冒険者も大変です
夏真っ盛り。少し前に雨期で良く雨が降ったので、草が生い茂り、それを食べる兎が増え、さらにそれを食べる狼やゴブリンが増える。普通の人たちからすれば、この時期は危険な時期だ。
だけど、冒険者は違う。そんな動物やモンスターを相手にするのだから、アルプやその周辺の冒険者からすれば、この時期は稼ぎ時だ。
「ふう」
もう何十匹目か分からないゴブリンの死体から矢を抜き、角と心臓近くの魔石を取り出す。まだ使っていない矢が心もとないから、今日は終わりにするか。
「ということは」
矢は五十本は持ってきて、一撃必殺でやってるから、ゴブリン四十匹はやってるな。
足音を立てないよう、でも素早く街に向かいながら考える。弓は自作のものから市販のものに変えられた。矢は鏃が未だ自作の石のもので、弓の威力が上がって射程が延びたのは良いけれど鏃は使い捨てになっているから、いい加減鉄の鏃を買うべきか。今日シャフトが三本駄目になったから、それも買い足さないと。
「でもなあ」
弓は金がかかる。この短弓でも五万ギル、矢羽もシャフトもまだ使いまわせるし、買うと高い矢羽も森の入り口に止まる鳶を狩れば自給出来るから大丈夫として、鉄の鏃が十個で百ギル。それが最低五十個はいるけれど、いくら鉄製の鏃でも三回も使えば駄目になる。シャフトは五十本で百ギル。これはだいたい五回はいけるから、矢一発打つごとにだいたい四ギルかかる計算になる。兎一匹が二十ギルで、ゴブリン一匹魔石と角合わせて三十ギル。ギルドおすすめの宿一泊雑魚寝 (通称泥酔部屋) で五十ギルで一食五ギルを三食は食べるから、兎なら日に五匹、ゴブリンなら三匹は狩らないと生活できない計算になる。今はなんとかなっていているし貯金も出来ているけれど、冬になる前に南下して狩場を変えないといけないだろうし、その間はまともに狩りなど出来ないだろうから心配だ。それに、服。いい加減新しいのが欲しいけれど、中古で千ギルはする。鎧も欲しいけれど、子供用は特注になって高いから厚手の服で我慢。靴は先輩のお勧めで皮の良いものを買ったばかりなので大丈夫だ。
「今日も大猟ですね」
買取所の職員といつものやりとりをして、冒険者相手の武器を扱う商店街を歩き、行きつけとなった武器屋 『アルゴン』 に入る。
「おう、シーナちゃん。今日は何だ?」
シャフトを一セットと、悩んだ末鉄の鏃を百購入。あと切り札的に使える鉄の鏃の二倍はする鎧通しという鏃を二十と合図用の鏑矢十本。今日の稼ぎで足りなかった。
その後東の城門を出てすぐの所で矢を組み立てる。とは言ってもほとんどは鏃の交換だけだから一本当たりはすぐに済むけれど、五十本もなると時間がかかるし、新しいのは三十本。矢羽が心もとなくなってきた。そうしている間に冒険者が三人帰って来た。確か、ロラン、デッシー、ギラだったか? 仲間が怪我をしたので一週間は留まると昨日言っていたな。彼らと手を振り合い、作業に戻る。
鉄の鏃の矢五十本と新作三十本、なんとか出来たけれど、膠代わりに使っているグラススライムの核の中身が心もとないのでそこら辺をうろちょろ歩き、二十個程回収。これでしばらくもつな。遠くに狼がいるのが分かるけれど、近付いて来ないのは、城壁が近いからだろう。
今日やることはだいたい終わったけれど、夕方まで時間があるので再び森に入り狩り。鳶一匹と兎十匹、ゴブリン二十三匹を仕留めたところで良い時間になったので街に帰り買取所で売却。少しゴブリンが多いのが気になったのでいつもならこのまま酒場にいくのだけど、掲示板を見てからにする。朝と比べて新しい依頼はほとんど無い。あ、この明後日のゴミ拾い依頼報酬安いけれど衛兵の人たちと合同だ。まだ顔つなぎ出来てない人も多いから受けよう。そう思ってカウンターに行き、参加する旨伝える。張り出したばかりだったようで職員の青白い顔をしたカミラ (吸血鬼族だそうだ) は少し驚きながらも受領してくれた。その作業中、新しい張り紙が張られて、張ったこのギルドの副マスターのボンが良く通るテノールで言った。
「緊急通達だ! 絶対見ておくように!」
何か小太りの人の方が良い声していることが多い気がするけれど、気のせいかな? ともかく、張り紙を確認。
「うそん……」
張り紙には、最悪なことに、私の生命線の東の森が一週間立ち入り禁止になると書かれていた。カミラに尋ねると、二階に上がれるようになった人には合同の東の森のゴブリン掃討任務が出されているそうだ。
「どうしよう……」
「この時期なら、西の畑で雑草抜きの手伝いが募集されていた筈よ?」
その依頼は昼食が出るものの報酬は十ギルと安い。一日拘束されるのに宿代にもならない。だから避けていたんだけれど。そう伝えると、「先輩に聞いてみたら?」 と言われた。これも何かあるのか。
と言うことで夜。酒場でこの街アルプ周辺から稼ぎ場までは庭という中堅冒険者のマサにお酒の酌をしながら尋ねると、笑いながら答えてくれた。
「おお、その依頼ならな、雑草の中に混じっている薬草や毒草は持って帰って良いんだ」
「でも、薬草とか毒草って十本で二ギルでしょ?」
単価が安く、森に行ってもあまり見かけないこともあり、今までまともに採取したことは無かった。
「ああ、シーナちゃんは東の森で狩りをしているなら知らないか。森だと薬草は兎が、毒草はゴブリンが根こそぎ食べてしまうからあまり無いが、畑の周りだとそんなことが無いから山ほど茂ってるぜ。だからそうだな……、毒草抜きの薬草だけでも宿代くらいにはなるんだ。だから、農家も時々街に売りに来るくらいだが、それでも繁殖力が強すぎるからこうやって依頼が出るんだ」
「なるほどー」
そう言ってコップにビンからワインを注ぐ。ワインはそこそこ高いらしいけど、マサは依頼が上手く行ったとかで記念にワインを飲んでいる。まあ、他のマサの仲間三人 (一人は小柄マッチョなふけ顔のドワーフで、他二人はおっさんヒューマン) は普通にエールなので、単にマサのお金遣いが荒いだけかもしれないけれど。
「それに、頑張れば野菜貰えることもあるしの」
ドワーフが追加のエールをウェイターに頼みながら言った。
「それは良いなあ」
新鮮な野菜は高価なので、ここの所しなびているのを誤魔化した煮込みでしか野菜を食べられていない。まあ、葉野菜だと生だと虫が怖いからどのみち火を通すし、ギルド酒場の安い食事しか頼んだこと無いんだけど。
「ま、頑張れや」
マサの励ましに勢い良く頷くと、笑われた。何かがツボッたそうだ。




