86 この後しっかり幼女に「可愛い」を要求されました
さて。難しいお話を終えて、特別この後の予定の無い私とせいらちゃんはルクバト君に声をかけて、数人の騎士さんたちと集落の散策を始めたんだけど。まぁ集落の皆さんの友好的なこと。
見慣れない風景に目を輝かせる幼女を見付けたマダムたちに手招きされて近付けば、あれよあれよという間に民族衣装の着飾られ、おじ様たちからは搾りたてのヤギ乳を渡された。
なんかすっごい歓待されてる。
気が付けばワイワイと集まって来たワディラムの住人たちと一緒にちょっとしたお祭りみたいになってきた。穀物を練って焼いたパンの親戚みたいな物やヤギ乳を楽しみながら集落の人と話す。
マダムたち曰く、私たちが来るのは事前にタラゼドさんに知らされていたらしい。加えてレグルス王子のお兄さんは集落で慕われており、その弟と一緒に来た人間だということで、私たちは歓迎されているようだ。
「お兄さん、人気者なんですね」
「ああ、リオサールは変な奴だけど気さくで腕も立つからね」
リオサール、と言うのはお兄さんの名前だろうか。そういえば、ちゃんと名前を聞いていなかった。名前と言えば、お兄さんはレグルス王子の呼び方も違う呼び方仕掛けていたし、何かあるんだろうなぁ。
タラゼドさんの計らいでレグルス王子とアルヘナ君は今お兄さんと話している。邪魔しない様にってせいらちゃんと外に出て来たけど、皆に構われて嬉しそうにしているせいらちゃんを見ると、正解だったかもしれない。
「そういえば、あんたたちはリオサールに会いに来たのかい?」
「リオサールさんがいるのは知らなかったんですが、渓谷の方に用事がありまして」
「なんだ、アイツと一緒に大鷲様を調べに来たんじゃなかったのか」
「大鷲様?」
「渓谷に住んでいるアタシらの守り神さ。リオサールは大鷲様の神事に熱心でねぇ」
なる、ほど? ミラムの水神様やトゥレイスの妖精みたいな感じなのだろうか。ともあれ、リオサールさんはワディラムの住人が信仰している大鷲様を大切にしてくれているので好感触と言うところもあるのかもしれない。
後、ワディラム周辺でも魔物の被害が増えているらしいが、皆腕が立つらしく被害は少ない。魔物出ると一番にタラゼドさんとリオサールさんが先頭に立って害獣の駆除に乗り出すのでそういうところも好かれる理由の一因なのだとか。
因みに駆除した害獣はその日の内に集落中の人に配られちょっとした宴の様になるとおじ様が教えてくれた。集落全体が大家族の様な関係みたいだなぁ。
そしてその大家族の中にいつからいるのかはわからないがリオサールさんも組み込まれている。
お兄さんが住人に慕われているのは喜ばしくはあるが、その間会えなかったレグルス王子としては複雑でもあるんじゃないだろうか。
「ななちゃん?」
「ん? ああごめんね。レグルスとアルヘナ君、お兄さんとお話出来てるかなって」
散々皆に着飾られて可愛い可愛いされて満足したのか、帰って来たせいらちゃんに意識を戻す。
色々、話せていたらいいなぁ。なんて思うのは、自分がそれを出来ていないからだろうか。結局馬車で声をかけるタイミングを逃して以来、相変わらずアルヘナ君とは話せていない。不思議そうな顔で見上げるせいらちゃんの頭を撫でる。いつの間にかヘアアレンジまでしてもらって、相当住人に可愛がってもらったんだろう。
そんなことを考えていたら難しそうな顔でルクバト君がそろそろと近寄って来た。
「ナナさんは多分知らないっすよね。あの方……レグルス王子の兄君は五年前に行方不明になったんです」
「そうだったんだ」
「俺も当時は訓練兵だったんで詳しくないっすけど、土砂崩れに馬車が巻き込まれてそのまま」
気まずそうに、けれど知っておいた方がいいのではと思ってルクバト君は話してくれたんだろう。
数カ月かかって回収できたのは当時リオサールさんが持っていた細々とした荷物だけだったらしい。そしてレグルス王子が取り立てられて今の立ち位置についている。
レグルス王子とアルヘナ君はお兄さんを慕っていて、行方不明にさえならなければ二人はリオサールさんを支えるために尽力していただろうとルクバト君は語る。
「なんかあった時のためにこれも知っておいてほしいんすけど、『レグルス』という名前は元々王位を継ぐ子息に付けられる名前なんです」
「……じゃあ、リオサールが本来レグルスと言う名前で呼ばれていたってこと?」
「そうっす」
ようやくリオサールさんと初めて会った時皆が妙な雰囲気になっていたのかと思い至る。
元々は王位を継ぐはずの兄に名付けられた名前だったが、リオサールさんが行方不明になったのでレグルスが名前と家督を継いだ。結果皆からすれば二人のレグルス王子が現れたことになる。戸惑いもするわ。
何もないのが一番なんすけど、なんて困った様に笑うルクバト君は、ミラムにいた時に仲良くなっていたようだしレグルス王子のことを心配しているんだろう。
「やっぱり王族って色々あるんだね」
返事はなかったけれどルクバト君が苦しそうな顔をした。
そういうのも含めてレグルス王子とアルヘナ君がたくさんリオサールさんと話せればいい。自分はアルヘナ君と話す機会を経ていないが、だからこそリオサールさんと話すことで、二人が一時でも肩の荷を下ろせればいいと願う。
最初の頃と同じ感想持ってるナナ。




