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こうして、私は冒険者になった


 あの宿を選んで正解だったと思う。お金を節約するため雑魚寝 (一応男女は別れていた) の部屋を選んだら、物珍しいのか酒臭い先輩冒険者達が色々と教えてくれた。曰く、この街アルプは 『稼ぎ場』 までの中継地だから周りには強くてもゴブリン程度しかいない、とか。ギルドカウンターの右手の掲示板は依頼もあるけれどほとんど割に合わないものだから狩りをして獲物を買取所に持ち込んだ方が良い、とか。ギルドから信用されるようになると二階の割の良い依頼を受けられるようになる、とか。

 ギルドのあの女性が出した情報が抜けているのも雑魚寝部屋が殆どのこの宿を勧めるのもわざとで、先輩冒険者達と繋がりを作ったり、情報集めの重要さを知ってもらうためだそうだ。その思惑通り、私は色々教えてもらえ、頭が破裂しそうになった。特に、有用な薬草の種類。買い取りもしているらしいけれど、種類多すぎ。

 ともかく次の日、虎頭のお姉さん (女性、というよりお姉さん、といった色気の人) から教えて貰った、この街の良い狩場である東の森に矢筒と弓を背負い腰にナイフを差して向かう。そのお姉さんと仲間のマッチョなスキンヘッドのおっさんが心配なのか少し離れて着いて来ているけれど、まあ大丈夫だろう。

「っと」

 少し離れた所に透けた緑色のゲル状の物体がある。私はそれに近付くと、【収納】 から自作した木製のトングと小さ目の瓶を取り出して、トングでゲルの中心にある小さな丸い塊を取り、瓶の中にそれを入れる。ゲルはシュワシュワ音を立てて消えていくが、気にせず森へ。あのゲルは 『グラススライム』 というモンスターで、冒険者ギルドではその素材 (モンスターの使い道のある部位のこと) の買取はされていないけれど、私的には矢の材料にあの塊である核の中味が必要なのだ。

 森に着くまでにさらに四個のグラススライムの核を手に入れ、意識して足音を消しながら森に入る。少し離れた所に小さな白い影が見えたので、しゃがんで弓に矢を番え構える。影は兎。距離は少し近い。右手で矢を引き絞り、呼吸を止め、放つ。すると、狙い通り兎の胸に命中し、兎は倒れた。素早く矢をもう一本番え、少し待つ。兎は動かない。そろりそろりと兎に近付き、周囲に気を張り巡らせながら足で小突いて確認。うん、仕留めた。矢を矢筒に戻し、弓を背負って戦利品を 【収納】 へと入れる。兎は巣を作り、群れることもあるから周囲にまだいるかも。下草の食い荒らされ具合から見て他にもいるのが自然。そう推測して、弓と矢を準備して慎重に足跡を追う。

 この日は、二十匹兎が獲れるという大猟だった。




   * * *




「すごいんだよシーナは!」

 虎頭のお姉さんことドーラがそうエールのジョッキ片手に言い、私の頭をワシャワシャと撫でる。こそばゆいものを感じながら、私は牛乳を飲む。

 ドーラはギルドに併設されている酒場 (食堂では無かった) で、今日の私の狩りを擬音盛り沢山で語る。

「こう、な。シーンと動かないと思ったら急にシュババって矢を連続で放って、で、それが全部兎の頭にドンピシャなのよ」

 それを周囲の冒険者達はやんややんやと囃し、私の目の前にもっと食えと串焼きを積み上げる。これ、全部食べられるかなあ?

