冒険者って楽しいです
「あんがとなー」
手を振る農家さんに振り返して、アルプへ向かう。雑草抜きの仕事はして正解だった。数えた薬草のアカヒル草だけでも二百本は取れたし、半ツル単位で買取りのヨモギも山ほど、高価買取りのトリカブトまで取れ、確実に宿代は稼げた上に、「採れすぎて捨てるしかないから」 とキュウリを何本も貰えた。お酢を買って漬けないと。それに、トマト。試しに植えたところでまだ市場には出せないというそれを一個食べさせてもらえた。凄い甘みがしておいしかった。これは売れる! と断言すると農家のおっちゃんは嬉しそうに笑っていたな。
街に帰ってギルドに完了の書類を持って行った後買取所へ。狩りだけだと依頼がでていることはほとんど無いので買取所直行だから何気に珍しいかも。トリカブトが一株五ギルと毒草にしては高かったので、二日分の宿代プラス食事代位にはなった。
日も暮れてきたのでそのままギルド酒場で夕食。いつもはうるさい酒場も、みんなゴブリン掃討に行ってしまったので静かで物寂しかった。雑魚寝部屋がお酒臭くないのは嬉しかったが。
次の日、ギルドに連絡してから、木片を渡されて衛兵の詰め所へ。
「お? シーナじゃないか」
そこで待機していた、衛兵隊市街巡回組三班班長のタッカーに木片を渡すと、タッカーはそうかそうかと何度も頷いてから奥に声をかける。
「おーい、マリー、ゴミ拾いの相棒が来たぞー」
「はいはーい」
奥から出てきたのは、衛兵の鎧を着た、茶色がかった金髪に緑の目の女性だ、胸部の鎧は特注なのだろうか、結構飛び出ている。
「あなたが噂のシーナちゃんね。私はマリー。よろしくね」
「シーナです。よろしくお願いします」
そう頭を下げると、黄色い悲鳴を上げながら抱きつかれた。
「あー、マリーは可愛いものに目がなくてな……すまん」
タッカーに謝られたけれど、遅いです。
でもまあ、他には困ったこともなく、無事ゴミ拾いは出来た。もともと住人のマナーが良いので、ゴミ自体ほとんど無くて歩き回るだけになったが。道中マリーがおいしいお菓子のお店や流行の服屋などを教えてくれたのは勉強になったし、嬉しかった。
「またねー」
書類を受け取り、ギルドへ。カードと書類を渡して報告すると、たまたま担当になったカミラから嬉しいお知らせが届いた。
「シーナさんはこの二ヶ月間大量の素材を持ち込みましたし、依頼の成果も上々ですので、二階で依頼を受ける権利を認められました。……簡単に言うと、二階の依頼を受けられるようになりました」
「やった!」
二階の依頼は色々おいしいと先輩達から聞いているので、楽しみだ。微笑ましげに見ているカミラから報告は一階のカウンターでも出来るということと他に細々した注意を聞き、時間的にはこれ以上受けられないけれど二階へ。階段の一番下のギルド職員のおじいさんに角の丸くなったカードを見せ、上がる。
「ふわあ」
そこには、大量の依頼の紙が張られた掲示板が。しかも、お店のお手伝いなど依頼料以外の報酬も期待出来る依頼が沢山。希望に胸を膨らませながらギルド酒場で夕食。
勢い良く食べ始めた夕食は、すぐに味気なくなった。
「はあ……」
二階に上がれるようになったことを、みんなに知って欲しい。みんなのお陰でここまで来られたとお礼を言いたい。だけれど、みんなは東の森か南の稼ぎ場にいる。何だか、寂しい。村にいた頃は一人ぼっちでも平気だったのに。
「はあ……」
固いパンをスープに浸してひと口。やっぱり、味気ない。
「なーに辛気臭い顔してるの?」
ため息を吐きながら食べていると、急に後ろから言われてびくっとした。
「……ドーラ?」
そこにいたのは、虎頭のお姉さんことドーラとスキンヘッドのゴンに、黒髪の黒のマントにこれまた黒い体に張りつくような服を着た胸の薄くて背の少し低い女性。
「そうよ。で、どうしたの」
「えっと、あのね」
上手く言えないけれど、頑張って言う。
「二階に上がれるようになったの」
「おお! それはおめでとう」
三人とも祝福してくれて嬉しい。だけれど、嬉しさはすぐに引っ込んだ。
「で、みんなにありがとう、って言いたいんだけど、誰もいなくて……」
自然とうつむいてしまう。
「そっか。シーナは良い子だね」
下がった頭をドーラがいつかみたいにワシャワシャと撫でる。それだけで、心が温かくなった。
「そんなの、次会った時言えば良いよ。この稼業だとどうしても会えなくなったり行き違いになることが多いから、会った時、どうしてたか教え合って、それで飯を一緒に食べれば良い」
「そうだぞ。ということで、一緒に食おう」
ゴンが笑いながら言って前の席に座り、ウェイターに色々注文する。
「そういや、こないだいなかったからな。こいつが俺達チーム 『黒き虎』 の三人目、斥候で短剣使いのエッタだ」
紹介されたエッタは頷きながらゴンの隣に座る。チーム、というと一緒に活動する冒険者のグループのことだったか。
「よろしく、エッタ」
「……よろ」
エッタのあまりの口数の少なさに困惑していると、ゴンが笑って解説を入れた。
「ガハハ、エッタはシャイだからな。ほら、シーナが困ってるぞ? 何か言えよ」
「……無理」
こんな人本当にいるんだ。おかしくなってくすりと笑うと、ドーラに言われた。
「やっと良い顔になったね」
言われた通り、寂しさはどこかにいってしまっていた。
「んじゃ、飲むか」
ウェイターが持ってきたばかりのジョッキを、ゴンが掲げた。




