↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
94/127

94 私の五歳の頃? 多分花壇の下のダンゴムシとか見てたよ

 イクリールの故郷であるグラフィアスに入国許可が出た。それは続いていた内乱が終わりを迎えたということであり、アヴィオールに身を寄せていたイクリール君が故郷へと帰還が可能になったということだ。

 詳しい事情は知らないしわからないけれど、目の前にいる少年は色々な事情に耐えてきたのだろうとは思う。


 先ほどまでこの部屋で行われていたミーティングでのイクリール君は澄ました顔をして真面目な話を聞いていた。

 普段から大人びた考え方をするところがあるし、無理をしていないだろうか。いくら大人びているといってもまだイクリール君は十一歳なんだ。不安の一つや二つあったっておかしくない。

 そんなことを考えながら、心を落ち着けるかの様に俯いたまま静かに呼吸を整えるイクリール君に声をかける。


「イクリール君、その」


 その先の言葉を続けるよりも先にイクリール君がぱっと顔を上げた。

 ナナの心配とは裏腹に、彼の表情は生き生きとしていて嬉しさがにじみ出ている。


「聞きました? グラフィアスに行けるんですよ!」

「う、うん」

「やっと、兄様たちに会えるんだ……!」


 嬉しくてたまらないというようなイクリールに、気圧されて、何を言おうとしていたか忘れてしまった。いや、思い詰めていないのならいいのか? とにかく嬉しそうで何よりです。

 ミーティングが終わり、なんとなく残っていたレグルス王子とアルヘナ君が顔を見合わせるのが視界の端に見えた。二人からしても、イクリール君がはしゃいでいるのは珍しいのか。


「僕の故郷なんです! あ、セイラ! 向こうに着いたら僕が案内しますね!」


 私の思考なんて気にも留めず、イクリール君はせいらちゃんの手を取り、もうすでに楽しみで仕方ないという様に笑う。

 なんともまぁ、幼い笑顔だ。年相応ではあるのだが、しっかり者のイクリール君からはあまり見られない穏やかな表情。うん。これは純粋に帰郷を喜んでいるな。

 もちろん内乱で傷付いた故郷の人々を憂う気持ちはあるんだろう。その上で純粋な気持ちを口に出せるのは幼さでもあり強さでもあると、私は思う。


「ああ、もちろんレグルスとアルヘナのことも兄様たちに紹介しますよ!」


 兄たちに自分の友達を自慢したい。可愛い妹分も出来た。と、嬉々としてお兄さんに話す内容を考えるイクリール君に微笑ましい気持ちになる。

 どうやらそう考えたのは私だけではない様で、部屋に残っていた後の三人も思い思いに感想を口にしていた。


「いっくん、うれしそうだね」

「ああ、珍しいね。いつも大人びているのに」

「完全に浮かれてら」


 好き勝手に言っているものの、皆表情が明るいのは本当に嬉しそうなイクリール君につられてだろう。これだけ嬉しそうにされたらこっちまで明るい気持ちになるよね。

 情勢が安定していない国に行くのだし、本当はもっと緊張感を持たないといけないのかもしれないけど。これだけ帰郷を喜ぶイクリール君がいるのだから、私たちくらいは彼の故郷への帰還を一緒に喜んだっていいはずだ。


「あ! そこ! 僕を仲間外れにして仲良くしないでください!」


 皆で一緒になって微笑んでいたら怒られた。

 イクリール君は最近よく仲良くするのなら自分も含めてほしいと言う。別に仲間外れにしているつもりはないんだけど、特にいつの間にか仲良くなっていたレグルス王子とせいらちゃんに自分も混ぜろと言い募っている気がする。

 レグルス王子よりも自分の方が先に仲が良かったのにと、ころころと表情が変えて拗ねるイクリール君を宥めるレグルス王子とアルヘナ君を尻目に、せいらちゃんがくふくふと笑いながら私の傍に寄って来た。


「せいらとれぐるすくん、なかいいんだって」

「そうだね。最近すっかり仲良しさんだね」


 嬉しそうなせいらちゃんに肯定すれば、さらに照れたように身をくねらせて幼女が笑う。


「あのね、せいらね。ナナちゃん、だいじょうぶかなっておもってたの」

「うん?」

「あっくんとおはなしできたかなって」


 あー……。そういうこともあったなぁ。ピアウトスでアルヘナ君と喧嘩……喧嘩? して以来タイミングを逃して話を出来なくて、きっかけを探していた時に、せいらちゃんの前で「アルヘナ君と話をしたい」とこぼした気がする。

 幼子にまでやきもきさせて、何やってるんだ私。本当に自分のことで、いっぱいいっぱいだったんだな。


「レグルスくんもおんなじだったんだって」


 知らない内に、レグルス王子とそんなやり取りをしていたのか。そりゃ仲良くなるはずだよ。

 賢い子だよなぁ。私の五歳の時とか、多分こんなに人のこと考えてなかったよ? 覚えてないけど。


「そっか。……それで仲良くなったの?」

「うん!」


 アルヘナ君と話を出来たのはお城に帰ってからだったけど、せいらちゃんとレグルス王子に随分と心配をかけたようだ。

 お礼と謝罪の意味を込めてせいらちゃんの頭を撫でればくすぐったそうに笑う。

 ごめんね、心配してくれてありがとう。これからはもうちょっとしっかりします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。