「マジかよ」

「俺も見てたからな。間違いない」

 ドーラと一緒について来ていたスキンヘッドのゴンがそう言うと、さらに場が盛り上がる。

「ねえ?」

 私はこらえきれずに串焼きを追加してきた金髪の青年に尋ねた。

「おお、何だ?」

「思いっきり私の戦い方とか言われてるんだけど、大丈夫かな?」

 まあ、奥の手はまだあるから良いんだけど、理性が襲撃が裏切りが、とか訴えてくるのだ。

「ああ、そのことか」

 青年は、納得行ったような表情で答えてくれた。

「冒険者は、助け合いだからな」

「助け合い?」

 言葉の意味は分かるけれど、どういうことかは分からない。

「ああ。何かあった時、互いに助け合うのに、基本的な戦い方が分からないと不便だろ? だから、奥の手以外はこうやって教え合うのが冒険者の基本なんだ」

 そう青年が教えてくれる側では、ゴンが自分ならこうだった、などと失敗談や今ならこう出来ると軽い自慢をしてドーラから突っ込まれて笑いが広がっている。うん、串焼きおいしい。

「なるほど」

 串焼きを飲み込み、答えた。

「それに、これで弓使いの人から色々教えて貰い易くなるでしょ?」

「…………」

 馬鹿話しているみたいだけど、そんな気遣いがあるのか。私は、村との違いに泣きそうになった。すると不思議なことに、青年がおろおろしだした。

「し、シーナ? どうした? 大丈夫か?」

「大丈夫で……」

 頬が冷たくて、泣きそう、では無くて泣いていることに気が付いた。

「ご、ごめ……」

 気が付くと、もう言葉が出なかった。

「どうしたの? ほら、お姉さんに言ってみ?」

 ドーラに横から抱きしめられる。柔らかくて、もういないお母さんを思い出した。

「あ、あのね……」

 そこから思い出す限りのことを言った。幼い頃から弓が出来たせいで狩りに出されたこと。両親が流行り病で死んだこと。両親が死んだ途端狩りのノルマを増やされたこと。優しくしてくれた人たちはみんな売られたこと。村の子供達に孤児だと馬鹿にされ続けたこと。四十近い村長に妾になるよう迫られたこと。拒否したら奴隷に売られそうになったこと。他にも色々言って大泣きしてしまった。

「しんみりさせてごめんなさい」

 しんみりとした空気になってしまったので、涙を袖でぬぐいながら謝ると、ドーラに頭を小突かれた。

「こら、子供が遠慮しないの」

「そうだぞ。それに、妾とか売られそうとかなら、俺も仲間だ」

 ゴンが笑いながらとんでもないことを言った。

「俺は娼婦の子なんだが、変態貴族の、もちろん男だぞ? 妾にされそうになって、で、逃げたら奴隷商に追い掛け回された。あんときゃ人生終わりかと思ったぜ」

「俺は農家の跡取りだったけど、村がオークの群れに襲われて逃げて、冒険者のおやっさんに助けられたんだ」

「私は商家の出だけど、実家が商売に失敗して売られかけたわ。冒険者になれたのは奇跡よ」

「俺は口減らしに村から追い出されて、日雇いで金稼いでなんとか冒険者になったぜ」

「私は奴隷商に買われて、あと少しで奴隷契約、って時に街がモンスターに襲われて、で有耶無耶になって冒険者始めたの」

「俺は……」

 にこやかに出てくる重い話の数々。励まされている、ということが分からないほど鈍くは無かったけれど、何故こんな話をするのか困惑する。

「あのね、シーナ」

 ドーラがゆったりと語り出した。

「冒険者なんて命がけの仕事、普通に生活している人はならないの。だから、みんなつらい過去や苦い思いを抱えているの。だから、私達冒険者は助け合うのよ」

「でも、まだ私何も出来てないよ?」

「それでも、将来は出来るでしょ?」

「それに、今日狩った兎は明日ここでシチューになるからな。料理長が言ってたぞ?」

 ゴンが嬉しそうに言った。

「そうだそうだ」

「俺達ゃ冒険者だからな」

「家族みたいなもんだ」

「みんな……」

 その心遣いが嬉しい。その在り方が美しい。私も、こうなりたい。

「ありがとう!」

 もう、冒険者に悪いイメージは無い。

 私は今日、冒険者になった。



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