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95/127

95 自分の世界が確立されている人は強いと言いますが

 さて。ある程度グラフィアスに向かう準備が整ってきたあたりで、レグルス王子とアルヘナ君に引きずられるエルナトがやって来た。

 え? どういう状況?


「おら、逃げんな」

「酷いじゃないか。抗議するぞ、出るとこ出たっていいんだぞぅ」

「本当にどういう状況?」


 ダメだ。一旦静観しようかと思ったが無理だった。悪い笑みを浮かべたままアルヘナ君は、エルナトを床に放り投げる。そしてそれを静観するレグルス王子。え、何したのこの人。

 ぽこぽこと湯気でも出しそうな緩い怒り方をするエルナトから一度目を離し、一番話が通じそうなレグルス王子を見る。


「一体何が?」

「時間が取れたので、エルナトがお二人にかけた加護について詳しく聞こうと思いまして」

「あぁ、なるほど」


 そういえば、私たちにかけられているのはヤバめの加護なんだっけ? 加護の力が強力過ぎて死ねなくなるとかなんとか。

 ピアウトスに向かった時はエルナトが一緒にいなかったので、加護について確認のしようもなかった。これからまた旅に出るわけだし、安全なお城にいて、且つ、エルナトがいる今しか尋ねるタイミングがなかったわけだ。

 一部には需要がありそうだが、生憎不老不死には興味がないので、旅が終わり次第加護を解いてほしいと思っている。


「大丈夫ですか?」

「聞いておくれよ。いきなりヘッドロックを決められたんだ!」

「そうでもしなきゃ逃げるだろ」

「暴力反対!」


 バイオレンスだなぁ。多少やりすぎな気がしないでもないけど、実際この人、目を離すと一瞬でいなくなるし、ある意味正しい連行方法だったのかもしれない。

 突然目の前で行われた寸劇に目を白黒させていたせいらちゃんが、ようやく事態を呑み込めたのか慌てた様子でエルナトの傍に駆け寄る。


「いたい? だいじょうぶ?」

「優しくしておくれ、今にも泣いちゃいそうだ」


 芝居掛かった調子で幼女にしなだれかかるエルナトに、レグルス王子が頭を抱えてため息を吐いた。

 なんというか、すごいなこの人。冗談なのか本気なのかはわからないけど、この状況でそういうことを言えるのはある意味強みだと思う。


「それで? あなたが二人にかけた加護ですが」

「ああ、二人が元気に返って来れます様にっていうおまじないだね」

「メレフ王は最悪、寿命ですら死ねなくなるとおっしゃっていましたよ」

「……うーん。あ、出力間違えちゃった?」


 えへ、なんて。照れたように笑ったエルナトにレグルス王子がまた頭を抱えた。本当にすごいなこの人。

 メレフ王曰く、実際出力が可笑しいだけで、加護自体には害意や悪意はないらしい。加護の本質は『怪我を無効化』。ただ些か強力すぎて、下手に加護を受けたままにすると死ねなくなる、と。……いや、出力の間違いで済ませて良いものではないな?


 今一、『怪我を無効化』が、『死ねなくなる』になる理由がわからなかったが、もしかしたら私の力みたいに悪いものを跳ね除けるのではないのかもしれない

 例えば、エルナトの加護は傷を修復する、みたいな。それなら怪我や病気で欠損した細胞を修復するから、ある意味不死にもなるわけだし。

 ……だとしたら本当に出力を間違い過ぎじゃない? 以前アルヘナ君がエルナトは適当だと言っていたけど、匙加減が苦手な人なのかな? 


「でもほら! 怪我の心配がないのはいいことだろう?」

「それと不死は別だろ」


 呆れながら小突くアルヘナ君にまたエルナトがへらりと笑う。

 確かに加護をかけたのは、私やせいらちゃんが怪我をしない様になんだろうが、大雑把なのか、ズレているというか。やっぱり魔法とかそういうものに傾倒していくと、倫理とか人の心とかが置き去りになっていくものなのかしら。


「とにかく、旅が終わったらきちんと加護を解くこと。いいですね? エルナト」


 レグルスに説き伏せられつつも、まだ「死なない方がいいのに」と呟くエルナトは、あまり反省はしていない。

 まぁ、メレフ王も、加護を解けば問題はないと言っていたし、所謂不死というやつも、加護がかかっている間の限定的なものなんだろう。いずれは解いてもらいたいが、まだやることがある以上、今じゃなくてもいい。……いいのか?

 ノーモンの砂漠に行った時以外、特別危ない目にもあってないけど、今後何もないとは言い切れないし? さすがにもう、一人で勝手に諦めたりするわけにもいかなくなったから。


「なんでおこられてるの? わるいことしちゃった?」

「うーん。悪いこと、なのかなぁ?」


 せいらちゃんに尋ねられ、エルナトが困った様に首をかしげる。確かに死にたくはないし、死なない様に手を回すのは悪いことではないけど、永遠に死ねないのは話が違うのよ。

 幼女に諭される成人男性を眺めながら微妙な気分になる。エルナトは、本当に悪気も悪意もなく加護をかけたのだろう。善意なだけに、何とも言い難い倫理観とか生死感のズレが大分浮き彫りになった気がするけど、大丈夫かなこれ。


「いっしょにごめんなさいする?」

「……うん。後で一緒に謝ってくれるかい?」

「いいよ!」


 いや、謝るの今じゃないんだ。




愉快なお兄さんの弁明。



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