証言を続けよう」

「隊長!?」

 マリーが悲鳴のような声を上げた。

「マリー! 私達の仕事は何だ!?」

 するとすぐにサブは怒声を出した。

「悪人から領民を守ることです!」

「分かっているじゃあないか」

 にやりと笑うサブにマリーははっとした表情を浮かべる。

「悪人共は根こそぎ捕らえる。良いな?」

「はい!」

 マリーは、何か覚悟を決めたようだった。

「では、シーナちゃん、証言を続けよう」

 私は、証言を続けた。



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